【23話】国王との謁見

 

 豪華な装飾が施されている、金色の巨大な両扉。

 この大広間の中に、国王がいるという。

 

「お二人とも、準備はよろしいですかな?」

 

 ゼルの問いに、ミレアとラルフは小さく頷いた。

 

「それでは、お入りください」


 ゼルが扉を開く。

 

 大広間はとてもつもなく広い空間になっていた。

 

 床には大理石のタイルが敷き詰められている。

 天井に吊るされている巨大なシャンデリアが、それを照らしていた。

 

 部屋の中央には、横長のテーブルが設置されている。

 その中心には、王冠を被った白髪交じりの男性が座っていた。

 

(あの人が国王だわ)


 テーブルに向かって歩いていくミレアとラルフ。

 国王の眼前で止まった二人は、深く頭を下げる。


「ここは玉座ではない。顔を上げてくれ」


 顔を上げると、国王はにっこりと笑っていた。

 優しい笑顔は、ラルフそっくりだ。

 

「よく来てくれたな。二人とも、まずは席に座ってくれ」


 言われた通り、ミレアとラルフは国王の対面に隣り合って座る。

 

「急に呼び立ててしまってすまないな。特に、ミレアさん。緊張せずリラックスしてくれ」

「ありがとうございます」

 

 一応はそう言ってみたものの、国王を前にしてリラックスなんてできっこない。

 体はガチガチに固まっている。

 

「ここへ呼んだのは、この目で直接ミレアさんを見たいと思ったからだ」

「私を……ですか?」

「あぁ。ラルフから君の話を聞いて、興味が湧いたんだ」


 国王がラルフの方を見る。


「一目見て分かったよ。ミレアさんがお前の言っていた通りの子だとね。ラルフ、良いパートナーを選んだな。天国にいる妻も、きっと喜んでいるだろう」

「ありがとうございます」


 深く頭を下げるラルフ。

 グイっと上がっている口元から、本当に嬉しそうなのが分かる。


 同じようにして、ミレアも深く頭を下げる。

 

「私の参加を認めて下さり、誠に感謝いたします」

「気にしなくていい」


 優しく微笑んでから、国王はフッという小さな笑い声を上げた。


「これまで女気のひとつもなかったラルフが、『パーティーに一緒に出たい女性がいる』と言ってきた時は、少し驚いたけどな」

「え、女気ひとつなかったのですか!」

 

 意外過ぎて、つい大声を出してしまう。

 

 こんなに優しくてカッコイイ男性がいたら、世の女性は放っておかないだろう。

 過去の交際経験の一つや二つ、あって当然だと思っていた。

 

「縁談は山のように来ていたが、ラルフは全部断っていたんだ。結婚相手は俺の手で見つけたい、とそう言ってな」

「……そうだったんですね」

「このまま相手が見つからないのではと心配していたが、どうやら取り越し苦労だったようだ。ミレアさんと結婚すれば、ラルフは必ず幸せになれるだろう」


(私が、ラルフ様と結婚)


 ミレアの顔がポッと赤くなる。

 意識したら、どうにもドキドキして気恥ずかしい。

 

「父上、ミレアが困っています。お戯れはこれくらいで」

「おぉ、これはすまなかった」


 ははは、と国王が笑い声を上げる。

 随分とフレンドリーな雰囲気に、ミレアの緊張が解けていく。

 

「そうだミレアさん、冒険者のラルフについて教えてくれないか? ゼルから報告は受けているのだが、どうも味気なくてな。実際にラルフと暮らしている君の口から、直接聞いてみたいんだ」

「はい、私で良ければぜひ!」


 ラルフにどれだけ助けて貰っているか。

 その気持ちをいっぱいに込めながら、普段の日常を話していく。

 

 前のめりでミレアの話を聞く国王。

 相槌を打ちながら、とても楽しそうにしている。

 

 その間ラルフは、ずっと気まずそうに顔を伏せていた。

 

(この人達と家族になれたら、毎日がきっと楽しいわね)

 

 ラルフと国王の家族仲が良いことは、この時間だけでハッキリと分かった。

 その輪の中に入れたらきっと楽しい、そうミレアは思った。

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