第49話 悪霊は聖霊の始まり
「ふぁ~あ、見張りだりぃなぁ……」
一体の悪魔が廃城の城門前で欠伸を掻く。
今は深夜。昼夜逆転でもしている生き物でなければ大概眠気に襲われる時間帯だ。それは悪魔も例外ではなく、今にも閉じてしまいそうな瞼をゴシゴシと擦る。
一方で、そんな仲間の姿を見た悪魔は『おいおい……』と声を掛けた。
「あんまり文句言うなよ。お頭に聞かれて怒られるのは俺達なんだぞ?」
「どうせ聞こえちゃいねえよ……今頃捕まえてきた若ぇ女とよろしくヤってる最中だろ」
「ハハッ、違ぇねえ。それにしても女共が不憫だぜ。人間の賊どころか悪魔に犯されるたぁ夢にも思ってなかっただろうな」
しかし、これまでがあまりにも暇であったが為に、ついつい注意をした方の悪魔も談笑に興じ始めた。
そもそもこの廃城は隠れ家。そうそう人目に付くこともなければ、悪魔が屯していると分かって侵入してくる馬鹿も居ない。
「今日シャックスが連れてきた女はちょっと田舎臭ぇツラしてやがったがよぉ」
「それがいいんだろ。色も知らねえような小娘の純潔を汚すのは最高だぜ」
「ハハッ、趣味が悪ぃな。俺はもうちょっと都会に染まったような……ん?」
不意に一体の悪魔が遠くを見やる。
「おい、急になんだよ」
「……あれ見てみろ。誰か近づいてくるぞ……!」
「なんだと!?」
見知らぬ人影を発見した悪魔はすかさず剣を抜いた。
ロクに手入れされていない無銘の数打ちではあるが、悪魔の膂力から振るわれれば、それでも十分に人間を両断できる威力を発揮する。
だがしかし、こちらに歩み寄って来る人影は止まる気配がない。
見えていないのか、そもそも気づいていないのか。
一瞬その可能性が脳裏に過った悪魔だが、すぐにそれが間違いだと身をもって知った。
「へぁ?」
「あ? お前、首──」
言い切るより前に、二体の悪魔の首が刎ね飛ばされる。
悲鳴や絶叫が響くよりも早くに、悪魔は息絶えた。
すでに塵となりつつある悪魔の先に進んだ人影は、固く閉ざされた城門を前に一旦足を止めた。
「……開きそうにはないな」
おそらく閂でも掛けられているのだろう。
この場合、向こう側に閂を外す人員が配置されている場合がほとんどだが、この場合はその人員も悪魔である可能性が高い。
『おい、どうした? 物音がしたぞ』
(……しくじったな)
悲鳴こそ出させずに悪魔を仕留めたものの、体が倒れる音や剣を落とす音まではカバーできなかった。
不幸にも城門の向こう側に居る門番が、その音を耳聡く聞きつけたらしい。
(……仕方ない)
『どうしたと聞いている。何かあったか? 返事を──』
「──ぉぉぉおおおおおッ!!!」
「んなッ!!?」
刹那、固く閉ざされた城門が凄まじい勢いで開門……否、破壊された。
轟音を響かせながら木片を飛び散らせる城門は倒れ、向こう側に佇んでいた悪魔をまんまと下敷きにする。
「し、侵入ぎゃ!!?」
下敷きになった悪魔が仲間に侵入者の存在を知らせようとするも、その寸前で上から圧し掛かる城門ごと踏みつけられる。
その衝撃だけで悪魔の肉と骨は潰れ、瞬く間に絶命した。
