再会⑩
俺も母さんも同じ気持ちだと思う。親父の口から兄貴の名前が出るなんて。あいつがいなくなってからこっちはせいせいしているというのに。父さんの中ではまだ兄貴のことを気にする気持ちがあるのか。
「へぇ。そんなに美人なんですか?」
「ああ。別嬪だったよ。孝人も気になるか?」
「はい。そんなに父さんが絶賛するほどの美人と聞けば」
「そうか。それじゃあ今度、河原さん親子との食事会をする機会を持つことにしようか」
「いいんですか?」
「河原さんに話をしておくよ」
「ありがとうございます」
チャンスは絶対に逃さない。そう決めていた。心の中でガッツポーズを決めながら、分厚い牛肉を頬張る。もしこれで美鈴と会うことができれば。それはもう運命だ。
十月下旬。俺は康介と柏木総合病院に来ていた。うちのグループの病院で、院長は康介の親父さんだ。康介の親父さんに呼び出されて、こうして二人仲良く院内を歩いている。
「ったく。親父のヤツ、俺と孝人を呼びつけてどういうつもりなんだか」
「俺は大方想像できるけどな」
「え。なに?」
「お前の進路だろ」
「一応ちゃんと勉強してるんですけど」
康介は苛々していた。何度か康介の進路のことで親父さんとやり合っていることは聞いていたから、その気持ちも分からなくはない。
でも俺は、康介の親父さんの気持ちも分かる気はする。康介の親父さんは、柏木総合病院の院長で医者だ。それはもう、立派な医者だ。欲や、金や、名声など、考えずに、人の命を大切にする医者だ。そういうわけで、病院の経営は、うちの柏木グループに全部任せている。
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