第9話


それからは村の様相は変わった。

村の周りの柵は人の首ほどまで高くなった。

簡易ではあるが容易に人は入れないだろう。

それから村長宅と倉庫の周りにも柵を立てた。

村人たちの団結力は凄まじく、盗賊などに容赦する必要はないという過激な意見までで始めた。

シンパには棍棒のようなものが渡された。

ようなものといったのは元々は別の目的で使われていた物らしいが形状が棍棒にしか見えないのだ。

おまけに頑丈で非常に重い。

シンパの馬鹿力でも重いと思えるほどだ。

この村には武器はほとんどなく槍が数本あるだけで、足りない分は農具で代用するつもりだ。

何がなんでも戦って守り抜くのだ、村人たちの心は一つだった。

シンパも奔走していた。

自慢の腕力で物資を運び、柵作りに貢献した。

それと変わったことがもう一つ。

アルシェとの関係だ。

あれから色々考えてはみたがどうすればいいか分からなかった。

結局、アルシェに頼み事をするようにした。

誰かがあのくらいの年頃は何かと手伝いたがると話しているのを聞いた覚えがあったからだ。

そうするようになってから会話が増えた。

それに笑顔を見る機会も増えたと思う。

今の日々が続けばいい、そう思っていたが運命はあまりに予定調和だった。


ガンガンガンガンと鈍い鐘の音が響いた。

村の入り口に建てた見張り台からの盗賊が来た合図だ。

村人は大慌てで村長の家へと集まる。

シンパもアルシェと棍棒を抱えて走った。

村長の家の中は混乱していた。

泣き喚く子供達、慌てふためく大人たち。

それをメルクとダリアが冷静に皆を落ち着かせようとしていた。


「男衆は武器を持って外へ!戦うぞ!」


ダリルの檄がとぶ。

それに呼応して男たちは外へ出ていく。

シンパもそれに続こうとする。

しかしアルシェが足にしがみついて離れない。


「アルシェ、すぐに戻ってくるから皆と一緒に大人しく待っていられるかい?」


アルシェは首を横に振った。

それからおずおずと離れていく。

そして部屋の隅に座り込んだ。

他の子は大泣きしている。

それなのにあの子は泣くこともせず大人しくしている。

シンパは外に出た。


「おい!早くしろ!」


メルク宅の前の柵の門を閉めようとしている。

シンパは急いで門の外に出る。

村は人が入れない柵で囲んだ。

綻びがなければ奴らは入り口からやってくる。

そして人が集まるこの柵の方に正面から向かってくるはずだ。

もし、違うところから入ろうとするなら槍で突く。

きっと上手くいくはずだ。

予想通りに盗賊は正面からやってきた。

村人ごときに負けるはずがないという自信の現れだろう。

シンパは力一杯棍棒を握りしめ、隅で震えていた。

ついに奴らはやってきた。

覚悟を決めなければ、そう思った瞬間だった。


『今、逃げたらどうなるんだろうね』


誰かが耳元で囁いた。

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