【16話】四人での食事


 プレゼントを貰ったミレアには、大きな変化が起きていた。

 

 心臓がうるさいくらいに脈打っている。全身が燃えるように熱い。

 そして、ラルフから目を離せなくなっている。


(私、どうしちゃったのかしら……!)

 

 これまでに体験したことのない未知の反応に戸惑うミレア。

 どうすればいいか分からないまま、正面のラルフを見つめ続ける。

 

 そうしていると、横から好奇の視線が向けられているのを感じた。

 横を見れば、それはもう楽しそうにエリザとルークがニヤニヤしている。

 

(私今、どんな顔をしているの!)

 

 考えただけで、ものすごく恥ずかしくなってきてしまう。

 

「夕食にしましょう!」


 大きな声を出したミレアは、強引にこの場を収め、次へと進めた。

 

 

 四人はテーブルに座り、食事を始める。

 

 ミレアとラルフが横並びで座り、その対面にエリザとルークが座る。

 いつもはラルフと対面に座っているので、こうして隣り合っているというのはちょっと変な感覚だ。

 

「うまいな!」

「本当ね! ミレアちゃん、今度料理を教えてよ!」


 料理を食べたルークとエリザが、手放しでべた褒めしてくれる。

 

 照れ笑いを浮かべながら、ミレアは「ありがとうございます」と口にした。

 

「美味い料理には酒があうってな! 持ってきて正解だっただろ?」

「悔しいけど同意ね。ルークもたまにはやるじゃない!」


 グラスに注いだ酒を、ガバガバ飲むルークとエリザ。

 ここへ来る前に、ソーヤの店でルークが買ってきたらしい。

 

(お二人とも物凄い勢いでお酒を飲むのね)


 酔いが回っているのか、大層盛り上がっている二人。

 大きな声で楽しそうに話している。

 

 対面の二人に圧倒されつつ、ミレアは隣へ視線を向ける。

 

 エリザやルークと違い、ラルフは一滴も酒を飲んでいなかった。

 

(そういえば、ラルフ様がお酒を飲んでいるところを一度も見たことがないわね。飲めないのかしら?)


「ラルフ様はお酒を飲まないのですか?」

「あぁ。飲めない訳ではないが、好き好んで飲もうとは思わない。こいつらのようになりたくないからな」


 顔を赤くしている対面の二人を、ラルフがチラッと見る。


 それに対し、二人はぶーぶー文句を言った。

 

 信頼関係ができているからこそ、こういうやり取りができるのだろう。

 三人は本当に仲良しだ。

 

「そういえば、皆さんはどうやって出会ったのですか?」


 仲良し三人の関係が気になったので聞いてみる。

 

 口を開いたのはルークだった。

 

「元々は俺とエリザの二人だけでパーティーを組んでいたんだ。そんなある日、規格外の実力を持つソロ冒険者が現れたって噂を聞いてな。しかも、俺らと同い年だっていう。俺はその冒険者――ラルフをスカウトしたのさ」

「まさかその正体が、フィルリシア王国の第三王子だとは思わなかったけどね」


 エリザが笑い声を上げる。

 二人はラルフの正体を、既に知っているようだ。


「規格外……ラルフ様はそんなにもお強いのですか?」


 聞いてみると、ルークは大きな笑い声を上げた。

 おかしなことを言ってしまったのだろうか。

 

「ラルフの冒険者ランクはSS。冒険者としての頂点、一番上のランクだ。規格外の実力を持つ英雄クラスしか、そこにはたどり着けない。なんたって、SSランクはこの王国に四人しかいないからな!」

「一番上だったのですか!」


 SSという階級のすごさを、ミレアはここでようやく理解した。

 すごい力を持っている人物とはずっと思っていたが、まさかそこまでだとは思っていなかった。

 

「ラルフ様って、そんなにも凄い方だったのですね!」


 両手を胸の前で組み、キラキラと瞳を輝かせるミレア。

 いっぱいの尊敬が詰まった眼差しをラルフへ送る。

 

 少し顔を赤くしたラルフは、視線を横に逸らした。


「俺の話はもういいだろ。それより、お前ら二人の出会いの話でも聞かせてやったらどうだ?」


 恥ずかしかったのか、ラルフは話題をぶつ切り。

 エリザとルークに話を振った。

 

 ルークは「あぁ、いいぜ!」と、自慢げに鼻を鳴らす。

 

「俺とエリザは幼馴染なんだ。エリザは昔から今までずっと綺麗で可愛くてな。どれくらいかって言ったら――」


 ボゴッ。

 鈍い音がリビングに響く。

 

 対面では、ルークの腹にエリザの拳がめり込んでいた。

 

「そういうこと、人前で言わなくていいから!」


 エリザの顔は真っ赤になっている。

 酔っているからからか、それとも照れているからなのか、それはよく分からない。

 

 でもなんとなくミレアは、その答えが分かる気がした。

 

(エリザさん、とっても可愛いわ)


 いつも凛としている彼女の乙女な一面を知れて、ミレアは微笑ましい気持ちになった。

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