第21話 サムライプライド

「我が奥義、受けてみよ」


 ガロンが覇気を放つ。トビは反射的にガロンから距離を取った。

 ガロンは、距離が8メートル以上あるにもかからわらず抜刀した。トビは刃が自分まで届くはずがないと思いながらも、先ほどと同じく籠手で首を守る。


 籠手に、刃が届いた。


 トビはまた強烈な衝撃を受ける。今度は堪えたが、横に1メートル動かされた。


「剣圧を飛ばす我が奥義、神追閃しんついせん。神すらも捉える斬撃だ」

(斬撃を飛ばす? 違うな。今の攻撃、確実に横から来ていた。斬撃を飛ばすのなら、正面から来るはずだ)


 トビは、自分より3メートル横にある無傷の柱を見る。


「……」


 ガロンはまた抜刀の姿勢に入る。


「これで終わりだ」

(反射で反応するのは不可能。だけど、相手の鞘の角度、向きから攻撃の角度は見える)


 トビは籠手をわき腹の横に置く。ガロンが抜刀するも、また籠手に弾かれる。


「後は攻撃が来る場所にガードを置けばいい」

「やはり斬れないか。良い籠手を持っているな」


 ガロンは抜刀態勢に入る。


「たしかに、鞘を見れば攻撃の来る場所がわかる。防ぐことは容易い。一撃ならばな」


 トビの背筋に、ぞわりと悪寒が走る。


「……神追閃、十光じゅっこう


 ガロンの抜刀。またトビは籠手で防ぐも、横に飛ばされる。間髪おかず、またガロンは抜刀態勢に入る。そしてすぐさま抜刀。トビは籠手で防ぐがまた怯まされる。それをさらに八回繰り返された。トビは全部防ぐも、最後は攻撃の衝撃で壁にめり込まされた。


 ガロンの右手が、ビリビリと攻撃の反動で痺れる。


「これすらも防ぐか。中々の体術だな」

「今のでわかった。飛ぶ斬撃の秘密」

「……なに?」

「あなたの耐性、鉄でしょ?」


 立ち上がり、トビが指摘すると、ガロンは表情から余裕を消した。


「最初におかしいと思ったのはあなたの武器が刃こぼれしなかったこと。実際には刃こぼれはしていて、その度に鉄を魔法で生成し、修復していたんだ。次に引っかかったのは斬撃が横から来ていたのに、僕の横にある柱に傷がつかなかったこと。あなたは僕に刃が届く直前で鉄魔法で僕まで届く刃を作り、そしてヒットすると同時に魔法を解除。一瞬で鉄を消していた。凄まじい抜刀速度と納刀速度は、刀の重さが柄の分しかなかったため」


 ガロンは柄を鞘から抜き、トビに見せる。


「正解だ」


 柄には鞘に引っかけられる程度の僅かな刃しかなかった。


「抜刀術はそのトリックを隠すため、ですか」

「そうだ。まぁわかったところで意味はない」


 ガロンは鞘をトビに向ける。トビは相手がやろうとしていることを察し、身をかがめる。ガロンの鞘から伸びた刃がトビの頬を掠めた。そしてすぐ、刃は消える。


「これからは抜刀術にこだわらない。鞘の向きから斬撃を測ることはできんぞ」

「いいよ別に。次はちゃんと見切るから」


 トビは全身の魔核コアを閉じ、龍王核ヴリトラを自覚する。


「開け……龍王核ヴリトラ


 トビは左瞼を下ろし、右眼に龍氣を灯す。


(一度の開門で捻出できる龍氣は僅かだ。纏えて二か所。まずは右眼に纏って視力を極限まで強化する)


 トビは右手を二度慣らすように振る。


(相手の筋肉の動き、呼吸、目線。一つ一つの機微を観察して、タイミングと攻撃個所を割り出す……!)


 トビは龍氣の力でガロンの数秒先の未来の動きを予知する。

 ガロンは予備動作なく、上から刀を振り下ろした。トビはタイミングを合わせ、籠手の拳を伸びた刃に当てる。


『良いかトビ。ワシがこれよりおぬしに教えるのはカウンター技じゃ。戦士の基本的な技であり、最も奥が深い技じゃ』


 トビはマロマロンとの修行を思い出す。


『相手の攻撃に己の武器や防具を合わせ、相手の攻撃の衝撃をそのまま返す技。完全完璧一瞬刹那のタイミング、相手の攻撃がクリーンヒットする瞬間にこちらから迎え撃つ形で防御する。失敗すれば相手の攻撃をモロに受けるが、成功すれば相手を大きく怯ませることができる上、相手の攻撃の衝撃を完璧に受け流せるからすぐに次の攻撃に移れる、ハイリスクハイリターンの技じゃ。その名も――』


 トビは手の甲と刃が当たった瞬間、籠手をクルッと回転させ、螺旋の衝撃を刃に与える。


因果応報ブレイク!!」


 相手の攻撃の衝撃を反転させ右手に直撃させる。ジャストガード、パリィ、弾頸と呼ばれる戦士にとって基本となる技。しかし、巧みに扱える者は少なく、戦士としての才能が問われる技でもある。

 ましてやガロンの高速の太刀だ。これをジャストのタイミングで弾くのは至難の技である。成功させたトビに無類の戦士の才能があることは言うまでもない。

 ガロンは衝撃から刀を手から零した。

 ガロンはすぐさま左手を刀に伸ばすが、それより前にトビは左手で右手の籠手を外し、龍氣を左手に纏った。

 トビは籠手を振りかぶり、投げる。籠手はガロンの胸を貫き、ガロンのはるか後方の壁に突き刺さった。


 心臓は壊した。


 トビは勝ちを確信した。


 だが、ガロンの眼はまだ死んでなかった。


 ガロンは刀を拾い、居合の構えをした。

 サムライの意地。トビが見誤ったのはガロンのプライドの高さ。勝ちへの飢え。

 トビは動けなかった。龍氣を使ったことで全身を疲労感が襲っていた。とても、次の抜刀は防げない。死を確信するトビ。ガロンは神追閃を繰り出す。確殺の一撃――


――だが、


 刃は、トビの首に当たる直前で四散した。

 ガロンが死に、刃を形成していた鉄魔法が解けたのだ。

 ガロンは、居合切りの構えのまま、立って絶命していた。


「見事だ」


 トビは心からの称賛を送る。


「勝負は僕の勝ちだけど、意地はあなたの方が上だった」





 ――――――――――

【あとがき】

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