よみかき –よんで、かんじて、したためて–
柿木梓杏
本棚の前にて
並んだ背表紙を前に僕は軽く戦慄していた。
ふと目に入った高校時代に買ったミステリー小説を手に取ってパラパラとめくり、記憶を辿り、言語化してみる。何度か読んだ。結構覚えてそうだと思ったのだが、
(確かママ友たちが共謀して遺体を隠して逃げ切ろうとする話だったよな)。
以上。
…もっとこう、なんかあっただろう!逃げてる時の登場人物の心情とか、印象に残っているセリフとか!
別の一冊を手に取る。割と最近買った本だ。
(死と量子論の話だったよな。量子には情報が入っているとか)。
…。
え?それだけ?そうだっけ?こんなに厚いのに?
しかし、僕の頭からやっと絞り出されたのは上記のような2行かそこらで終わる程度の、感想とも言えないただストーリーラインの表面をなぞっただけのテキストのみだった。
さらに一冊を手に取る。
(あ、これまだ読んでないわ)。
…僕は今まで何を読んできたのだろうか。「読んだ」とは言えるだろうが、「吸収」出来ていると言えるのか。
戦慄どころではない、僕は確実に自分に失望している。そして沸き起こる怒りのような感情、いや違う、これは悲しみだ。僕は今自分に悲しんでいる。なんてもったいないんだ。こんなに読んでいるのに、出てきた感想(?)は3冊で3行半に満たない。薄めに薄めた内容でだ。うち一冊なんて読んだかどうかも忘れていた。愛想を尽かした伴侶が書くという置き手紙より短い。伴侶がどうこう以前に僕は自分に愛想をつかしそうなんだが。
このままで良いのかと自問する。良いわけないだろうが!頭の中で僕は空想の机をダンと叩いて勢いよく立ち上がり叫んだ。空想の中でだ。
僕は読書に時間を使って一体何をしていたというのだ!時間を使うということは、死に近付くということだ。命を削っているということだ。どこかから引用したような独り言が脳内に響く。事実、どこかからの引用に決まっている。こんなかっこいい言葉を自分がゼロから言えるわけがない。
しかしこれでは無駄ではないか。読書でゆるやかにすり減っていく残り時間。数十年というスパンで見ればそうでもないかもしれないが、チリツモだろう。
そういうわけで僕は感想文をなるべく書くようにしようと思い立った。なんなら読み終わった本をもう一回読んででも感想を書いていこうと思っている。そしてあわよくばそれらがお小遣いにでもなれば読み甲斐もあるというものだ。ちゃりんちゃりん。
よみかき –よんで、かんじて、したためて– 柿木梓杏 @CyanKakinoki
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