小っちゃい貧乏神

桶星 榮美OKEHOSIーEMI

第1話 小っちゃな貧乏神

宝神ほうじんくん、発注伝票の数字が間違ってるよ

 150が151になってる」

「あっ、申し訳ありません係長」


「小さなミスが多いよ宝神くん

 まぁ大きなミスは無いけど

 でも新人じゃないんだから気を付けてよ」

「はい」


俺の人生は積んでいる

何もかも惜しいとこでズレる

福に見放されてしまった

それもこれも全てコイツのせいだ

俺の左肩の上で踊ってるコイツのせいだ


俺にしか見えないコイツのせいで

人生積んだ、人生終わりだ

この貧乏神のせいだ

ちきしょーミニチュア貧乏神がー!


ひと月前のあの夜・・・


********


「あれ?窓を叩く音?

 まさか、ここはマンションの三階だぞ

 窓を叩く奴がいるわけがない風だろう

 ・・・いや、確かに誰かが窓を叩いてる」


俺は恐る恐るカーテンを開いた


「なんだ、やっぱり気のせいか

 そうだよなぁ三階の窓を叩く奴なんて・・・

 ・・・なんか声がする?」


思わず窓を開けてしまった

それがまずかった

ああ、タイムマシンが有ったなら

俺は窓を開けようとする俺を羽交い締めにする

スリーパーホールドを掛けて気絶させる

何としても窓開けを阻止する


窓を開け声のする方へ視線を落としたら

奴がいた

汚い着物を着た親指サイズの小人こびと


「いやぁ俺は疲れてるんだなぁ

 幻覚が見えるなんて・・・

 もう寝よう休もう」

「おい、幻覚では無いぞ」


「ひぃー」

怖くなって窓を閉めようとしたら


「こら!閉めるな、中に入れろ」

と言いながら許可なく部屋に入り込んで来た


「なっなになに⁉何者⁉」

「ワシは神様じゃぁ」


「神様⁈こんな汚い小人が?」

「汚いのがワシのトレンドマークじゃ」


「はぁ?汚いがトレンドマークって

 いったい何神だよ

 ってか本当に神なのか?信じられない」

「フォフォフォ、ワシは貧乏神じゃ。

 信じようが信じなかろうが

 今からお前には不幸が降り注ぐ」


「なんで貧乏神が来るんだよ出てけ!」

「神に対して何という口の利き方」


「貧乏神は神じゃ無いだろうが!

 今すぐ消えろ!」

「それは無理じゃ、お前は神に選ばれし者」


「なんで俺が選ばれたんだ⁈」

「お前の名前は縁起が良いからだ

 宝神ほうじん幸多こうたとは

 実に縁起が良い良い、フォフォフォ」


「いやいやいや、普通は縁起がいいから

 福が舞い降りるものだろう

 なのに何で貧乏神なんだよ⁉」

「幸せな者を不幸にするのが

 ワシの使命であり生き甲斐じゃ~」


「なんだそれ、悪魔じゃんか」

「違う!神じゃ!」


「いいから出てけ!二度と来るな!」

「それはできん、もう既に取り憑いておる

 逃げられんぞ宝神幸多

 お前にロックオンじゃ~」


「はあーーー‼」


******** 


という訳で俺、宝神幸多29歳

彼女いない歴29年

絶賛、貧乏神に取り憑かれ中


毎日毎日、不幸が舞い降りる・・・


スマホのアラームが鳴らずに30分寝坊。

歯磨き粉と洗顔フォームを間違て歯磨き。

壁に足の小指をぶつけ激痛。

自動改札ゲートが突然閉まり下半身打ち付け。

ラーメン屋で店員が間違えて、

俺より後の客に配膳した。

女友達から突然の告白LINEで舞い上がり、

「ゴメン誤送信」で奈落に落とされる。

家からズボンのファスナー全開で出社

机に手をつき立ち上がろうとして、

手が滑りズッコケ同僚達に笑われる。

財布もスマホも忘れてコンビニで買い物し

レジで店員から舌打ち浴びる。

通勤電車で座ろうとしたら、

間違えて知らないオッサンの膝に座る。

ジョギング中に解けた靴紐を踏み自爆。

クシャミをして舌を嚙む。

即席ラーメンに玉子を入れようとしたら、

殻が大量に混入。

寝苦しいと思ったらパジャマが前後逆なのに、

朝になって気付く・・・。

会社のコピー機なぜか俺がコピーすると

毎回紙詰まりしてコピー機に呪われた男との

異名を付けられる。

喫茶店でアイスコーヒーを飲もうとして

ストローが鼻の穴に突入。


どれもこれも大したことは無い

どうやらこの貧乏神は小っちゃいので

訪れる不幸も小さいようだ。

だがこの地味な災難が一日一回起きる

そして災難が起きるたびに

左肩に乗っているミニチュア貧乏神が

満足そうに微笑むのが心底ムカつく


そんな日々が一年続いたある日

突然、ミニチュア貧乏神が

「飽きた、もうお前に取り憑くの飽きたわ」

 何かお前にはワシの力が充分に発揮できん」


「はぁ⁉これだけ毎日欠かさず

 俺に不幸を舞い落してるくせに

 力を発揮出来て無いだと

 ふざけるな!この貧乏神が!」


「神に向けて無礼な口を利く奴め」

「神たって貧乏神だろうが

 しかも小っちゃいミニチュア」


「うるさい!ワシは出ていくと言ったら

 出ていくんじゃ。

 泣いてすがっても出ていくからな」


いやいや、この世のどこに

貧乏神に取り憑いていてくださいと

頼む人間がいるんだよ

「そうですか、なら早く出て行ってください」

「ふむ、ではさらばじゃ宝神幸多よ」


こうして小っちゃい貧乏神は消えた

だが相変わらず俺は毎日

小さな不幸に見舞われている

そして思い出した

元々俺は幼い頃から運が悪かった

って事は・・・

この一年間の地味で些細な不幸は

小っちゃい貧乏神の仕業では無く

俺自身が持って生まれた運命さだめなのだ

ならば貧乏神に取り憑かれてた方が良かった

そうすれば悪いことは全て

ミニチュア貧乏神の仕業にして

自分が持って生まれた運の悪さを

忘れられたのに・・・

ああ、マジで

俺の人生は生まれた時から詰んでるわ




    ————おしまい————












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小っちゃい貧乏神 桶星 榮美OKEHOSIーEMI @emisama224

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る