間もなく騒ぎを聞き付けた悪魔が何体も駆けつけてくる──が、しかし、彼らは一様に現れた侵入者を見るや否や、その顔を大いに引き攣らせた。
何故ならば、目の前に立つ巨漢が鬼の如き形相を湛えていたからだ。
今にでも目に付いた全員を斬り殺しそうな威圧感。研ぎ澄まされた殺気を孕んだ眼光を向けられるだけで、悪魔は今日が命日であると錯覚してしまった。
「だ、誰だてめえは!!?」
「──今日、ここに若い娘が連れて来られたはずだ」
「若い……!!? まさか……ちっ、もう聞きつけてきやがったか!!」
侵入者の言葉から察したのか、悪魔は各々武器を抜いた。
「殺せ!! 捕えた女を一人も帰させるな!! さもなきゃあ……俺達が殺されるだけだぞ!!」
「「「おう!!」」」
音頭を取った悪魔が一番槍と化し、侵入者へと突撃する。
だが、
「鈍い」
「はへ……?」
一瞬のすれ違いを終えた瞬間、悪魔の首は宙を舞っていた。
「そん゛なッ……馬鹿なぁ……!?」
「……下種共が」
侵入者は身の丈ほどの大剣──グレートソードを軽々と振るい、刀身にまとわりついた僅かな血の汚れを振り落とす。
凄まじい膂力だ。刀身が空を薙ぐだけで、辺りを猛烈な暴風が襲い掛かる。
取り囲む悪魔の顔に浴びせられる暴風の目に佇む巨漢は、静かな佇まいで、されほ燃え上がるような怒りを瞳に宿し、こう叫んだ。
「──俺の名はベルゴ!! 教皇より聖堂騎士団騎士団長の称号を賜れた騎士なり!! 悪魔共よ!! 俺の命が欲しくば、その命を以て掛かってくるが良い!!」
「う、ぐッ……!!?」
「舐めた真似を……たかが一人だ!! 囲んで叩けばどうとでもなる!!」
「そうだ!! 一人でノコノコと来やがって!! てめえの首……あのお方に献上してやるぜぇ!!」
おぉ!! と悪魔は威勢良く雄叫びを上げる。
その数は優に30を超えた。雄叫びは夜空を震わせる大音声となって、ベルゴの身一つに襲い掛かった。
が、しかし。
「遅いッ!!!」
「ぎゃあああ!!?」
「ぐああああ!!!」
「な、なぁ……!!?」
ただの一振りで、三体の悪魔が真っ二つにされた。
反撃する間も……いいや、そもそも反応することさえ出来なかった。
グレートソードの大きさ、そして質量。
そいつをベルゴの膂力を以てして振るわれたが最後。木っ端の悪魔の肉体など、腐った野菜同然に容易く切り裂かれていく。
「ひ、ひぃいいぃ……!」
「……」
一部の悪魔が怯え竦む中、ひっそりと物陰から眺めていた一体の悪魔が走り出す。
(不味い……不味いぞ! あんな化け物なんかいくら束になって囲んだところで敵いやしねぇ!)
コウノトリのような頭を持った悪魔シャックスは、その顔に焦燥を滲ませながら、とある場所を目指していた。
(このままじゃ全員
ゾクリ、とシャックスは全身が粟立つ感触を覚えた。
自分が殺される未来を想像したからではない。
もっと先の未来──女と死体を解放された先に訪れる最悪の事態を想像したからだ。
(それだけはあっちゃならねえ! 一人だけでも確保して逃げる! そうすりゃあ……!)
