東1局2本場

 青葉は麻雀で負けて清掃で負け分をチャラにしてもらうなんてことは日常茶飯事。


 せめて負け分を倍で取り返したいが、そうもいかない。ナリネコ達は通常なら考えられないあがりや鳴きで素早く局を進めていく。青葉が隙をつけるようなところがない。


 2回戦が始まる。丁度2回戦東1局がはじまる。親は青葉から始まったが配牌が悪い。字牌が多く白、發、中が1牌ずつ。そして東、西の牌にイーピンが2枚。おまけにメンツがそろっていない。


 しかしこれはいきなり国士無双を上がるチャンスでもある。


「(牌は悪い。でもこれなら狙える)」


 2巡目3巡目とお目当ての牌は来ない。しかし4巡目北牌、5巡目チューソー、6巡目、イーマン、7巡目イーソーと国士無双に必要な牌を青葉は引いてくる。


 そして青葉はローワンを切れば国士無双をテンパイというところまで行く。


 相手の手配から3人からどれもタンヤオの気配。上家の天狗は鳴きをサンマンポン、スーウーローマンのチーの2回、萬子で手を染めており、下家の幽霊は筒子と索子しか捨てていない。明らかに萬子待ちの気配。


 特に対家のナリネコの捨て牌にも萬子の捨て牌が少ない。


 ここに来て青葉は、ローワンは危険牌だと思ってしまう。


 結局国士をあきらめたのか青葉は東牌を捨ててしまう。しかしそれが仇。


「あらあら青葉ちゃん。親でその牌捨てるの? それも東1局で勿体ない」


 本来東場の親なら東のみでも2翻になるがこの状況で東牌は安全だという青葉の判断。青葉は国士無双を崩してでも流局か振込がない状況を作る自信があった。


「これでいい」


「ああそう、でもそれなんだよねえ」


「えっ⁉」


「ロン!」


 ナリネコの役は字牌だけの役。字一色。「(そんなバカな)」と思った青葉。ナリネコのイカサマを疑う。


「いきなりそんな役! イカサマじゃないか!」


「イカサマ? 青葉ちゃん何言ってるの。この進化した雀卓は防犯システムだってあるし牌も特殊だよ。東1局で役満あがられたからってイカサマを疑うなんて。これは偶然だよ。私の運が良かっただけ」


 進化した文明の中で雀卓もイカサマが出来なように徹底的な防犯システムに自動雀卓の改良。今の雀卓はほぼ全てマジシャン並みの手癖が悪い妖怪でさえイカサマは不可能な雀卓と化している。


 そのため、ナリネコがイカサマを疑われたことに対して上家の天狗も怒る。


「そう。それにあんただってさっきまで役満狙っていたでしょう?」


 3名が青葉の手配を見る。それにナリネコが反応する。


「国士無双をテンパイしているのにローマン捨てずに東捨てるってバカでしょ」


 そして3名が笑う。こうなって青葉の頭の中は狂う。精神的に病んでしまう。


 麻雀で負け続けたことが青葉を精神的に追い詰めたのだ。もうこれ以上麻雀の牌をまともに打てない。


 これでまた清掃タダ働き。青葉は負けすぎて泣きたくもなければ笑いたくもない無の状態と化した。


 そんな時だった。雷が鳴りだしたと同時に1人の客が入る。それにナリネコが青葉に反応する。


「ほら負け犬店員さん! 新規のお客さんだよう」


 その客は雨に濡れた状態で銭湯の室内に入る。

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