禍競り
292ki
第1話
鈴の音しゃらしゃら
夜闇より深い黒に包まれた会場の中。灯りにしては明らかに足りないカンテラの光がちらちらと揺れては、ぼおっと白く人の顔を浮かばせる。そういった演出、もしくは身元を誤魔化すための小細工だろうか。
浮かび上がった顔をひぃ、ふぅ、みぃ、と数えても数えてもキリがない。とにかく大勢が欲に目を眩ませ、雁首揃えて群れなしていた。私もその一人である。
「
隣から大人になりきらぬ幼い声に呼びかけられる。こちらを黒真珠のような艶やかな瞳でじいっと見上げるのは弟の
「なにも大したことは。強いて言うなら今日競り落す品のことを考えていた」
「ならば良いのです。しっかりと競り落としてくださいまし。それが
私の答えに満足そうに蝶四郎は頷き、再び顔を前に向けた。
「今宵、セイシン様は何を叶えてくださるのか」
「嗚呼、楽しみだなぁ」
「前は惜しいところで叶えていただけませんでしたからね。今日は多めに用意してきたんです」
「ほほ、良きことです。セイシン様もお喜びになられよう」
ひそひそ、ぼそぼそと風に紛れて話し声が聞こえてくる。欲に溺れた者共の声色は上ずって興奮を抑えられていなかった。それがさやさやと途切れることなく会場を満たしていく。
それらが唐突にピタリと全てが水を打ったかのように静まり返った。暗闇の奥から二足歩行の
「古今東西皆々様ァ!大変長らくお待たせいたしました。これよりはじまりまするのは禍競り、まがぜり〜ぃでございますゥ」
落雷のように野太い牛蛙の開幕宣言に会場がわっと色めき立つ。やんややんやと囃し立てる声を背に牛蛙はへこへこと頭を下げる。ひとしきり歓声を堪能した後、牛蛙は大袈裟に手を広げて声を上げた。
「それではこの禍競りの主催、セイシン様をお招きいたしましょう!」
牛蛙の呼び声に応えるように、ずるりずるりと濡れた音が聞こえてくる。闇の中より現れたるは全身が出来物に塗れ、そこからぐじゅりぐじゅりと色濃い
彼こそは畏怖を込めて「セイシン様」と呼ばれるもの。彼こそがこの禍競りの主催者。故に参加者はその姿をありがたがり、頭を下げる者までいるほどだ。
禍競りの参加者は正気では無い。皆が皆、想像も絶する鬼畜共である。私はこの者共を出し抜いて、自らの目的を果たさなければならない。
「準備はよろしくて?兄様」
「……ああ」
「禍競りぃ、禍競りぃ、
牛蛙の掛け声を皮切りに、禍競りの幕が開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます