雑草聖女 第2話 街でもどこでも草生やす
切り裂く! 切り裂く! 切り裂く!
次々と現れる雑草どもを両手で構えた大型の凶器にて切り裂いていく。
横から飛び出してきた相手をすれ違いざまに切り裂き、背後より伸びてきた凶手を振り返りざまに斬り捨てる。
私が両の手で握っている凶器は、長い柄の先に湾曲した刃が存在を主張する大鎌。
専用に強化の施された大鎌は羽のように軽く。鋭い刃は新たな血を求めるようにギラリと輝いている。
周囲に築かれた戦果を見回してニヤリと笑っていると、目の前に新たな犠牲者が現れた。
当然斬り捨てんと鎌を振りかぶった時、私の闘争に水を差す第三者が現れた。
乱入者は良い服を着たチビに帽子を被ったノッポと鉢巻きをしたデブの、子ども三人組である。
「やーい! 今日も草刈りか~? この雑草女!」
「やめようよ~、また草を生やされちゃうよ~」
「へへ! あの女が草を生やせるのは近くにいる奴にだけだから、これだけ離れていれば平気だぜ!」
「そうなの? じゃあえ~っと、雑草女さ~ん、お疲れ様で~す!」
「それは、ただの、あいさつ、なのでは?」
チビはこちらを指さしながら、勝利を確信した顔で叫んだ。
止めるノッポに対して、ご丁寧にこちらに聞こえる大声で説明している。
「むむ……」
全く、人が良い気分で無双ごっこをしているのに邪魔をしてくるとは……。
乱入者達の言葉に、ハイになっていた私の気分は平常に戻ってしまい。手に持っている草刈り用の大鎌からは草の汁の香りが漂ってくる。
私が草原に現れ、街に来てから一ヶ月が経った。
あれから自分で生やした草を売り込み、何とか生計を立てている。ソウルライクな異世界で戦って生計を立てようと思うほど無謀ではない。初見殺しでワンアウトしたら終了のクソゲーをプレイする気はさらさら無いのだ。
私の生やす草は、ただの草ではなかったらしく。
潰して塗るだけでケガに効く薬草だったのだ。流石は人を異世界に飛ばすような存在の与えてくれた能力である。お陰で定期的に買ってくれる薬屋のお姉さんには気に入られており、薬の作り方を教えて貰ったりしている。
話をこちらを指さして色々言ってくる元気な子ども三人組に戻そう。
彼らは私が草を生やしては収穫している場所を縄張りにしていた子供達であり、私が草刈りしていると冷やかして妨害してくるガキ共だ。遊びの場所を奪ったのは悪いと思っているが、こちらも明日の飯がかかっている。手加減は出来ない……!
ガキ共を指さすと、私の動作にガキ共は背を向けて逃げ出そうとする。
「うわぁ!」
「なにを、するか!」
だが、奴らのリーダーであるチビの言葉に威勢を取り戻し、やいのやいのと言ってくる。
「ふふん! これだけ離れてれば大丈夫だ!」
「流石はあっくん! 雑草女さんもこれで手が出せないよ~」
「アーク、さすがは、商家の、長男、天才か?」
数度の経験で私の能力範囲を見切るとは、確かにやるな。
しかし私が新しく編み出した技をもってすれば、今までの常識は過去のものとなると知れ!
指先にパワーっぽいものを軽くこめると……。
――その先に立っていた三人組の髪から草が生えてきた。
チビの頭には花が咲き、ノッポの被っていた帽子は頭から離れ、デブの鉢巻きにはつる草が巻き付いた。
「「「うわぁー! またやられたー!」」」
やられたガキ共はちょっと楽しそうに逃げ出していく。
手加減も慣れたものだ。薬屋のお姉さんを襲ってきた変態がいたので、そいつを草まみれにしてから、草の生やし加減をある程度調節出来るようになったのだ。
ガチャリと近くの家のドアが開く。
「あら、アーク君達と遊んでいたのね。朝ご飯ができたから食べましょう?」
「はい」
出てきたのは金髪碧眼の女性、薬屋のお姉さんだ。
朝食の誘いに嬉しくて笑みがこぼれてしまったので、再び草が生えてしまった。朝食後はあれも刈らなくては……。
実は私が草を生やしていたのは薬屋の裏庭である。
職業柄か、私の能力に真っ先に気が付いた薬屋のお姉さんは、定期的に薬草を売るという条件で、薬の作り方を教えてくれるだけでもありがたいのに、空き部屋に住ませてくれているのだ。オマケに朝食と夕食付きで、住み込みの弟子状態である。
一応は薬草の売値を格安にしたりしているのだが、正直なところ全く恩を返せている気がしない。暴漢を撃退したときも、やり過ぎだと手慣れた様子で瀕死程度まで回復して衛兵に突き出していたので、手を出す必要は無かった気がする。
笑って草を生やすだけで、ここまでされてしまうと逆に申し訳なくなるのだが……。
そんなことを思いつつ刈られた草と草の生い茂る裏庭から離れて、お姉さんの後に続く。
薬草はいくらでも生やせるので、後回しである。朝食の方が大事だ。
――雑草聖女のわざ――
『アドバンスド草生やし』草の生え方を調整可能。活殺自在の草生やし
『指さし草生やし』指さした先に草を生やす。長射程の草生やし。
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