第7話
前回のあらすじ、スズからの脱出。
その夜、メイドが襲ってきたことは一応伏せ、事情を町長に伝えると、一晩泊めてくれることになった。
外で腹を満タンにして帰ってきたタイランも、どんなマジックを使ったのか、晩御飯を平らげ、あとは体を洗って寝るだけになった。
部屋割りはスズとタイランが一つずつ、そしてリリーと俺が魔物対策に部屋を共にすることとなってしまう。
大丈夫なのか?いくらちんちくりんと言えども女の子と部屋を共にするというのは...
「何を考えているかは知りませんが、当然ベッドは別ですよ」
当たり前だしそういう問題じゃねえだろうが!
「あ、ここみたいですね」
用意されていたのは今朝の宿よりも少し広い、シングルベッドが窓側に一つ、そして手前側にもう一つ用意された部屋だった。
「うーん、少しこれは良くないですね」
「何がだ?」
すると窓側のベッドをうんと窓側の方に軽々と寄せ、手前側のベッドを扉の方向へと出来る限り寄せてしまう。
あ、はい。つまりそういうことなんですね、俺とは出来る限り距離を離したいと。俺傷ついちゃうよ?涙が出ちゃうよ?
「悲しんでいる暇があったらとっとと能力を発動出来るようになってください」
ベッドの足側の方に倒れ込みながら言うリリー。
すみませんリリーさん、流行りの追放系だけは嫌です。だってこれで能力発動できるわけないですもん。
「少し食休みしたら私も体を洗ってきますね。男女別に分かれているようですから、あなたも好きな時間に行ってください」
「そういえばリリーもすごい食べっぷりだったもんな。タイラン程じゃ無かったけど」
「あいつのあれはただの能力ですからね」
どっちだ?比喩なのか?それとも無限に食べることの出来る能力なのか?
「能力と言えばさ、あの昼間に錠を消したやつ。あれってどうやってやったんだ?」
「うーん、私から教えるのは... 格好良くないですね。ちゃんとタイランに聞いてください」
「物を消す能力とか?」
「ダメですよ、教えられません」
め、面倒くせえ... それじゃあ昼間の「お姉ちゃん」事件の話を聞いてやる。
「それじゃあリリーの事を聞きたいんだが... 昔からスズを知ってるようだったけど、どういう関係なんだ?」
すると横たわったままの姿勢で顔をじっと見つめられる。そして急に細目になったかと思うと、窓側にくるっと体を回転させてしまい...
「少しは感情を隠す努力をしてください。好奇心の塊じゃないですか」
やっぱり心が読めるんじゃねえかおい。
「まあでも、ここで話したほうがかっこいいんでしょうね。あなたの好奇心が満たされる姿を見ていると腹が立つので、向こうを向いていてあげます」
お、やったぞ。ちょっと引っかかる言い方だけれど、面倒くさくて逆に助かった。
「やっぱり話すのをやめましょうか」
「あ、本当にごめんなさい話してくださいお願いします」
横目でちらっとこちらを見ると、また窓の方に視線を戻し、目をつむってしまう。
「スズのことですから、能力が与えられる人間の条件は話してないんでしょう?」
「え?確か魔王が誕生してから誰か三人に与えられるんじゃ?」
「それだけじゃありません。王家の... 血を引いていないといけないんです。それも、現国王の血を強く引く者が」
こ、これってもしかして百合ものじゃない気がしてきた...
「ご察しの通り、私は本当にスズのお姉ちゃんなんです」
「えええええ!!じゃあ、リリーって... お姫様?」
「いえ、私は孤児院の出です。母は娼婦として生計を立てていたようで... ここまで言えば、もうわかりますよね?」
あ、あの王冠を被ったおっさんは本当にただのおっさんじゃなかった... リリーが嫌悪する訳だ。ていうか王様なんだからしっかり自重しろ。
「最初にスズと出会ったのは... 私が六歳の頃でしょうか、スズが五歳の時です。同年代の遊び相手を求めて、孤児院へ視察、という名目で来たのが始まりでした」
「そんなに早くか... 」
「その頃は私の方が身長が高かったですし、スズも、一国のお姫様ではなく友達として扱われる事を願っていたので、皮肉にも私の事を「お姉ちゃん」と呼ばせていました」
何か質問は無いか、という風にリリーが一拍置く。何も言うことはないと俺は黙っているが、リリーが続ける気配は一向にない。
「あの、リリーさん?続きを... 」
なぜ続けないのかという疑問に答えるかのように、ノック音が響く。
「勇者様?少しよろしいでしょうか?」
返答を待たずに、というよりも質問をしながらスズが入ってくる。タオル片手に、湿った髪を下げていた。
「あれ?リリーさんはもう寝てしまったのですか?」
「え?いやでもさっき... 」
振り返ると、ベッドの足下の方に寝転がっていたはずのリリーは、いつの間にか布団をかけて窓の方を向き横たわっていた。気まずいのだろうか、寝息もたてはじめる。
「えーと... 疲れてたみたいでさっさと布団の中に入っちゃったよ。ところでなにかあったの?」
「あ、あの昼間の... 」
お腹の下のところで手を組み、恥ずかしそうにモジモジとするスズ。可愛らしい仕草にも見えるが、その目に宿っていたのは好奇心の三文字で、すぐに要件の察しがつく。
「前世にあった物語の話か?」
「は、はい。よろしければその、まず手始めに前世にあった神話を聞かせていただけませんか?」
し、神話?七日で世界を作ったやつと、密造酒の話しか知らないぞ...
「つまらないものでいいんです。まずは勇者様の世界の方々がどんな価値観を持ち、何を信じて生活をしていたのか聞かせて頂けませんか?」
何を信じる... そんなの一個一個あげて行ったらキリが無いんだが...
それでもスズはもう話を聞く状態に入っていて、笑顔をこちらに向けながら、少し怖いとも思える目で俺を捉える。
そして脳裏によぎるのは昔どこかで読んだ、日本人が外国人に向かって忍者は存在する、と話すもの。FBIのような存在で、公には存在しないとされているという、夢を与えるもの。
「そうだな... 俺が住んでいた国は日本という所なんだが、俺の世代に神を第一に考えるやつは少なかった。代わりに夢見てたのが、今俺に起こっているような、転生ものだ」
スズの表情は変わらず、質問も特になさそうだったので続ける。
「中でも俺が好きだったのは、スライムという魔物に転生する話で...」
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