第2話 手紙

 それから、佑は寝た。

 寝て、寝て、寝続けた。

 寝る以外にできることがなかった。

 睡眠の合間に目を覚ますと、玄関の郵便受けに一通の封筒が入っているのに気が付いた。佑は退屈しのぎに、封筒が落ちる音で目が覚めたのだろうと推理する。

 ほとんどの郵便物は、アパートの出入り口の集合ポストに入れられる。部屋の玄関の方に届くとすれば、主張の強いチラシか、不在票といった急ぎの対応が必要な郵便物だ。または、メールを何日だか何か月だかチェックしていないから、何か重要な連絡かもしれない。例えば事務所からの解雇通知とか――。

 それから短い睡眠を挟んで佑が再び目を覚ますと、封筒はまだそこにあった。――寝すぎて眠れなくなってきたので、宙に浮いているような身体からだを動かして取りにいってみる。

 ……国際郵便? 誤配達か?

 と佑が思ったのは、宛名がアルファベットで書かれていたからである。

 しかしその名前は、『OTOGAYAオトガヤ Tasukuタスク』となっている。少なくともローマ字表記では佑の名前で間違いない。

 しかし佑は、名前をローマ字表記してくるような差出人に心当たりは無い。つまり差出人の名前は見ても分かるはずがないので、見ずに封筒を破り開け、中の薄い紙を取り出す。



 製造記号 192111090R+UEde

 通称   OTOGAYA Tasuku


 問題の発生によりインターネットを通じての連絡が不可能であるため書面にて通知。

 製造記号192111090R+UEdeの購入者が決定。二〇六八年九月十五日午前十一時に輸送業者が来る。



 ――やはり、誤配達だ。合っているのは名前だけ。

 近頃では、長期間動かさないと不具合が起きるAIロボットのメーカーと、き物件を持て余している不動産会社が提携して、AIロボットの在庫を空き物件に置くというビジネスが発達しており、佑の部屋にもAIロボット専用の充電設備があるほどだ。非常に邪魔である。

 佑は、近くの物件に『OTOGAYA Tasuku』というロボットが置かれていて、自分が偶々たまたま音ヶ谷おとがや たすく』という名前だから間違えられたのだと結論付けたが、わざわざ誤配達であると届け出る気力は無い。

 富裕層の遊びになど付き合っていられない。

 佑は開封済みの封筒と手紙を郵便受けに突っ込み、再び布団に潜った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る