異世界カタログ!〜ありとあらゆる世界の珍品、迷品、逸品は、物語の影の主役となりて世界を支配する!?〜

のりのりの

0-1 はじまりの物語り(1)

 穏やかな昼下がり。

 巨大な屋敷の中を、金髪長身の美しい青年が歩いていた。


 金髪の美青年は、長い長い廊下を時間をかけて歩いた後、ひとつの重厚な扉の前で立ち止まった。


 玄関で執事と挨拶を交わした後は、この部屋の前に来るまで誰とも出会うことはなかった。


 巨大な屋敷というよりも、小さめな城と形容した方が相応しい空間は人の気配もなく、ひっそりと静まり返っている。


 無人というわけではない。

 この屋敷、いや、この城の主が多くのヒトを抱えるのを嫌っているからだ。


 この城の主は少数精鋭を好んでいる。

 それは彼にもいえたことなので、使用人の少なさは全く気にならない。


 数は少ないが、とても優秀な使用人たちの働きにより、城内は常に美しく整っており、掃除も、管理も隅々まで行き届いている。

 文句などあるはずもなかった。


 扉の前に立つのは、長身のすらりとした若者だ。

 黄金に輝く金髪は眩しい輝きを放ち、碧色の瞳はとても鮮やか。ひきしまった口元に通った鼻筋。涼やかな美貌の持ち主だ。


 彼の立ち振舞は堂々としており、歩く姿は優雅でありながら、威厳を放っている。

 着ている服は蒼を基調としたもので、シンプルなデザインだが、最高級の布地が使用されている。


 金髪の青年は扉を軽く二度叩く。


 すると、中からサヨナキドリのような澄んだ美しい声の返事が聞こえた。


 青年は迷わず扉を開け、執務室の中へと入っていく。


 部屋の大きな窓辺では、青年よりも年下の美しい貴公子が佇んでいた。


 肩よりも少し長めな金髪は黄金色に輝き、幅広の碧色のリボンを使って、後ろで一つに束ねられている。


 たっぷりとフリルのついた純白のシャツは、襟元のデザインがとても優雅で、袖口のレースが素晴らしかった。絢爛豪華な刺繍がほどこされた長めの碧色のコートと同色の膝丈ブリーチに黒のトップブーツを組み合わせている。

 襟元にはクラバットが巻かれ、碧色の宝玉がはめ込まれたピンで留められていた。


 美しい貴公子は読書の最中だったのか、手に分厚い本を持っていた。


「いらっしゃい、お兄さま。時間通りですわね」

「当然だ。わたしの大事なイトコ殿を待たせるわけにはいかないよ」


 青年は貴公子を抱き寄せ、額と頬に軽くキスを落とす。


 少年のように美しい少女は頬を赤く染めながら、嬉しそうにはにかむ。

 蒼い瞳がキラキラと輝いていた。


「イトコ殿はご機嫌のようですね」

「はい。お兄さま、これをみてくださいな」


 少女は持っていた本を青年に渡す。


「……異世界……カタログ?」


 古代語で書かれた表紙の文字を口に出して言う。


「そうですの! これは、異世界でぱーとのツウハンカタログというものですのよ!」

「そのよう……だな」


 嬉しそうにする少女と、微妙な表情を浮かべる青年はとても対照的だ。


 青年は本の表紙をまじまじと見つめる。

 つい数か月間に、この本をとあるオークション会場で見たことがある。

 そのときは、この本は石化していたはずだ。


(いつのまに……。どういう経緯で石化を解呪したというのだ? そもそも、このことについて、どこからも報告がなかったのはどういうことだ!)


 どうやら、イトコ殿の抜け出しスキルがアップしているようだ。

 監視体制をまた見直さなければならない……。


「お兄さま! お兄さま!」


 青年の葛藤を知らぬ少女は、ニコニコと笑顔をふりまきながら、青年の腕にすがりつく。


「この異世界カタログ、とっても面白いのですよ。異世界の様々な商品が掲載されていて、欲しいものがあったら、この黄色い『購入する』と書かれた部分を押すと、異世界でぱーとからその商品が届くという、画期的カタログなのですよ!」

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