第55話

 〜♪〜

   

  次は〇〇駅です。次は〇〇駅です。右側の開く扉にご注意下さい…。

                  〜♪〜


「お! 到着したみたいでござるよ!達人殿!」


 車内にアナウンスが鳴り響くと、武田さんが俺に身体を向けて言った。


「達人殿…? どうか…したでござるか?」


 駅に着く間の電車内で武田さんが特徴のある口調を終始続けていたから目立ってしまったのか。

俺達はかえって周りにいた乗客から多くの視線を向けられる形となってしまった。


 これ。武田さん変装してるとはいえ結構ヤバいんじゃ…


 そして、乗客の1人が武田さんを凝視したままシートから立ち上がった。


「達人殿…??」


 俺は武田さんの身バレを防ごうと武田さんの手を取った。


「いや何も。とりあえず降りようか?」


「うぬ!」


 ……


 俺は駅のホームを降りて直ぐに先程電車内で武田さんが視線を集めていたという事を小声で武田さんに説明した。


 俺がそう説明すると武田さんが少し沈んだ表情を浮かべた。


「この口調の方が比較的私は楽なのですが……分かりました。時と場合で使い分けるようにします」


 そう頷きざまに武田さんはポケットからスマホを取り出しては少し慌てた様子で俺に言った。


「あっ、達人殿!…じゃなくて達人君! ちょっと待ってて! 今から『あすかぴょん』と電話するから!」


「え? "あすかぴょん"?」


「あっ、これから会う女の子のあだ名です! そういえば名前をまだ言ってませんでしたね!」


 そうなんだ…あすかぴょんか。


 俺にそう言うと武田さんはスマホを耳に当てては、例の"あすかぴょん"という人物に電話を掛けはじめた。


「…あ!もしもし?……うんうん。もちろん"ニート"さんも一緒だよ〜!」


 ん? ニートさん?


「うんうん。分かった。それじゃあ、これからニートさんとそっちに向かうね〜!…は〜い!」


 電話を切った後スマホで"LIN○"をしている武田さんに俺が尋ねた。


「武田さん? "ニートさん"って俺の事?」


「そうですよ! ほら?前にお伝えしたじゃないですか? あすかぴょんには、達人君がニート駅前だと言うことを既にお伝えしているって…」


 そう言いながら。彼女が『ぐるぐる眼鏡』を少し下に下げては俺を「ジー」っと見てくる。


「あれ〜? そうだったかな?」


 俺はその視線から目を外しては遠くのホームを見渡した。


「そうですよ〜! という事で、早速向かいましょう!」


 自分と目を合わせようとしない俺の腕を彼女が勢いよく引っ張っては言った。


「うん。行こう!」


 そして俺達はエレベーターを使って駅地下にあるコスプレをしたまま入れる茶店…通称"コスプレ喫茶"へと向かった。


 え? なんで?コスプレ?


 俺は嫌な予感がしたが。その予感は見事に的中した。


 ……


「いらっしゃいませ! お客様は2名様でございますか? あ〜…お客様…」


 店に入るなり、受付の男性が俺を見ては申し訳なさそうにして驚きの発言をした。


「失礼ですが?お客様…当店は"完全コスプレ制"となっております」


 何!?"完全コスプレ制"って!? 完全予約制とかの間違いじゃないの!? そんなの聞いた事ないよ!


「ですので。お客様にはあちらの試着室でコスプレをして頂くか…若しくは入店を諦めて頂くかのどちらかになるのですが…」


 な。なんだって……。


 ここで俺が入店を諦めたら既に入っているであろうあすかぴょんと言う人物にも会えない…。


 と。ここで俺は隣にいた武田さんに目を向けた。


 しかし。彼女はと言うと…何処からどう見ても"ござる"だった…


 俺は苦渋の決断をした。


「じゃ…じゃあ。あそこで着替えたいので…///すみませんが衣装を貸して下さい…」


 そして俺は。受付の男性から渡された衣装を手に取り1人試着室へと入って行くのだった。


 to be continued…。

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