第3話
前回のあらすじ、マシュマロ。
「... たんですか?」
布団の中の俺のリュウジはまだ熱かった。空気の抜けた風船は少し冷たくなるはずなのに、リュウジの熱は一向に収まる気配がない。
「多分わたしの能力のせいなんです... 」
「そのへっぽこ勇者が苦しんだとかはどうでもいいです。スズの胸を変態勇者がどさくさに紛れて触ったことを言ってるんです」
あれ?この声はリリーか?なんか俺の肩書きがどんどん不名誉なものに変わっていっている気がする...
「いえ、ですからそれは事故で... 」
「それでも手を握られたと...チッ... 」
なんですかそのわかりやすい舌打ち、レディとしてどうなんですかねそれは。
と呑気に思うのも束の間、ドタドタとわざとらしい足音がこちらに近づき...
「ったあああっっ!!」
安らかに眠っていた俺の腰に衝撃が走り、体が壁にぶち当たる。蹴られた。
「リ、リリーさん!?」
「このど腐れ野郎が!!盗み聞きとはいい度胸ですね!」
な、なんだこいつ。なにをそんなに怒っているんだ!?
「ちょ、ちょっと待ってよ。あれは本当に事故で」
「ん?本当に事故だったんですか?」
なんだこれ?怒りのボルテージが少し下がったぞ?
か、感情が読めない... なんでこいつこれで納得するんだ。でもひとまずこの場は沈めないと...
「手を握ったのはどうなんですか?」
「あ、あれも気が動転していてわざとじゃ... 」
「はあっ!!」
「がっ...」
フェイスに回し蹴りだった、短パンだから中の布も拝めない上に、なによりシンプルに威力が強い...
「へ、へええ...?まだ余裕があるみたいですね」
「え、ちょっと待って... グフッ」
フェイスに回し蹴りでした、はい。
ここに来てから俺痛い目と良い目にしかあってないんですが...
早く魔王倒しに行こうよ、俺強ええさせてくれよ。
「リ、リリーさん、そのくらいに... 勇者様のお身体に触るかと... 」
「これくらいでしたらなんともないでしょうし、万が一骨折でもしたらスズに治してもらってまた折ります」
「また折るのかよ!?」
いやいやちょっと待てってナイフ抜いたんですけどこの子、また死に戻ってペナルティとかシャレにならない。今度はなんだ、もぎ取るのか?
けれども世界は無情で、予備動作がほとんど見えない早さで、そこにあったはずのナイフとリリーの右手はすでに消えていて...
「わ、わたしの能力は勇者様には効かないんです!」
ひ、ひいいい... 右目の前にナイフが... 危ねえちびりそうになった...
搾り出すようなか細い声だったが、リリーがナイフを止められるくらいには早口だった。疑問の表情を浮かべながら、リリーは振り返り尋ねる。
「勇者に、能力が効かない?」
俺の右目の寸で止まっているナイフがゆっくりと下ろされ、素早く右の手首を浅く切る。
「いてえええっ!」
おうい!時計でも作ろうってか!?
そんな事にはお構いなしという風に、というより顔面を蹴ってるわけだから元から構わないですよね。胸ぐらを掴まれ、ベッドから床へと放り出される。
再度顔面をぶつける。
「ぐっ... だから痛えって!!」
またまたそんなことお構いなしという風に、リリーが目で何かを指示し... スズが頷くと、俺の剥き出しになっている胸に手を当てる。
胸に手を当てる。
はっ... はあ... 落ち着け俺、ここでダガーしてしまっては間違いなく殴られる... なんかリリーの方から収まったはずの殺気が出てるし...
「こ、こいつ... 」
な、なんでまた怒ってるんだ... マジで分からん...
「勇者様」
あ、待って話しかけられると意識しちゃうう... でもリリーの殺気で中和出来そうかも。
「まことに申し上げにくいのですが... 勇者様には魂がないようです... 」
た、魂 ?
でもあれだろ、魂って女神が預かってるって言うからなくても問題ないんじゃ?
「私の能力は、魂に関与して肉体を操作することなんです... なので肉体を改造したり、治癒することができるのですが、魂の無い勇者様には私の能力は使えないようです... 」
ふぁ?俺にチート能力が効かない... だと... しかもデバフの方じゃなくて味方の能力じゃねえか!完全に裏目ってるじゃねえか!!あのクソ女神が、もう少し頭を使えよ!
「はあ、わたしの能力が効いたので期待はしてませんでしたが、能力無効ではなく、魂が肉体に入っていないほうでしたか」
「はい。ですが魂から肉体には関与されているらしいので、おそらく別の場所に魂があるかと... 」
「ふうん... それで、デバフ持ち勇者。もう一度聞きますがあなたの能力は?」
え?ここでまたそれを聞くのか?ええと、ここはなんて言うべきか。たび重なる暴力と暴力で化けの皮も剥がれかけているし... ここはいっそ素直に...
「チッ... まだ隠そうとしてるんですか」
とリリーはナイフを構えて... あ、切られたくないです、なんかこいつ見透かしてくるし。
「わ、わかった言うから言うから...」
くそが... 誤魔化そうに全て見透かして(切りつけて)くるし、最強の能力なんて一番最初に見せたほうがかっこいいんだが... 能力の発動条件がわからない...
「俺が頼んだのはズバリ... 最強の能力だ!」
「「... え?」」
二人の少女達が口を揃えて絶句する。どっちだこれ、間違えたか?床に横たわったままだからさすがに格好はつかないか...
「はあ... 具体的には?」
「魔物に指先すら触れることなく塵と化す程強くなれる能力だ!さあ魔王を倒しに行くぞ!」
「「... 」」
あ、これは間違えたかも、少し痛かったか?スズは口を半開きにしてるし、リリーは分かりやすく頭を押さえている。
「... わかりました、実際に能力を使ってもらいます。さっさと旅にでないと間に合わないので実戦で見せてもらいます」
「あ、あのお父様への挨拶とかは...」
「このドアホウをあの馬鹿に会わせると面倒なことになります、スズはタイランを叩き起してください。式典とかもすっ飛ばします、城下町への門で落ち会いましょう」
「え?あ、ちょ、ちょっと?」
ベッドから降り、俺の胸ぐらを掴み、ドアを開ける。普通に苦しいです。それにしても勇者っぽくパレードとかないのか?俺の異世界生活まるで逃亡みたいになってるんだが...
「リリーか、勇者の調子はどうだ?」
「チッ」
リリーに引きずられ、ドアから出ようとすると、廊下にはなんか白髪で、高そうな服を着たおっさんがいた。
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