夜の探訪

@Nantouka

1

深夜1時過ぎ、俺は土手を目指して部屋を出た

川を見たかった。水辺に行きたかった

それは好きな曲の所為だ、そこで酒を飲みたかった

俺は無人の交差点、信号の下、向こうが青になったので歩みを進める

所々、明かりを照らす家の窓、辺りを照らすには心元ない灯

そして誰もいない道幅が広い道路、

俺は端を歩む、真ん中を歩くつもりはないし、俺は宵闇に存在を溶け込みたい

春の静かな陽気がこの身を優しく包み込む、俺は夜に溶け込むような錯覚をする

土手へと続く道、その途中で高架下に差し掛かる。

高架下にある道は直線に続き、それを無人の街灯が辺りを無意識に照らしている

目の前には道路と広場しかない

誰も居ない、とても静かだ。さっきまであった民家が遠くに感じる。

その時、ふと思った、人間はゴキブリみたいだと

昼間、どこでもかさこそと居るのに深夜になればその身を潜める

ゴミだ、ゴミだから嫌いなのか・・・

俺は人込みが嫌いだ。祭りや、イベントではしゃぐ奴が最も嫌いだ

由縁を知っているのか、何故そこまで騒音を垂れ流す

いや・・・これ以上は止して置こう、、それについてこれ以上考えると気分が台無しだ

進む先を無人の街灯が只照らす、少し向こうの方でパーンとした音が鳴る

高架下由縁なのか、その音はやけに響き、俺に届いた時には残響になっていた

パーン・・・パーン・・・

これは推測だが、この高架下には幾多の公園が或る、

その中のどこかで誰かがこんな時間迄、自主練しているのかもしれない、。

その音はボールがミットに収まる音に似ていた。俺も昔は壁当てをしたりしたものだ

俺は一定周期で鳴り響く音を背に川に向かう

土手上に続く階段に辿り着き、そして俺はその階段を登る

音は、階段は鉄製ゆえにしただろうが、俺はそんなに重くも無いし、それをわざと踏み抜くつもりもない

俺は淡々と登り進める

あぁ、目的地までもう少しだ・・・

そして登り終えると、そこには一台の車があった

俺はそれを見て嫌悪感に苛まれる

本来、此処に車を止めてはいけないはずなのに車が止めてあった

田舎ならこんな所に車を止める必要はない、俺の生まれは田舎だ。それにこんな時間には誰も外出をしない

都会の弊害だ。俺は都会が嫌いな事を再認識した。

でも、仕方が無い、生きる為に選んだのは俺だ、それは自身の選択に僅かな悔恨を覚え、

その思いを飲み込む

俺はその一台の車を無視し、そのそばを抜けて土手下の川に至る為の下り坂に向かう

色々考えた。何故こんな所にそもそも車がここにあるのか

邪な考えが浮かぶ、この車内でカップルが宵闇に酔いしれて、それとも、

心中か、一目見た限りでは、それに必要な道具の類は無かった。・・・それとも見当たらないだけか

俺は考える事を辞めた。どちらにしても、今の俺にとっては煩わしいものに違いない

俺は坂を下る、川の傍に行く為に

そして目の前に広がる光景を前にして、俺は安堵した

少しばかりの懸念があった・・・、

でもそこ在ったのは無人の冷たいコンクリート製の堤防のそりと、

誰もいない剥げて土を露わにした野球場だった

こんな時間に誰かに出会う事なんて、おぞましい事限りない

俺は再び、闇に染まる為に川の袂へ行く

人は実に嫌いだ、何をしているのか分からないし、それに数が多く、何処にでもいる

でも、この光景は好きだ

俺はポケットにしまった煙草に火を点け、リュックに入れておいた酒を飲んで隣に置く

俺以外誰もいない静かな川辺には乱反射した橙の灯が揺らめいている、

その元には静かな巨人がそそり立ち、そのてっぺんには点滅する強烈な赤、

何処を見ても誰かが其処に居た、そんな気配が何処にでもある

煩わしい音はない、この耳に届くのは優しいせせらぎと風に揺蕩う葉音だけ

空を見る。雲が僅かな灰色している。遠くから飛行機が来る、彼らは今頃眠っているのだろう

ブオーンとした残響がこの身に響く、それを俺は背で見送る

・・・あぁ、実にいい

俺は眼を閉じ、そして煙草を吸う、

そろそろ缶の中身が無くなった具合だ

「・・・帰ろうか」

そして俺は、煙草の火を消し、空き缶を拾い上げ、川面を背にして帰り支度をする

闇夜はこの後も続くであろう、朝方は遠い

煩わしい物事はとても遠くにあって・・・そして静寂に包まれた

「・・・あぁ、実にいい気分だ」

俺はそう言うと全てをリセットして、家に帰る

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