第23話 エルフ編 終幕
「ソフィアを……? えっと、もちろん僕としてはソフィアが仲間になることはとっっってもありがたいことですが、なぜソフィアを僕に預けるのですか? あれだけ優秀な子、手放すのはエルフの皆さんにとって大きな損害でしょう」
「ソフィアは前回目を覚ましてから今日まで不眠で動いておる」
「!?」
「なんじゃその顔は。当然じゃろう。ソフィアの睡眠耐性は消えておらんのじゃからな。おぬしと離れればまたソフィアは眠れぬ日々を過ごすことになる。だが、おぬしと共に行けばその籠手の力で眠ることができる。ソフィアのためを考えるならば……おぬしと一緒に旅へ行かせてやった方がよい」
苦渋の決断であることはマロマロンの表情を見てわかる。
「それなら……やっぱり僕がエルフの皆さんと一緒に」
「それはいかん。自分のせいでおぬしに無理をさせていると知れば、ソフィアが責任を感じるじゃろう。あやつは人一倍責任感が強い」
短い付き合いだが、トビもソフィアの責任感の強さは理解している。自分のせいでトビが行きたくない土地へ移動した……と知れば、ソフィアは強く自分を責めるだろう。
「あやつにはこれまで無理を強いてきた。あやつの耐性に甘えて四六時中里の警護を任せた。もうこれ以上……あやつをこの里に、エルフの宿命に縛りつけたくないのじゃ」
マロマロンは深々と頭を下げる。
「頼む。ワシの大切な
マロマロンの発言を受け、トビは一瞬呼吸を止めた。。
いま、聞き間違いでなければ、マロマロンはソフィアのことを
「む、娘……? いま、ソフィアのことを娘と言いましたか?」
「言った。おっと、誰からも聞いておらんかったか?」
「聞いてません! え? ソフィアと里長は親子だったのですか!?」
「そうじゃ。ちと前に人間の男と年甲斐もなく恋をしてのう。つい子を孕んでしまった」
「あの……脳の理解が追いつかないのですが。ソフィアはじゃあ、人間とエルフのハーフなんですか?」
「そうじゃ。ハーフエルフというやつじゃな。だから他のエルフに比べ耳が短い」
確かに。とトビは思う。
ソフィアの耳は尖ってはいるものの、他のエルフに比べ長耳ではない。ゆえに耳当てで耳を隠せている。
「というか」
トビは改めてマロマロンを見る。
この10歳~13歳程度にしか見えない容姿で経産婦……トビはソフィアがハーフエルフという事実よりマロマロンが経産婦という事実に驚きを隠せなかった。
いかんいかん。とトビは思考を本筋に戻す。
(眠れないのは辛い。でも、同族の人たちや親と離れるのも同じくらい辛いはず――)
トビは、マロマロンの遥か背後……診療所の窓に、華奢な女性の肩を見つけた。ついでに銀色の髪とエルフにしては短い耳が見える。
トビは小さく笑い、
「わかりました。ソフィアは僕に任せてください」
「助かる。ソフィアにはワシから話しておこう」
(その必要はないと思うけど……まぁいっか)
マロマロンが帰る素振りを見せると、窓に映っていた人影が慌てた様子で去っていった。
---
春枯の月・1日。
春が始まって二か月が経過した。春の終わりと、夏の始まりの狭間の月。その月初めに、トビは第二の旅立ちを迎えようとしていた。
「お世話になりました」
里の結界の前。トビは見送りに来たエルフの面々に頭を下げる。
「こちらこそじゃ」
「じゃあな俺たちの英雄!」、「助けてくれてありがとう!」、「また会おうね!!」とエルフ達は続々とトビに別れの挨拶をする。
「お待たせしました」
トビの前に、荷造りを終えたソフィアがやってくる。
「ソフィア……もう大丈夫なの?」
「はい。別れの挨拶は済ませました」
ソフィアは里長であり己の母親であるマロマロンと向き合う。
「里長、行って参ります」
「うむ」
と、淡泊に挨拶を終えた二人だったが、
「……」
「……」
互いに見つめ合っている内に、両方ともウルウルと瞳に涙を溜め始めた。
「い、行きましょう! トビさん!」
「え? いいの? もっとお母さんと話したら?」
「無用じゃ! 早く行け!」
こういう強がりと言うか、強情なところは似ているな~とトビは困り顔をする。
ソフィアが結界の霧を風で晴らす。ここを通ったら、もう後戻りはできない。
トビは撤去作業の進むエルフの里を見る。
「さようなら」
あと数日と経たず消えてしまう里に、最後にそう言った。
結界を出た二人は樹海を歩いていく。
「トビさん、ちなみにこの旅の目的ってあるんですか?」
「いやぁ、それが特に無いんだよねぇ。とりあえずスピカ王国に行って、それから考えるつもりだよ。ソフィアはどうなの? なにか目的はある?」
「私は耐性を消す方法を見つけたいです。睡眠耐性……この耐性を消して、一人でもちゃんと眠れる体になりたいです」
「そっか。わかった。スピカ王国に着いたら調べてみよう。僕もできる限り手伝うよ」
「ありがとうございます。でもあまり気になさらず。これはあくまで私個人の目的なので」
二人の向かう先には大きな山がある。その山を越えた先はスピカ王国の領地だ。
――――――――――
【あとがき】
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