【21話】もう迷わない


「エリザさん、私、パーティーに参加します」


 泣き止んだミレアの瞳には、もう迷いはない。

 強い意志をもって、その言葉を口にした。

 

 エリザは何も言わず、ただ大きく頷いてくれた。

 

「それから私、今夜、ラルフ様に気持ちを伝えようと思います。……好きです、って」


 全てを承知の上で、ラルフはダンスパーティーに誘ってくれた。

 きっと勇気がいるだろうに、それでもミレアを選んでくれた。

 

 それがどれだけ嬉しかったことか。

 

 胸に感じている熱い想いを伝えて、少しでも彼の気持ちに応えたい。

 ミレアはそう思った。

 

「ちょっと待ってミレアちゃん!」


 エリザから、まさかのストップがかかる。

 良いじゃない! と大賛成してくれると思っていただけに、少し意外だ。

 

「そういうのは、パーティーが終わった後の方がいいわ!」

「どうしてですか?」

「二人で特別な体験をした後の方が、グッとくるものがあるのよ!」


 言葉と同じく、グッと拳を握るエリザ。

 やけに説明に力が入っているような気がする。

 

(もしかして、エリザさんの実体験かしら?)


「それって、ルークさんに――」

「ち、違うわよ……!」


 口ではそう言っているが、顔はそう言っていない。

 明らかに動揺していてる。

 

「いいじゃないですか。教えてくださいよ」

「ダメよ!」


 頼れるお姉さんから、一気に可愛らしい女の子へ変化。

 普段とのギャップも相まって、ものすごく可愛いらしい。

 

 その後、帰るまでずっと聞いてみたのだが、結局エリザは答えてくれなかった。

 

 

 その日の夜。

 

 家に帰ってきたラルフを、ミレアはいつものように出迎える。

 

「おかえなさいませ、ラルフ様」

「ただいま」


 心なしか、いつもより声に元気がない。

 表情も疲れているように見える。

 

 もしかしたら、昨晩のことが影響しているのかもしれない。


「……あの、夕食の前に少しよろしいでしょうか?」


 昼のエリザと同じようにして、グッと拳を握ったミレア。

 真っすぐにラルフを見る。

 

「ダンスパーティー、私も参加したいです!」

「…………え、いいのか!?」


 曇っていたラルフの顔に、一気に晴れ間が差した。

 今まで見てきた中で、一番嬉しそうな顔をしている。

 

「ありがとうミレア! 本当に嬉しい!」


 まさか、そんなにも喜んでくれるとは思わなかった。

 

 そこまで大きな反応をされると、こっちの方が嬉しくなってしまう。

 ニヤつきそうになるのを我慢しながら、ミレアは話を続ける。

 

「パーティーが終わった後、ラルフ様に話したいことがあるんです。とっても大事なお話です」

「ミレアか」

「まさか、ラルフ様もですか?」

「あぁ。パーティーが終わった後に、俺も話したいことがあるんだ。とても大事な話だ」


 二人はしばらく見つめ合ってから、同じようにして微笑んだ。

 

(もしかしてラルフ様も、私と同じことを言おうとしているのかしら。だったら嬉しいわ)

 

「ミレア、夕食にしよう」

「はい!」


 弾みに弾んでいるミレアの声が、家の中いっぱいに響き渡った。

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