閑話1ー天界の様子
今日は二話投稿!先に九話目を読んでね!
「いつものです。どうぞ」
色の濃い木材で建てられた、薄暗いバーのカウンター席。そこには一見場違いとも思える、露出の際どいおっぱいの持ち主の女性が座っている。
座っていると言っても、常設してある木製の椅子ではなく、恐らく持参したであろう、ふわふわと浮かぶ雲に座っていた。
だらしなくカウンターに両ひじをつき、頬杖をついていない方の手で、グラスのなかに入った、オレンジと赤が重なってる液体を混ぜるように回す。綺麗に上下に分かれていたその液体は、ゆっくりと茶色に混ざっていく。
「うおおおっ!四天王の手下の動きが出たぞ!」」
チッ...
オシャレなバーに見えるが、壁には枠組みのない、大きなスクリーンがかけてある。呑んだくれがそこに群がり、彼らの納める世界を「観戦」出来るように。
人間から見れば、気味の悪い液体の入ったボトルだろう。それが並べられた棚の前の、ダンディーな白髪の老人は、その声にピクッと体を震わせ...
「あのインチキ能力の勇者はどうなったんだ!!」
と、自分で毎日手入れしている椅子まで駆け寄り、勢い良く足をのせて叫ぶ。
その状況を面白くないと思ったのか、露出の際どいおっぱいの持ち主は更に勢いよくグラスを回す。もう完全な茶色だ。
しばらくするとその露出の際どいおっぱいの持ち主の横に、全身を白のタキシードに身を包んだ男が座る。
「今回の勇者は随分とがっているね」
グラスの回転が一層速くなる、溢れる一歩手前だった。
「でもね、魂関係の能力者が「二人」もいるんだ。勇者にとってそれが効かないとなると... 」
「... ん、ぷはあ... 勇者に直々に決めさせたのよ〜」
「は?」
苦渋でも飲み干すかのように、グラスの中身を半分ほど飲み干すと、またグラスを回し始め、焦点の合っていない目を前に向けながら言った。
「... でも特典つきよ〜禁欲の」
「ハハハッ、あれは面白かったね。十七歳の男の子にはキツいんじゃないか?」
「だからこそ面白いんでしょ〜?」
このバーに入って初めての微笑みを男に向けながら言う。だがそんな時も束の間...
「... ちなみに勇者の能力って魔物限定?」
「... は?」
グラスの回転が止まる。
微笑みも、トロンとした瞳も一瞬で消え去り、そこには周りの野次だけが残る。だがこの二人にとってその場所は、今日一番静かに感じただろう。
少しすると、壁にかかっているスクリーンにポップな文字が、賑やかな音楽と共に表れ...
『魔物を塵にする能力』
露出の際どいおっぱいの持ち主は目を丸くする。
「... わーお」
「... 事故だったのか」
再び、二人の間を静寂な時が流れる。露出の際どいおっぱいの持ち主は、きょとんとした顔でスクリーンを見続け、男は、バーテンダーのいないカウンターを見続ける。
そんな静寂も束の間、スクリーンに群がっている呑んだくれが一層盛り上がり、二人を現実へと引き戻す。スクリーンには野原が広がっており、複数の狼が... 魔獣が、食料探しに躍起になっているのが伺える。
「VTRだぞ!!!」
そんな魔獣の群れに近づくのは一人の大男。屈強という言葉が良く似合う、筋肉で出来た男だ。反対に毛根は死んでいた。皮膚の所々が赤黒く変色しており、神達の目には、そこから黒い何かが漏れ出ているのが見える。
「... ひとまず魔物相手ならまだ死なないか」
「そうだね」
露出の際どいおっぱいの持ち主が、独り言のように呟くが、男に笑顔で返事をされ、ギロッと睨む。
魔獣は基本的に人食いであるのに、餌であるはずのその大男は見向きもされなかった。その大男が他でもない、魔物だったからだ。魂で構成された肉体は、魔獣の餌とはなり得なかった。
その大男が魔獣に触れられる程の距離まで近づくと、肉体がドロドロに溶け、魔獣の至る所の穴から入り込んでしまう。
「グロいわね...」
「グロいね」
カットを挟んで画面が切り替わり、次は勇者とその仲間のちんちくりんが映し出される。
そんな勇者に一匹の魔獣が襲いかかるが... 勇者は微動だにしない。ピクリとも反応せず、堂々とただつっ立っていた。と、神々の目には映っただろう。その証拠に、魔獣が噛みつく寸での所で、仲間のナイフが刺さった瞬間に歓声が上がる。
「うおお!微動だにしないぞ!!」
白髪の老人は、先程まで皿を拭いていた白のクロスを頭上で振りまわす。
「あれは... 動けないだけじゃないのかい?」
露出の際どいおっぱいの持ち主が反応する前に、スクリーンではすぐさま二匹目の魔獣が襲いかかってくる様子が映し出される。
『気合いです!!』
『うわああああああああ!!死んでくださああああああいいいぃぃ!!!』
威厳もへったくれもない勇者の叫びは、バー全体に響く。情けないと思われるその姿だが、神々の目からすれば違ったようだった。
魔獣の中に立ちこめる魔物が塵となり発散する。勇者からすれば、わずかに漏れ出るその塵に気づくほど余裕はなかったし、勇者の仲間も勇者を見ていて気づかない。
「うおおおおお!あっけねえええ!!」
今日一番の歓声だ。老人は肩が脱臼するのではないかというほどにクロスを振り回す。
「ま、まあ結果オーライ?もう一度勇者の対応をしなくて良かったね?」
「... はあ、頭痛い... 」
露出の際どいおっぱいの持ち主は、半分程残った茶色の液体を飲み干すと、カウンターに突っ伏してしまう。
スクリーンの方はというと、これまでの勇者の旅がダイジェストで流れるという、いつもの動画に切り替わっていた。
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