【7話】ラルフの街案内①
翌日。
ミレアとラルフは、横並びになってシルクットの街を歩いていた。
「せっかくのお休みなのに、私のためにありがとうございます」
「街を案内しようと言い出したのは俺だ。ミレアは気にするな」
今日は一日、ラルフの予定が空いているらしい。
そんな訳で、シルクットの街を案内しようか、と提案してくれたのだ。
この街のことをほとんど知らないミレアにとって、ものすごく助かる提案だった。
路上は多くの人で賑わっていた。
日陰に集まって話に花を咲かせていたり、露店に並んで買い物をしたりしている。
心なしか、王都の人達よりも生き生きしているように思えた。
「まずはここからだな」
ラルフが一番最初に案内してくれたのは、道端に出店している露店だった。
他の露店よりも一回りほど大きい。
販売されているのは、肉、野菜、魚などの食材関係だ。
そのどれもが新鮮で良い品質。しかも、財布に優しいお手頃価格となっている。
(良いお店だわ。食材を買う時はここへくれば良さそうね)
うんうんと頷いていたら、高齢女性がカウンター越しに声をかけてきた。
「おや、ラルフじゃないか」
「おはようございます、ソーヤさん」
朗らかな女性に、ラルフが軽く頭を下げた。
二人は顔見知りみたいだ。
「そっちの可愛いお嬢さんは初めて見るね?」
「初めまして、ミレアと申します。ラルフ様の家でお世話になっています」
「私はソーヤ。この店の店主だ。新鮮な食材ならウチの店に任せな!」
「はい、ありがとうございます!」
頭を下げると、ソーヤはニコリと笑った。
「うんうん、礼儀正しい良い子じゃないか! それにものすごく可愛いね!」
ミレアの顔がポッと赤くなる。
何度も可愛いと言われたものだから、どうにも恥ずかしくなってしまった。
ニヤリと口角を上げたソーヤが、ラルフを見る。
「それで、あんたとこの子はどういう関係なんだい?」
「家の家事をしてくれる人として雇ったんです。ソーヤさんが期待しているような関係ではありませんよ」
「本当かい? 怪しいねぇ?」
手を顎に当て、考え込むようなボーズを取るソーヤ。
先ほどよりも、さらに口角が上がっている。
笑っている目から、この状況をとても楽しんでいることがよく分かる。
「本当に何でもありません。俺達は急いでるので、これで失礼します」
ミレアの手を取り、早足で立ち去っていくラルフ。
頬がほんのりと赤くなっている。
「またいつでも来てくれよ!」
通る声で挨拶をしたソーヤは、去って行く二人に大きく手を振ってくれた。
しばらく歩いたところで、ラルフが手を放した。
「急に手を取ってしまってすまなかった。ソーヤが変なことを言い出したので、つい」
バツが悪そうにラルフが顔を伏せた。
「いえ、どうかお気になさらず」
ラルフの手は大きくて、とても温かった。
その温もりを、ミレアは心地よく感じていた。
(もっと繋いでいたかった)
そんな風に思ったが、口に出すのは恥ずかしい。
胸にしまっておくことにした。
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