第2話

前回のあらすじ。ナイフ投げられた。



「おはよう〜元気してる?」



目を開けたら露出の際どいおっぱいしか視界に入らなかった。


... 凄まじいデジャブ感。



「なんでおまえがまたいるんだよ!!」



またまた見上げると、そのおっぱいの持ち主はまたまた大層な椅子に座り、少し微笑み... 前回より一層微笑み、こちらを見下げている。



「天界に神がいたらおかしいっていうの〜?あなたがここにお邪魔している立場なのよ〜?... え〜とどれどれ〜?日本からの転生者、リュウジ十七歳は〜仲間の一人にナイフを投げられショック死... だって〜」


「... ショック死?」


「ナイフが刺さる寸前に止まってるわね〜、服は切れてるけど、肌には小さな切り傷しかついてないわよ〜」



それってもしかして... 俺ナイフにびびって死んだだけ?いや、だとしてもなんで切り傷で済んでるんだ?



「それにしても〜プププッ」



わざとらしく空いている手で口を押さえて笑われる。くそ女神が。



「は〜い生き返らせてあげるから質問はあっちでしてね」


「え?ちょっと待て待て俺の能力は... 」


「あ、そうそう〜さっきも言ったけれど〜ペナルティは〜」



俺が口を挟む暇もなく、頬杖をついていない方の手で俺の頭を指差し、そのまま下の方へゆっくりと下ろす。それは俺のズボンのところで止まり、女神がニヤリと笑うと...


なんか嫌な予感が...



「禁欲」



と、ゆっくり口にすると、その指を上げてそのまま俺の頭を小突く。すると辺りは白い光に包まれて...



「ちゃんと説明しろやくそ女神ーー!!」



**********************



一旦整理して落ち着こう。


俺は最強の勇者だ。


なのに死んだ、ショック死で、物理的な死ですらなく。


つまり最強なのは身体面のみでのこと?精神面は最強ではないということかくそが!

いくら魔物に触れることすらなく塵にすることが出来たとしても精神面はボロボロなのか!しっかりしろ主人公補正!



「... しますね」



待てよ... これは死に戻りじゃないか。何度でも死んで生き返る、それは俺の強みでもあるじゃないか。いくら精神的に弱くても、身体的に最強で死に戻る事が出来るのなら俺は結局最強だ!



「... 結構... いですね」



ひとまず生き返ったということで、起き上がって俺強えしてやろうじゃねえか。さっきから体が動かないけど、とりあえず目を開けて...


目や手足を動かそうとすると徐々に意識が戻り... 違和感に気づく。


上がはだけているのだ。上半身裸である。かといって俺は女ではないのだからどうこうといった問題ではない。一つ大きな問題があるのだとすれば、冷たく柔らかい手が俺の硬い胸板に置かれているということだけ。


体の支配が戻り、ようやくゆっくりと目が開くと... 青みがかった長い髪の持ち主の女の子がいた。いたとかいう騒ぎではなく、触れていた。


露出の少ない白をベースとした服の袖をまくり、細い指の隅々までピタリと俺の胸に密着させ、なにやら考え込んでいるようだった。


え、なにこの状況?



「お目覚めですね、体調の方はいかがですか?」



こちらを覗き込んでいるその顔はどこが見覚えがあって... 召喚の時紹介された姫様ですねこの子、名前は確かスズだったような。


この子が一番タイプですねはい。正直に言いましょう。手にちょうど収まりそうなサイズの3.14、透き通るような声、そんでもってこの積極性。こっちが勇者ってことで心も体も許しちゃってる距離感でしょこれは。



「おはよう、体はどこも痛くないけれど... どうして胸を?」



あ、指がピクって動いた。手、スベスベで柔らかいなぐへへ。こんなの意識するほうが無理っていうか寝起きなのも相まって俺の股間がやばい...


いや本当にやばい!?



「ぐあアアッッッッ!!」


「いかがなさいましたかっ!?」



痛い痛い痛い痛い痛い!!


直立しかけた俺のリュウジが根本から先まで燃えるように痛い...!!痛みの感覚が波のように上下に這い回る...!


あ、萎える。


しぼんでいく。川の水が高いところから低いところへながれるように、気体が発散するように、表面を滑る物質が摩擦でいずれ停止するように。


ジンジンとやけどを負った後のような熱を保ちながら、人間が世界の理に逆らえるわけがないという当たり前の常識が、すりこまれていく。


俺のリュウジに適応されるわけがねえだろ!!



「うおおおおおおおおっっっ!!スズ!その手をよく見せてくれっっ!!!」


「ど、どうなされたんですか!?」



目の前で起きうる「誤解」などどうでもいい!おれはとにかく確かめなくてはならない!興奮しなくてはいけないのだっ!


その柔らかな右手を乱暴に両手で掴み、俺の荒い鼻息がかかる距離でじっくりと観察する。滑らかな、きめ細やかな、美しい手。お姫様だからか、水仕事などのあとは見られない。


この手が...おれの胸板を触っていた!!


力があああああ!!みなぎってくるうううう!!



「うおおおおおおおおっつ!!ぐ、ぐあああああああああああっ...!!くっそがあああああああっ...!!」


「ゆ、勇者様!?」



リュウジがっ...!燃えるようにあついっ...!熱の流れが... !根本から先端まで渦を巻くように流れる!


あ、萎える。


まるで無限に膨張していく宇宙に放り込まれたような。エントロピーの流れの方向が決まっているように、喜びが、力が、欲が、発散していく。


そこに残るのは、「俺はスズという女性の手を握っている」という事実だけ...


え、女の子の手?



「ぐああああああ!!疼くっっっ...!!」


「大丈夫ですか!?今治療しますから!」



言うが早いか、俺の両手を振り払い、スズはまたもや右手で俺の胸板に触れてくる。


俺の胸板に触れてくる。



「あああっっ!!待ってタンマタンマタンマっっ... !!」


「ど、どうして?どうして私の能力が効かないんですか?」



待て待て待て、萎えない!萎えなければ死んでしまう!手をほどくんだ!全力で!!


ジタバタと、もうろうする視界の中で、手足を必死に無我夢中でうごかした。速さも、向きも考えずに、駄々っ子のようにただジタバタと。


そんな状況で起こりうる可能性はただ一つだ。マーフィーの法則を知っているだろうか?それは、起こりうる最悪の状況は起こるという法則。買ったばかりの靴を履いている時に限って雨が降るのなら、俺の短剣がダガーしている時に「事故」るのは世界の理ということ。


ムニッ


それは、慎ましくあり、控えめで、それでいて反発力のあるマシュマロだった。初めてのそれは俺の指をほんのり食い込ませてくるようで、押し返し、俺の手を離さないように、こちらが掴んでいるのに掴まれているような感触を与えてきた。


異世界って、いいですね。


世界から光が消えた。



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リリーの絵を近況ノートに上げたので、良かったら見てってください!





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