第25話 少女とエロ猿
「私は怒っています」
早朝、ぐっすり眠ったはずのソフィアが怒っていた。
トビには思い当たる節があった。
「なぜ、起こさなかったのですか? トビさん、昨日寝てませんよね?」
「昨日は頭が冴えてたから、別に寝なくてもいいかなって。ソフィアほどじゃないけど、眠らないことには慣れているし」
スラムロックでは度々強盗などが流行るため、眠らないで自分の荷物を見張ることは珍しくなかった。強がりではなく、一日二日寝ないで活動するぐらいトビは余裕だ。
「トビさんは自分のことをなおざりにし過ぎです!」
(それは君もだと思うけど、ここは謝っておこう)
トビは「ごめんなさい」と頭を下げる。
トビとソフィアはどちらも自己犠牲精神が強い。他人が苦労することを良しとせず、自分が苦労することはまったく気にしない。両者がそうなのだから摩擦が起きるのは当然だ。このパーティに必要なのは優しさよりも我儘さかもしれない。
「もういいです。出発しますよ」
「ホント悪かったって。機嫌直してよ」
二人が荷物をまとめ、出発しようとした時だった。
「むぎゃああああああああっっ!!!?」
遥か上空から叫び声がした。岩壁の上の方だ。見上げてみると、
「なにがこっちから匂いがするよ間抜けザル!! 崖じゃないの馬鹿ぁ!!」
「匂いがするってゆうただけで道があるとは言ってないやろがい!!」
岩壁を、駆け降りる少女と猿がいた。
このままだとトビたちとぶつかる。トビとソフィアは彼女らを受け止めようとはせず、普通に避けた。
「ぎゃっ!!」
少女と猿は地面に激突する。そして勢いよく起き上がり、
「受け止めなさいよ!!」
「あ、ごめん。なんか大丈夫な気がしたから」
実際、猿は目を回しているが、少女はピンピンしている。
(あれだけの勢いで地面にぶつかって、ほとんど無傷。中々の強化術だ)
トビは冷静に金髪の少女の戦闘力を分析する。
「ちょ、アンタそれ……!?」
少女はトビの右手についた籠手を見つけると、「あーっ!!」と大声をあげて指さした。
「やっと見つけた! その籠手、よこしなさい!」
「え、嫌です」
「ふん! アンタの意思なんか知らないっての! 力づくで奪う!!」
少女は右拳を突き出す。トビは少女の拳を籠手を装備した右手で弾く。
「ん?」
トビは籠手からのぼってきた感触で、あることに気づく。
「今の感触……」
「なに、ぼーっとしてるのよ!」
少女の蹴りがトビの腹筋を捉える。
「くっ!」
トビは耐え切れず、4メートルほど後退させられた。
(やっぱりこの子、強い……!)
「トビさん! ――なにをするんですかあなた!」
ソフィアは風の刃を少女に放つ。少女は右手で印を結び、自身を囲むように円形の透明な壁を作って風を防いだ。
「
「やめいお嬢さん!」
ソフィアの真下から男の声が響く。
「ひゃっ!?」
ソフィアは、股下に生暖かい感触を感じ、艶声をあげた。
ソフィアのスカートの中に、猿が頭を突っ込んでいる。
「話せばわかる! まず話そう! な!」
「あ、いや……ちょっと……! どこにっ……! やめっ……!」
説得している雰囲気を出しながら、ソフィアの体をまさぐる猿。猿の暴挙を止めるため、金髪の女子が思い切り右足で猿を蹴り上げた。
「なにやってんのよエロザル!!」
「うぎゃあ!?」
少女が猿を蹴飛ばし、さらに追いかけ踏みつける。
「この馬鹿! マスターである私の品格が問われるでしょうが!!」
「勘弁しいやお嬢! ワイはただ戦いを止めたかっただけやで!」
「嘘つけぇ!!」
喧嘩する少女と猿。
「大丈夫?」
ソフィアと合流したトビが声を掛ける。
「は、はい。しかしあの人……」
「うん。強化術と結界術、二つの魔術を使えるね」
「それだけじゃありません。あのお猿さんとあの子からは同種の魔力を感じます。きっと、お猿さんは召喚獣……召喚術で呼び出したモノです」
「じゃあ召喚術まで使えるってことか。これは強敵だね」
「お嬢! このままじゃ消えるでワイ! さっきの落下ダメージが残っとるんやから! まず治してや! 治してからしばいてや!」
「あーもう、わかったわよ!」
少女は手から緑の光を出し、猿を回復させる。
それを見てトビとソフィアは目を見開く。
「そんな……あの子、治癒術まで……!」
「驚いた。全部の魔術を使えるのか……」
強化術、召喚術、結界術、治癒術。その全てを使える少女。だが――
「でもあの子、魔法は使えないよ」
「え?」
「さっき籠手で触ってわかった。彼女に耐性はない」
勇者の籠手は触れた相手の耐性の有無を判定できる。耐性のある人間は籠手で触れた時、ガラスのような手ごたえがあるが耐性のない人間にはそれがない。
トビの言葉を聞いた少女は「へぇ」と感心する。
「アンタ、ちゃんとそれ装備できてるみたいね。どういう理屈? それってお兄ちゃん以外装備できないはずだけど」
「お兄ちゃん……?」
「そうよ。私のお兄ちゃん、勇者の籠手よ。それはね」
「勇者の……妹!?」
少女は腰に手をつき、声高に自己紹介を始める。
「その通り! 私こそ勇者の妹! イヴン=シャオンベル!」
「そしてぇ! 最強の召喚獣にして最高のイケメン! ヨタマル!」
「「よろしくネ!!」」
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
皆様からの応援がモチベーションになります。
何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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