灰かぶりの一匹狼

@e7764

第1話


酒場では今日の仕事が終わった後の男たちが食事や酒盛りをしている。

ここにいる皆が同じ現場の作業員で、皆が食事にこの酒場を利用していた。


「おい、シンパ!また豆のスープか?」


酒に酔った男が絡んでくる。


「へ、へい」


シンパは従業員の中で一番大柄で力も強い男だ。

しかし覇気がなく、どこか卑屈で頭も悪い。


「そんなもん食ってないでお前も呑め」


そう言って男は酒の注がれたグラスを突き出す。

シンパは断固として拒否する。

酒は悪魔の飲み物だと知っているからだ。

奴らは常に人を闇へ引き摺り込もうと虎視眈々と狙っている。

酒を呑んだ人間を見つけて奴らは囁くのだ。


「い、いえ。あっしはもう食べ終わりますので」


シンパは残りのスープをかき込むと大慌てで店を出ていく。


「相変わらず付き合いが悪いな。あいつは」


「いつものことです。それより不思議なのは豆のスープばかり食っていてどうしてあんな馬鹿力が出せるのか、って事ですよ」


「俺、この前あいつにいっぺんに土袋5つ運べと言ったら本当に運んでましたよ」


それを聞いたものたちが大笑いする。


「ま、それも明日までだ。ほら、お前たちは呑めるだろう?」


ありがとうございます、と言って男たちは呑み始める。


店を飛び出したシンパは大急ぎで帰路についていた。

その途中、パン屋に立ち寄る。

正面の入り口ではなく、裏口の方へ回って扉を叩く。

しばらくして扉が半分だけ開かれ、紙袋が差し出される。

それを受け取って礼を言いながら金を払う。

相手は受け取った金を数え確認し終えると無言で扉を閉める。

シンパは紙袋を抱えてまた走る。

立ち並ぶ建物の中で一際古い建物の2階へ駆け上がっていく。

階段を上がってすぐの扉、それがシンパの自宅だ。

扉を開けて、中に呼びかける。


「アルシェ!帰ったぞ。ご飯だ」


そう言い終わる頃にはアルシェと呼ばれた少女すでに扉の近くに寄って来ていた。


「ほら、お腹すいただろう」


大きくうなづいた少女をシンパは椅子に座らせる。

紙袋からサンドイッチを取り出し、アルシェに渡す。

アルシェは嬉しそうにサンドイッチを両手で受け取る。

食べ始めを見守ってシンパはコップに注いだ水を持って来てアルシェの前に置いた。


「アルシェ、今日もいい子にしてたか?」


アルシェはサンドイッチを頬張りながら大きくうなづいた。


「そうか、アルシェは今日もいい子だったか」


シンパがそう言うとアルシェ笑った。


「もう少しの我慢でもっといい所に行けるからな」


そう言いながらアルシェの頭を撫でる。

アルシェは何も言わずにサンドイッチを食べ続けた。

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