緊急2便:「―業務通知 統一指令―」

 事の起こりは、彼等の時間で二週間ほど遡る。




 宇宙と次元を違え広がる超空空間を、巡り網羅する超空軌道。

 その軌道の一地点に併設され存在する、超空軌道交通管理隊の拠点――〝ヴォイドフィールド基地〟。正しくはエンジニアリングやメンテナンス等、各部署部門、各会社が入る事業拠点。

 その内の、管理隊の事務所。


「――危険次元生物の、排除ですか」


 その事務所内で、侵外の淡々とした声が上がり響いた。

 管理隊の事務所内の一か所で、デスクの前に立ち構えて机上のパソコンモニターに視線を降ろす、侵外の姿が在る。


「見るに、大規模だね」


 その侵外の言葉に続くように言葉が上がる。その主は、デスクの前の椅子に座す50代後半の男性管理隊員。

 渥美あつみと言う名の、主任班長の階級役職を持つベテラン隊員だ。

 その渥美の背中越しに、侵外、辻長、そしてもう一人ちっこい女管理隊員が立ってパソコンモニターをそれぞれ覗き込んでいる。

 そのモニターに表示されるは、メールアプリケーションにより開かれた一つの通達メール。その内容は、後日実施される予定の業務内容を知らせ、関係各部署への準備を要請するもの。



 その内容は要約すれば――宇宙空間での危険宇宙生物退治だ。



「しかもこれは」


 続け侵外が、何かの事項に気付きまた言葉を紡ごうとする。


「――あぁ、前にお前らが扱ったやつの関係だよ」


 しかしそんな侵外の言葉を、遮り先回りするように別の言葉が寄こされ聞こえた。

 侵外や渥美等モニターを見ていた4名は、その声を辿って視線を横に向ける。そして横に置かれた別のデスクに、その椅子に気だるそうに座す声の主の姿があった。

 気だるげだが同時に狡猾そうな色の見える顔立ちの、50代半ばの男性。

 その人物こそ、このヴォイドフィールド基地に所在するヴォイドフィールド交通管理隊の長。管区長の万石よろずごくという人物であった。


「お前らが拾ったお嬢ちゃんの世界は、けっこうシッチャカメッチャカらしいな」


 その管区長、万石は肯定のものである一言に続け。そんな言葉をなげやりに紡いで見せた。



 先日。渥美と侵外は超空軌道の巡回中に、別の宇宙より超空軌道に迷い込み、行動不能に陥っていた人型戦闘機体を回収。その際に、そのパイロットであり生存者であった少女を保護した経緯があった。

 その少女は元の世界へと帰って行ったのだが。その少女の世界は、宇宙はどうにも驚異的な宇宙生物に侵略され、文明存亡の危機に瀕している事が、後のその世界宇宙への詳細な接触調査で発覚したそうなのであった。

 そして――その世界宇宙の脅威となっている宇宙生物の排除要請が。行政機関を経由して、ヴォイドフィールド交通管理隊を始め、超空軌道の管理維持を司る各関係機関や会社へと伝えられたのであった。



「なんでウチとかに要請が来たんです?」


 そこへ疑問の声を上げたのは、ちっこい体躯とふわっとしたセミショートが特徴の女隊員。身目みもくという名の彼女は、そんな内容を伝える業務通達のメールを再び覗き込みながら、疑問の声を上げる。


「近隣の各軍や隊は?」


 続け侵外は、尋ねる言葉を万石に向けて紡ぐ。


「一応待機はするそうだが。今回はウチのウェイトがでかい――」


 そんな質問に万石は返し発し、そして説明を始めた。



 侵外等のヴォイドフィールド交通管理隊、及びヴォイドフィールド事業所の各部門は。「ヴォイドフィールド管区」と呼ばれる一定に範囲で区分けされた掌握区域内で、その内を網羅する超空軌道等の管理維持を担当しているのだが。

 その宇宙生物に侵略されている世界宇宙の、今まさに戦場となっている宇宙空間区域が。どうにもヴォイドフィールド管区の存在する次元と、〝存在軸〟が諸に被っているのだという。

