第13話 お買い物 その1



「……で、なんでアタシが、わざわざ休日にアンタと買い物に出なきゃいけないわけ?」


「まあまあ、そう言うなよ。マグナ教諭の頼みじゃないか」



 マグナ教諭の元を訪れてから2日後。

 週末になり、休みができた俺たちは、マグナ教諭の頼みで、買い出しをするため、王都エクサスへとやって来た。



「いや、アンタは担当のクラスだから分かるけど、なんでアタシまで……」


「仕方ないだろ? 昨日廊下を偶然歩いてたところを呼び止められたんだ。仕方ない仕方ない」


「……妙にノリノリね」



 訝しんだ眼で見られ、少し動揺しそうになるが、なんとかそれを隠す。

 もちろん、今回の買い出し、偶然などではない。

 マグナ教諭に頼み、アリシアと出掛けるキッカケを作ってもらったのだ。




〜〜〜



「協力者になれ、というのかい?」


「ああ、俺は転生したばかりで、まだ現代に慣れてないんでね」



 俺の二つ目の条件の理由

 それは、「情報と交換に、俺の協力をしてもらうこと」だ。


 俺は記憶が戻ったが、自分でも言うように、いち学生の身でしかない。

 立場的に、色々とできることが限られている。そこを、マグナ教諭の『教師』という立場で、色々と便宜を図ってもらうことにした。



「ふむ……、まあ、転生魔法や、色々な情報がもらえるとするなら、悪くない条件だ」


「そうだろう? どうだ、条件、飲んでもらえるか?」


「いいだろう……ただし、たまにでいい。私の手伝いもしてもらいたい」



 手伝い? いったいなんだ?



「この研究室は、私しかいなくてねぇ……助手の1人もいないのだよ」


「ああ……ようは、細々とした作業の手伝い、か?」


「そういうことだ♪」



 ♪を付けるな。見た目は若いが、いい年したオッサンがやってると思うとキモい。



「まあ、俺もそれで構わない」


「では、交渉成立……だねぇ」



 よし、これで、この時代でも動きやすくなるぞ。




「それで、さっそくなんだが、少し頼み事をしたい」




〜〜〜




 というわけで、マグナ教諭に指名してもらって、アリシアと買い出しに来れた、ということだ。



「名付けて、『青春大作戦(友達作り編)〜まずは一緒にお買い物を〜』だな」


「なに1人でブツブツ言ってるのよ? ほら、さっさと行くわよ」


「ああ、すまない。まずは……マンドラゴラの根っこと――」




          *




「ふぅ、これで半分ってところか」


「あーもう!どんだけ買うものあるのよ! もう両手が塞がってるわよ!?」



 昼下がり。朝方から始めた買い物は、数時間経っても、まだ半分を少し超えた程度だ。

 ……マグナ教諭め、ついでとばかりに、色々と本当の買い物も頼んだな?



「少し持とうか?」


「舐めないで、これくらい持てるわよ」


「そう言うが、少し疲れてるように見える。休憩ついでに昼飯でも食おう」



 なにかちょうど良さそうな店は……。



「あそこのカフェなんてどうだ?」


「ん、中々オシャレそうな店じゃない。いいわね、もうお腹ペコペコだったのよ」


「よし、さっそく行くとしよう」



 目当てのカフェへと赴き、店員の案内を受け、テラス席へと案内される。

 膨れ上がった荷物を置き、ようやく両手が解放される。



「はぁ〜、ようやく座れたわね」


「色々な店を回っていたから、歩きっぱなしだったもんな」


「もうおかげで足がパンパンよ! マグナ教諭に報酬でもふんだくってやろうかしら!」



 文句を言いつつ、メニューを眺める。

 お、このパスタ美味そうだな。



「よし、俺は決まった。アリシアは?」


「え!? あ、アタシは……」


「まだ決まってなかったか? 急かしたみたいですまん」


「あ、いや、うん、だ、大丈夫よ!」



 なにやら慌ててるな。

 アリシアの持つメニューの方をチラッと覗くと、そこには……。



「『にゃんにゃんストロベリーパフェ〜春の肉球祭りだにゃん〜』……?」


「あ、ちょっ! 勝手に見るんじゃないわよ!」


「なんだ、それが食べたいのか?」


「ギクっ」



 また口に出してる……、この時代は擬音を口に出す風習でもあるのか……?

 アリシアは、少し頬を赤らめ、観念したように開き直る。



「えぇ、そうよ! 悪い!? どうせアタシにはこういうファンシーな可愛い食べ物は似合わないわよ!!」


「いや、そんなことはないと思うぞ」


「……え?」



 怒鳴り声から一転、呆けた顔でこちらを見る。



「ア、アタシみたいなガサツな女には、こ、こんなの似合うわけないでしょ!」


「そうか? アリシアは女の子らしいと思うが……」


「〜〜っ!!」



 さらに頬を赤らめ、俯くアリシア。

 なんだ? 怒らせてしまったか? それはまずい、なんとか機嫌を取り戻さなくては。



「ほら、さっき俺がマンドラゴラに暴れられて、土で汚れた手を洗ってる時もハンカチを貸してくれたし……」


「あぅ」


「それに、今日の服装も、とても可愛らしいじゃないか。薔薇のような、綺麗な真紅のワンピース。アリシアの情熱的な性格や、その綺麗な赤髪ともマッチしていて――」



 そこまで言ったところで、アリシアはテーブルをバンっと叩き、立ち上がる。



「も、もう……いいから!」


「ん? なんでだ、まだまだアリシアの女の子らしいところは……」


「も、もう分かったから!」



 アリシアの顔が、ワンピースにも負けないくらい真っ赤に染まっている。

 熱でもあるのか?



「よくあんなスラスラと……」


「ん? なんか言ったか?」


「なんでもないわよ!!」



 また怒鳴られてしまったが、まあ、よく考えれば、いつものことか。

 とりあえず、注文を済ませてしまおう。このペースだと、寮の門限までに帰れるかどうか……。

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