【17話】好き、という気持ち


 最初から最後まで大盛り上がりのまま、楽しい食事の時間が終わった。

 

「うぅ……すまないなラルフ」

「水だ。早く飲め」


 ひどく酔っぱらっているルークを、ラルフが介抱している。

 

 それを背中越しに聞きながら、ミレアは食器を洗っていた。

 エリザも一緒に手伝ってくれている。

 

 ルークと同じくらい酒を飲んでいたはずなのに、エリザはピンピンしている。

 

「エリザさんは、お酒強いんですね」

「まぁね。あいつとは内臓の鍛え方が違うのよ」


 ふふっと笑い合う二人。

 和気あいあいとした雰囲気で、洗い物を進めていく。

 

「そういえばネックレス、ちゃんとラルフに渡せたんだね」

「エリザさんのおかげです!」


 あの時エリザと出会っていなければ、ずっと悩んだままでいたはずだ。

 彼女のおかげで、ミレアは答えを出すことができた。

 

 本当に頼りになる女性だ。

 

 そんな頼れるエリザに、ミレアは聞きたいことがあった。

 

「エリザさん、お伺いしたいことがあります」

「うん?」

「好き、って何ですか?」

「……急にどうしたの?」


 少し間を置いての返事。

 エリザの声には、困惑と真摯さが同居していた。


「私、好き、っていう気持ちが急に分からなくなってしまったんです」


 ドレスを貰ったときに起きた体の変化――心臓が激しく脈打ち全身が熱くなった、あの感覚。

 ラルフに恋してる、そう思った。

 

 しかし、好きだったはずの元婚約リグレルに対しては、そんな風になったことは一度もない。

 

 それならどうして、ラルフの時だけそうなったのか。

 もしかしたら、恋とは違うのではないか。

 

 そう考えたら急に、好き、という気持ちに自信がなくなってしまったのだ。

 

「たぶん、これっていう正解はないわ。でも、その人のことをずっと考えたり、熱い気持ちになること。それが、好きの正体だと私は思っている」

「エリザさんもルークさんのことを思うと、そうなるんですか?」

「どうしてそこで私が出てくるのよ! これは一般論!」

「あ、ごめんなさい。つい思ったことを、口にしてしまいました」

 

 顔を赤くしているエリザに、小さく謝るミレア。

 続けて、上目遣いでエリザを見上げる。

 

「ラルフ様のことを考えると、エリザさんが今言ったような風になります。やっぱり私は、ラルフ様が好きなんでしょうか」

「うーん、そればっかりは私が言うことじゃないかな」


 エリザが小さく笑う。

 

「こういうのものはね、自分で答えを出してこそ意味があるのよ」

「自分で出す……私にも答えを出すことができるでしょうか?」

「えぇ、ミレアちゃんならきっと出せるわ! 私が保証してあげる!」


 一歩近づいてきたエリザが、ミレアの頭を優しく撫でる。

 

 正直、答えを出せる自信はない。

 でもエリザが保証してくれるなら、できるような気がしてきた。

 

「ほんと、ミレアちゃんは可愛い子ね」

めて下さいよエリザさん。恥ずかしいです」


 楽しそうに笑うミレア。

 エリザから心強いエールを貰ったことで、ミレアの気持ちは晴れ晴れとしている。

 

 笑い声を上げている二人は、まるで本物の姉妹のようだった。

 

 

 しばらくして、エリザとルークが帰ることになった。

 

 青白い顔のルークは、完全にグロッキー状態。

 エリザが肩を貸して引きずっている。

 

「本当に一人で大丈夫か? ルークなら俺が運ぶぞ」

「申し出はありがたいけど、心配ないわありがとう。それじゃ、邪魔したわね。とっても楽しかったわ」

「あぁ、気を付けて帰れよ」

「じゃあねミレアちゃん。また会いましょ!」

「はい!」


 去って行く二人の背中を、ミレアとラルフは見送った。

 

「洗い物をしていた時、二人で随分と盛り上がっていたようだが、何を話していたんだ」

「えっと……それはまだ秘密です」


 あなたのことが好きかもしれない、なんて言えるはずもない。

 聞かれていなくて本当に良かったと思う。

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