走るシャックスが辿り着いたのは、女が捕らわれている地下牢だ。
勢いよく扉を開ければ、そこには退出前と同じく女で遊んでいた一体の悪魔が狼狽えながら佇んでいた。
「おい、シャックス! 表の騒ぎはなんなんだぁ!?」
「騎士が一人攻め込んで来やがった! だが恐ろしく強ぇ! このままじゃ間違いなく皆殺しにされる!」
「あぁ!? じゃあここで何してんだ! てめえもさっさと表に出、て……」
突然喚き散らしていた悪魔の言葉尻が萎んでいき、シャックスの背筋には嫌な予感が走った。
咄嗟に入り口の方へ振り返るった、まさにその瞬間。
「〈
「〈
「ぐぁ!!?」
カッと閃光が瞬いたかと思えば、魔力の光と水がシャックスを襲った。
全身を弾き飛ばす衝撃をモロに喰らい、シャックスの体は地下牢の壁へと叩きつけられる。
「う、うぐ……!?」
「にゃ~るほどねぇ~。ここに隠してた訳だ」
「て、てめえ……いつから……!?」
「何時ぅ?」
入口に佇む二つの人影の内、鉄仮面を被った剣士が一段階段を下りた。
コツンと足音を響かせた剣士は、鉄仮面の奥に佇む瞳を愉快そうに歪ませ、ヘラヘラと笑いながら続けた。
「強いて言えば……最初からだな」
「く、くそッ!」
「そこから動かないで! 動いたら狙い撃つ!」
シャックスが立ち上がろうとした瞬間、杖先に光を灯すアータンが前へと躍り出る。
彼女が今繰り出そうとしている魔法は〈
もし仮に悪魔が先に動いたところで、照準さえ合っていれば必中に等しい命中精度を発揮する……そういう魔法だ。
「こいつを見ろぉ!」
しかし、そんな〈光魔法〉を防ぐ手段も勿論存在する。
「魔法を撃つのは勝手だがこいつがどうなってもいいのかぁ!?」
「ッ……嘘……!?」
シャックスとは別に地下牢に居た悪魔。
現れた侵入者に怯えて震えると小物臭が拭えないが、その腕に抱き抱えられたものを見た瞬間、アータンの顔が壮絶に歪んだ。
「ベアティちゃん……!?」
シルウァの村より連れ去られた婚前の少女。
その少女が薄汚れた姿で、生気を失った瞳を浮かべていたのである。何か大切な物がすっぽりと抜け落ちてしまったもぬけの殻のような様子に、アータンの脳裏には最悪の想像が浮かび上がる。
「貴方達……!」
「少しでも動いたらこの小娘の命はないと思えぇ!」
「ラ、ライアー!? どうしよう……ベアティちゃんが!」
「……」
「ベアティ!」
アータンがライアーに打開策を求めた瞬間、今度は扉を蹴り破る形で巨大な人物が地下牢へとやって来た。
「こいつ、もう……!?」
シャックスが驚くのも無理はない。
何故なら今乱入した巨漢こそ、ついさっき悪魔にカチコミを掛けた騎士ベルゴだったからだ。
その彼が来た。
それすなわち、迎撃に出た悪魔を全滅したことを意味する。
戦力差は圧倒的だ。最早勝ちの目は見当たらない。
ただ生き残ることだけを目的とするならば、なるほど、外道に落ちたとしても人質を取る選択が正しいだろう。
(──でもなぁ、)
刹那、悪魔の腕の中からベアティが消える。
「なっ──」
「へっ、こっちだ」
「シャ──シャックスぅううう!! てめえ、何のつもりだあああ!!?」
忽然と消えた女の姿に狼狽える悪魔であったが、その女がシャックスの手の中にあると分かった瞬間、動揺は一瞬にして霧散。怒髪冠を衝く怒りへと変換される。
しかし、存外悪魔は冷静だった。
女は地下牢にいくらでも転がっている。先は偶然ベアティを選び取ったものの、人質にして足止めできるのならば誰でもいいのだ。
「武器を捨てろ!! 今すぐにだ!! 俺に逆らった瞬間、このアマが死ぬと思え!!」
「「「なっ……!?」」」
「どうしたぁ!? 武器を捨てろと言ってんのが聞こえねえか!? 本当にこのアマを殺すぞぉ!!」
女を盾にする悪魔を前に、アータンとベルゴ……それに何故かシャックスまでもが愕然としていた。
この温度差の違いは一体なんなのか。
「な、なんだぁ!? 呆けたフリしたって無駄だぞぉ!?」
「いや、あの……」
「いいのかぁ!? 本当に殺すぞぉ!!」
「その人……」
「あぁ!? こいつがなんだって、ん……だ……?」
アータンが恐る恐る指先を向けてきたのを見て、悪魔は怪訝に首を傾げた。
──なんだ? この女の何が特別なんだ?