 そして侵外等の住まう次元行政区域では。

 そういった危険宇宙生物は「特定排除指定生物」とされ。その排除実施の役割は、第一にその発生行政区域ないし近隣隣接の各関係機関、省庁役所や指定会社などに在り。

 今回はそれに超空軌道組織会社等も含まれる事。

 さらに今回は超空軌道に及ぶ危険度が高い事が懸念され、管理隊や超空軌道組織会社に要求される ウェイトが特に大きくなっている事等が。

 万石の口から説明された。



「――主はメンテやエンジで、ウチ(管理隊)は規制や安全確保。他、イレギュラーへの迎撃遊撃が役割になる」

「出るのはウチの事業所からだけなんですか?」


 万石のその説明を聞き終えた所で、今度は辻長がさらに説明を万石に紡ぐ。


「いや、他の管区事務所からも応援が来る――管理隊だけでも、アップフロンティアやクロスエリアの隊から数台づつ。フロントポイントからは車限隊も要所の警戒に出張るそうだ。それと首星系軌道の管理隊も、管区の境目で警戒に着くらしい」

「ほげー」


 万石からは隣接の他管理隊や会社組織からの多数の応援が来ることが語られ。

それから図れる今回の排除業務の全体像が、かなり大掛かりなものであるものを察し。身目が気の抜けた驚きの声を上げた。


「で、ボク等を呼び止めてそれを伝えたってことは――」


 そこへ今度は、渥美が万石に向けて言葉を紡ぐ。階級こそ違えど二人は同期であり、渥美の万石に紡いだそれはフランクであり。そして少しの含みがある。

 四名は本日の業務終了時間を終えて帰り支度を始めようとした所を、万石に呼び止められたのだ。


「他にないだろう。ウチ(ヴォイドフィールド管理隊)からは巡回車を2台出す。それに――お前等、四人に行ってもらいたい――」




 ――そんな事の経緯を思い返しつつ。

 侵外は視線を前方左手、自分等の乗る巡回車より前を行く、もう一台の巡回車を見る。

 前方、隊形の先頭を行く巡回車には。今回自分と同じく白羽の矢の立った、渥美と身目が乗車していた。運転席側にはハンドルを預かる身目の姿横顔が、こちらからも良く見える。

 ――独特な連続的な電子音が。

 巡回車車内に備え付けられる、無線機より響き流れたのはその時であった。


「おっと、来たか」


 それを待ち構えていたといった様子で。辻長はそれにチラと視線を向け、一言声を零す。

 直後、電子音に続いて。無線機からは音声が流れだした。


《――アーマ本部から、ヴォイドフィールド管区の同一次元軸エリア内。特定排除指定生物の排除業務に指定の、各作業班、各移動局、及び関係各所へ。排除業務開始に伴う、10分前統一指令を送信します》


 少し、敢えての特徴のある言い回しでの無線越しの声。

 それは管理隊の巡回業務――各管区の超空軌道のパトロール業務を統括し指令を行う、超空軌道管制センターからの管制員のもの。


《ヴォイドフィールド管区同一次元軸、アーツフィードICからウェスクランIC間。全IC流入ランプ、及び料金所の閉鎖は完了。これに伴い予定時刻、統制時間29:00より排除業務の開始となります。指定の各作業班、移動局、及び関係各所は準備願いたい》


 続け紡がれ流れ聞こえ来る言葉。端的に言えばそれは、危険指定指定生物の排除業務――宇宙生物退治の開始を告げるものであった。


《続いて、各移動局の傍受確認を取ります。アーマ本部から、高速ヴォイドフィールド14――》


 そこから続いて管制センターからの声は、一つのコールサインを呼び出す言葉を紡ぎ寄こす。


《ヴォイドフィールド14、傍受了解。どうぞ》


 それこそ、斜め前方を行く渥美と身目の乗車する巡回車を示すコールサイン。その管制からの呼び出しの声に、了解の声を返したのは無線越しの他ならぬ渥美の声であった。


「14、傍受確認。続いて、高速ヴォイドフィールド21――」


 さらに続け、管制からの別のコールサインを呼び出す声。それこそ、侵外等の乗車するこの巡回車に与えられたものであった。

 侵外は運転席と助手席の間に設置されている無線機から、受話器を掴み取って口元に寄せる。


「ヴォイドフィールド21。了解、どうぞ」


 そして通話ボタンで回線を開き、すかさず管制センターに向けた、了解を伝える言葉を返した。


《21、傍受確認。続いて、アップフロンティア77――》


 管制センターの声は21の傍受確認を受け取った旨を紡ぎ。さらに別隊巡回車へと呼びかけてゆく。


「始まるな」


 それを聞きながら、侵外は再び眼下に視線を降ろし。淡々と呟いた。

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