第54話
「少し早く着き過ぎたかな…まぁ。遅れるよりかは良いだろう…」
俺は武田さんとの待ち合わせ場所である〇〇駅に30分ほど早く着いてしまったので駅横に置いてあるベンチに座っては、そこで武田さんが来るのを待つことにした。
しかし。ここに来て。俺にある疑問が浮かんだ。
「そういえば…
俺はなんだか楽しみになって来た。
「逆に有名人であることを逆手にとって凄い芸能人オーラを漂わせて来たりして…ははは! それは流石にないか…」
しかし。この数分後に俺の期待が良い意味で大きく外れることになるとは、この時の俺には予想も出来なかった。
俺がベンチに座って1人で缶コーヒーを飲んでいた時だった。その光景を見た途端。俺は「グビグビ」と飲んでいた缶コーヒーを思わず盛大に吹き出してしまった。
「…はぁ…はぁ」
俺のいる所から50メートルくらい離れていただろうか。そこから周囲の視線を集めては息を切らしながら真っ直ぐこちらへと向かってくる人影が1人…。
最初俺は別人かと思いその人の方から視線を外していたのだが。その人が息を切らしながら「達人殿〜!」と俺の名前を大声で呼んでは真っ直ぐこちらへと向かって来ていたので俺はコーヒーを吹いた後、覚悟を決めることにした。
「はぁ…はぁ…達人殿!」
「おぅふぉ…」
俺の前に現れたのは何処からどう見ても武田さんとは思えない。黒髪に『ぐるぐる眼鏡』がチャームポイントのオタ系ファッションに全身コーディネートされた"かなり"変わった見た目の武田さんだった。
まぁ…気を取り直して。ナイスだぜ武田さん! 俺の予想していた服装とは全然違うけどその見た目なら身バレは心配しなくてもいいだろう。
ただ……。
「どうです達人殿!? 拙者!中々似合ってるでござろう?」
「お、ぁうん…」
俺は少し反応に困ってしまった。
まあ見た目は何処からどう見ても冴えないオタ女(ござる)にしか見えないのだが、その中身がれっきとした人気女優…"浜辺優奈"なのだと改めて考えると、俺は「流石は
「武田さん?」
「どうしたでござるか?」
「その格好は…?」
「もちろん!
「あ…やっぱりそうなんだ(しかも服装とキャラ作り完璧だし)」
この時。俺がなんと思ったのかは言うまでもないだろう…。
それから俺と合流した武田さんが俺を置いて1人で駅のホームへと入って行こうとしたので、俺が呼び止めた。
「あれ? 武田さん?」
「達人殿? どうしたでござるか?」
「あれ?ハイヤーは?」
俺はてっきり、前回同様にまた"ハイヤー"に乗るのかと思っていたのだが、「たまには電車も乗ってみたいでござる!」という事を彼女が言ったので俺達はそのまま電車で行く事となった。
ちなみに、一般市民である俺としては"ハイヤー"よりも電車の方が落ち着くので今回は助かったと言える…。
だって!あそこ!武田さんと至近距離でずっと向き合わないといけないし!
それは〇〇の俺にとっては色んな意味で結構キツイものがある。
それから、しばらくしてやって来た電車に俺達は乗り込んだ。
余程嬉しかったのか。電車に乗り込むと直ぐに彼女が窓の外の景色を眺めては、はしゃぎながら俺に同意を求めて来た。
「海でござる〜! やっぱり海はいつ見ても綺麗でござるな〜! あっ!達人殿! あそこに船がいるでござるよ!」
その様子は、何処からどう見ても小学生3年生くらいの女の子を見ているようだった。
これもきっと身バレ防止の演技なんだよなぁ…そうだよな? にしてもやっぱり女優ってすごい!
俺の隣でいつまでもはしゃいでいる武田さんに対して、俺は無意識下で少し笑みを浮かべては尊敬の眼差しを送っていた。
to be continued…。
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