第16話 愚かじゃないよ

 トビの腕を覆うように、琥珀色のオーラ……龍氣が纏わりつく。


(これだけ魔力を消費してこんな少ししか龍氣を取り出せないなんてね)


 V・タイタンが再び轟声を出す。エルフ達は動きを封じられ、ソフィアも魔法の発動を止められてしまった。

 V・タイタンの視界を塞ぐ砂塵がなくなる。


「待たせたな! ヒューマン!!」


 トビの右腕の龍氣に気づかぬほどV・タイタンは疎くない。

 V・タイタンはトビの右腕を見て、口角を裂き広げた。


「よかろう」


 それがトビの奥の手であるとわかっていて尚、V・タイタンは受けて立つ。

 V・タイタンは右拳に魔力を集中させる。


「こちらも全力の一撃で応えてやる!!」


 V・タイタンが右拳を引き絞る。

 トビも右拳を引く。


「皆の衆! 暴風の鎌射太刀ノトスの準備じゃ!!」


 マロマロンの指示でエルフ達は風を練り始める。


「ゆくぞ!!」


 トビに向けて、右拳を出すV・タイタン。


「トビさん!!」


 轟音が鳴る。

 V・タイタンの拳が、トビのいた岩壁の穴に突っ込んだ。

 V・タイタンは右拳から返ってくる感触に、眉をひそめる。


「なんだ、この手応えの無さは……!」

「――悪いね」


 トビは、V・タイタンの背中に籠手を引っかけてぶら下がっていた。


「巨人と力勝負するほど愚かじゃないよ」


 トビの足には龍氣が纏ってある。龍氣はパワーを使い果たし、塵と消える。


「貴様……! 龍氣を直前で腕から足に流したのか!! この、卑怯者め!!」

「だからなに言ってるか聞こえないって」

「今じゃ!!」


 暴風の鎌射太刀ノトスが発動する。

 暴風の太刀が、無耐性のV・タイタンの口を裂き、心臓を裂き、頭を真っ二つに分けた。


「ぬおおおおおおおおおおっっ!!!?」


 V・タイタンはその巨体を倒し、指の先から黒い塵になり――消失した。


「おとと!」


 トビは足場を失い、地面に背中から落下する。


「あはは……龍王核(ヴリトラ)を開いたせいか、力が入らないや……」

「トビさん!」

「トビ!!」


 満身創痍のトビに、ソフィアとマロマロンが飛びつく。


「ごはっ!?」

「よくやったぞトビ! おぬしというやつは本当に……」

「ありがとうございますトビさん……! これで……私たちエルフは解放されました!」


 エルフ達がトビに感謝の言葉を告げるが、トビの鼓膜は破壊されており一切聞こえてない。

 なによりトビは自分の体が心配だった。


(やばいなー。背中の感覚が無いや。良かったぁ、激痛耐性があって。なかったらどうなっていたことか……!)


 トビはしばらく立ち上がることすらできなかった。



 ---



 それからV・タイタンが消滅した報は里中に届いた。

 すでに昼過ぎだったが、エルフ達は歓喜し、すぐさま宴の準備を始め――夕方には宴が始まった。


「……」


 ツリーハウスの屋根の上からトビは宴の様子を眺める。

 左腕と背中は治療術でも治しきれず、腕と体に包帯が巻いてある。


「耳は大丈夫ですか?」


 ソフィアが背後から声を掛けてきた。


「うん。まだちょっと聞きづらいけどね。明日には全快するってさ」

「それは良かったです。料理を運んできました。どうぞ」


 ソフィアは皿をトビに渡す。

 皿にはグツグツに煮込まれたクワガタや蜂が入っていた。


「……ソフィアは昆虫料理好きなの?」

「大好きです」

「そっか。善意、なんだね。いただくよ」


 トビはクワガタの殻を剥き、中の身を食べる。


「……おいしい」

「ですよね!」


 目をキラキラと輝かせる銀髪少女の前でまずいとは言えまい。


「いいんですか? 里の英雄がこんなところにいて」

「祭りは遠くから眺めてるのが好きなんだ」

「いま下に降りればエルフの美人たちがもてなしてくれますよ」

「はは。それはとてもありがたいけど、どっちみち祭りに参加できるほどの体力は残ってないよ。それに、美人ならここにもいるしね」


 トビはソフィアの青い双眸を見て言う。ソフィアは赤くなる頬を見せないよう、トビから顔を逸らす。


「……トビさんはロクな死に方しませんね」

「なんで?」


 エルフの里の祭りは明け方まで続いた。




 ――――――――――

【あとがき】

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