サイドストーリー【カクヨム版】

茂由 茂子

第1章 女

女①

 いつもそうだったのかもしれない。どんなに努力をしても俺は脇役。いつだって主役になんてなれやしない。誰の中でもきっとそう。あいつらにとっても、初めから俺の存在なんて脇役だった。

 

 俺の下で女が乱れる。息遣いとも嬌声とも判別のつかない声をあげながら、その首筋を紅色に染めて筋をいきり立たせている。

 

 その姿を冷たい視線で見降ろしていた。身体の中心はこんなにも熱いのに。

 

「たかと!もう、むり!」

 

 俺の名前を呼ぶのは、名前さえ知らない女だ。その声を合図に動きを速めた俺は果てる。体だけ満たされる。こんな行為を幾度繰り返してきたのだろう。そして毎回思うのだ。「俺は何をやっているんだろう」と。

 

「孝人。なにか飲む?」

 

 お互いの身体の処理を終えた後、パンツ一枚でベッドに寝ころんでいると、女が気を利かせた。

 

「なにがあるの?」

「んー。ビールと水」

「じゃあ水で」

 

 冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出した女は、それをガラスのコップへと移して手渡してくれた。ペットボトルのまま渡してくれてもいいのに、コップを使うところにこの女の育ちの良さを伺ってしまう。

 

孝人たかとっていつもお酒飲まないよね」

「未成年だからね」

「それだけじゃないでしょう」

 

 ふふっと弧を描いた女の唇に口づけを落す。俺のことを探ろうとする女の唇は嫌いだ。こんなことをしながらもあいつのことを思っている自分に嫌気がさす。

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