出会い⑬

「……あぁ。そうだな」

 

 少し迷ったが肯定することにした。康介に嘘を並べても仕方のない気がするからだ。

 

「そんなに良かったのか?」

 

 良かった?良かったといえば、良かったのかもしれない。だけどそういう身体的なことじゃなくて、心が満たされた気分だった。

 

「分からない。美鈴より良かった女なんて、これまでにもたくさんいる気がする。だけどなぜか、美鈴のことが忘れられないんだ」

 

 今でも脳裏に焼き付いている。美鈴の表情、美鈴の声、美鈴の体温。そのどれもが、何度でも俺の心臓を鷲掴みにする。

 

「孝人が女に対してそんなこと言うの、初めてじゃない?」

 

 康介の丸くて大きな瞳がさらに大きくなった。康介はどちらかと言えば可愛い系で、子犬のような愛くるしさがある。それが母性本能をくすぐるらしく、康介もモテるタイプだ。

 

「まあ、そうだな」

「孝人の初恋か」

「恋?これが恋ってやつなのか?」

「え。お前自覚症状なし?それが恋じゃないなら、一体なんだって言うんだよ」

「……知らねえ」

 

 唇を尖らせて、グラスへと口をつける。そして「恋」という文字を反芻させる。そして、すとんとなにかが落ちる。ああ。これは恋だったのか。

 

「そんなに河原美鈴のことが忘れられないなら会いに行ったらいいじゃん。連絡先とか交換してねえの?」

「交換してない」

「えっ。孝人なら狙った女を落せないことなんてないだろ。なんで口説かないの?」

 

 康介は心底不思議そうに言った。

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