第二章(上)
第0話
今日は二話投稿!先に閑話2を読んでね!
黒のローブを纏った老人は、崩壊した村に来ていた。
腰を曲げ、両手を後ろに回して歩きながら、それなりの規模の村を、瞑ったように細い目で眺めて回る。
ここには鍛冶屋があった、この店のパンは美味かった、ここには初恋のあの娘が住んでいた。そんな感傷に浸っていた。
老人が、村の中心の女神を模した像の前までくると、フードを取り、片手を耳に当てて何かを聞く姿勢に入る。
そして何かをピクっと感じ取ると、目を大きく開ける。
「チャームが... 死んだか... 」
再びフードを被り、瓦礫と化した民家に近づく。
瓦礫の下敷きになり、既に息を引き取っていた男の体を引きずり出し、おぶって村の端まで運ぶ。
村の外まで来た老人が地面に手を当て、少し経つと、地鳴りが聞こえてくる。派手に揺れた土は辺りに散乱し、そこにはひと一人分は入れそうな穴が残る。
老人は穴の中に男の体を綺麗に置き、そばにあったスコップで穴を埋め、平らな地面を残す。
「チャームの情報によると、女三人の内一人は身体能力を上げる小柄な少女... 」
老人は手の甲で額を拭い、スコップを地面に捨てる。
「大剣を扱うのは攻撃を防御する女。そして杖もちは治療ができる」
厳かな、ゆったりとした声でつらつらと独り言を並べ、村から遠ざかるように歩き出し、そばにとめてあった荷台を引く馬の元へと寄る。
「ならば、先に叩くのは杖持ちの女... わしの能力が奇襲に特化している以上、例え己を治すことが出来ても瞬殺、又は行動不能にさせれば無意味...!」
荷台の座席に老人が座り、手綱を握ったところで、老人の目には髪の長い筋肉質な男、正確には男を模した魔物が近づいてくるのが映った。
「チャームからの土産か。少し物足りないが、まあまあの質量の魂じゃな」
触れられる距離まで近づいたその魔物の肩に、老人は手を当てる。
「補給はこんなもので良いか。チャームの敵はわしが取りますぞ、魔王様」
魔物は声一つ出さないが、徐々に自分の体が分散していくのは分かっていたようだった。手足の先から、肩、胴体へと進行が進んでいく
「このわし、四天王の一人、パルスが相手になってやるぞ勇者どもめ... おや?」
体が完全に無くなった魔物のいた場所に落ちていたものに老人は目を向ける。落ちていたのは、良く砥がれた刃物で綺麗に切られたような女性の腕が、二本だ。
「これを受け取れるわけがないじゃろう」
すると老人は座席から降り、スコップで穴を掘ってその両腕を綺麗に埋めてしまう。
「さて南の街に向かうとするか、勇者を迎え撃つために... ん!?」
老人は荷台の座席に座り、手綱を掴む。だがそうした瞬間、先ほど両腕を埋めた地面が少しいびつな形になっているのを見ると、急いでスコップを手にそれを直す。
「こんな気持ち悪い状態で残しておいたら、勝てる戦いも負けてしまうわい」
そうして自分の故郷の村を、振り返ることなく後にする。恐らくその場所には二度と立ち寄る事はないだろう。
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