島亀様の背中の上でまったり村づくりスローライフ ~神様から神器を色々もらったので好きに生きたいと思います~
純クロン
第1話 スローライフに憧れて
「はあ……なんかもう疲れた……」
夜の砂浜で潮風に当たりながらぼーっと海の向こうを見続ける。
疲れた、そう疲れたのだ。学生の時からずっと競争社会で生きてきたが限界が来てしまった。
今までは対戦ゲームも好きだったが最近はプレイするのも億劫だ。時間が惜しいのもあるが、なにより勝ち負けがつくことが嫌になってしまった。
……今は無性にまったりできるゲームがしたい。
俺は子供の頃、牧場を経営するゲームや動物の村で暮らすゲームをしたことがある。
どちらも大きいイベントはなくまったりと過ごす、スローライフ系ゲームだった。
ぶっちゃけてしまうと最初は面白かったがすぐ飽きてしまった。 対戦ゲームに比べて刺激が足りず、あの時の俺には退屈だったからだ。
それに攻略サイト見て最高効率で金儲けして、見たいイベント最速で起こしてたのもすぐ飽きた理由かもしれない。
まったりをかなぐり捨てたプレイスタイルを、スローライフゲーで行う
今ならばわかる。あれらのゲームは戦わず大した目標もないからいいのだと。そして俺の遊び方が色々と終わっていたことも。そりゃすぐ飽きる。
「はあ……なんとなく故郷の海に帰ってきたけど変わってないな」
この砂浜は子供のころから何度も来た場所だ。最近、そういった思い出をなつかしんでしまう。
昔は海水浴で楽しんでいたものだが、今は波の音を聞くのが心地いい。このままリラックスした状態でハンモックで眠るとかよさそう。
ここでは色々な思い出がある。とくに印象深かったのは子供の亀を助けたことだろうか。
俺は砂浜で身動きがとれなくなっていた小さな亀を、海に返したことがある。いじめっ子こそいないが浦島太郎みたいだとはしゃいだものだ。
「浦島太郎なあ。竜宮城にでも連れてってもらえたら……いや爺さんになるのは嫌だな」
でも冷静に考えたら浦島太郎って夢がないお話だよな。普通に竜宮城で幸せに暮らしましたじゃダメだったのだろうか。
そもそも大歓迎されるよりも今はまったりしたい。ようはだ、
「牧場とか森でスローライフしたいなあ」
『承知したのじゃ。スローライフがしたいのじゃな』
誰もいないので海に向けて呟いていると、頭にそんな声がひびいた。聞いたことのない女の子の声だ。
「……疲れすぎて幻聴が聞こえ始めたか。帰って寝たほうがよさそうだ」
『違うのじゃ!? 幻じゃないのじゃ! 幻聴じゃなくて本聞こえなのじゃ! 返事くれなのじゃ!』
本聞こえってなんだよ本マグロみたいに言うな。自己主張の激しい幻聴だな。
試しに誰ですかと念じてみると、
『あの時に助けて頂いた亀なのじゃ。お迎えにあがりましたのじゃー』
浦島太郎さんよろしく、竜宮城にでも誘拐されるのだろうか。
『誘拐じゃないのじゃあ!? ほら以前に助けて頂いたおかげで別世界で島亀の神になれたのじゃ。なのでお礼に我の背でまったりしてもらおうかと。日光浴とか』
どうやら心が読まれているようだ。
しかし大きな亀の背中で甲羅干しとかいいなあ。まったりできそうで。
『じゃあ我の世界に来てくれるのじゃ?』
「そうですね。いつでも帰れて爺さんにならないなら」
『五体満足で帰すことを約束するのじゃ』
「じゃあ行きたいです」
『やったのじゃ! 一名様ご案内なのじゃ! もうキャンセルは受け付けないのじゃ!』
なんかキャッチセールスに引っかかったみたい。そう思った瞬間に海が蠢いて島が浮きあがってきた。
……? 海から島が浮き上がってきた……?
『じゃあ転移するのじゃー』
その声とともに周囲の景色が変わった。
見回すと周囲は砂浜ではなく草原で、遠くには山もある。見覚えのない景色だった。
ええと。ここ、どこ?
「ここは我の背中なのじゃ! ようこそ島亀の背中へ!」
後ろから声がしたので振り向くと、十六歳くらいの美少女がいた。髪の毛が軽くパーマがかかっているしエメラルド色に輝いている。なんとなくおっとりした雰囲気だ。
だがなによりも背中につけた亀の甲羅が気になる。
「えっと。ここどこですか?」
今までの会話的にこの娘が亀神、もしくは悪質キャッチーだろう。なんにしても敬語だ、とりあえず困ったら敬語だ。
相手を敬っておいて損はない。スーパーの店員が明らかに年下でも敬語を使うように。
「敬語はいらないのじゃ! なにせ貴方は我の命の恩人様じゃからな! 我の招待を受けてくれて感謝なのじゃ!」
さてどうしよう。微妙に会話が通じてないというか、質問の回答が返ってこない。
「えっと。ここはどこ?」
相手が敬語を不要というのでやめると、女の子は首をかしげる。
「ぬ? ここは我の背中じゃ!」
足元を見ても土に草が生えている。試しに地面を足で叩いてみても土で、とても甲羅には思えない。
「いやあの。そもそもここは島だよね?」
「うむ!」
「じゃあ背中じゃないよね?」
「いや我の背中じゃ! あ、我のこの姿は小さな分身であって本体じゃないのじゃ。なにせここは……」
遠くに巨大なナニカがいきなり出現した。それは山のように大きく、まるで天に伸びるかのような……亀の頭だった。
『島亀神たる我の背中なのじゃ』
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まったり会社の昼休みに読める話にします。
なので話の山や谷はないです。
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