そう思いつつ顔を覗き込んだ瞬間、悪魔の顔が凍り付く。
「やっほい☆」
「……は?」
「乙女の体に馴れ馴れしく触れるなぁーーーっ!!!」
「げほぉ!!?」
いつの間にか女の姿は鉄仮面の剣士に変化しており、振り返りざまに繰り出された拳が悪魔の顔面を捉えた。
「ぎゃば!!?」
吹っ飛ばされた悪魔は地下牢に壁に叩きつけられる。
ぶつかった衝撃で地下牢全体に砂埃が降りかかる辺り、相当の威力だったのだろう。
「ば、馬鹿な……いつからすり替わって……!?」
「ん? 最初からだけど……」
「最初ってどこだ!? いつ地下牢の扉を開けた!?」
「『童顔の女が毛深いと興奮するなぁ……!』って言ってた辺りから? 罪深い性癖しやがって……」
「一時間ぐらい前じゃねえか!!?」
最初のレベルが違い、悪魔は思わず絶叫する。
一方でライアーの暴露を聞いたアータンは、『最低……』と心の底から軽蔑する目を悪魔に向けていた。
しかし、ここで依然として困惑する人間が二名ほど。
「お、おい……どうしてお前が二人居る……?」
「──〈
「なんだと!?」
ベルゴが驚愕する一方、ライアーはおもむろに指を鳴らす。
すると、シャックスが掴んでいたベアティの肉体は初めからそこに無かったかのように消えていくではないか。
これにはシャックスも瞠目し、言葉を失っていた。
「ベアティ!?」
「本物はもう安全な場所に連れ帰ってるよ。今見えてたのは俺の分身が生み出した分身……つまり、偽物のベアティだ」
「偽、物……?」
次の瞬間、ベルゴの肩はがくりと落ちた。
それも無理はない話だ。覚悟を決め、いざ悪魔の手より救おうとしていた愛娘がすでに救出されていたのだ。脱力して然り、といった状況であろう。
「いつから……なんだ?」
「──シルウァの村でグラシャラボラスに殴り飛ばされた瞬間」
またはシャックスに剣を奪い取られた、まさにあの時だ。
ライアーは彼らの会話を聞き逃しては居なかった。
「こいつらには村人の殺害以外に目的があると踏んだ俺は、吹っ飛ばされて姿が見えなくなった時、〈
「!?」
尾行されていたと気づいたシャックスは、今度こそ放心状態となり、その場に膝から崩れ落ちた。
拠点と仲間の壊滅……それを引き起こしたのが自分のミスだと気づいた衝撃は、そうするだけに余りあったのだった。
「シャックスぅ~!!! てめぇえええ……!!!」
「ちなみに一旦侵入して、女の子連れ帰って、また帰って来た。だから合計三回お前の隣を横切ったことになる」
「三回!!? 三回も横切られたの俺!!?」
いくら行為に夢中だったとはいえ、三回も横を通られていた事実に悪魔はショックを受ける。
「いや、待て!!? だとしても俺が相手していた子は一体……!!?」
「俺が生み出した幻だ」
「な、なにィーーっ!!? じゃあ、あの瑞々しい肉を打ち付け合う感触は……!!?」
「俺が生み出した幻だ」
「部屋中に響き渡る卑猥な水音は!!?」
「ハンバーグの空気を抜く音だ」
「人のアジトでハンバーグ作ってんじゃねえよ!!!」
「こちらが現物となっております!!!」
「いや待て、生ならタルタルステーキじゃああああっ!!?」
生のハンバーグ(タルタルステーキ)を顔面に叩きつけられた悪魔は、そのまま後頭部を固い床に打ち付けられて気を失った。
「いいか、お肉は加熱がマストだ」
「何の話?」
中世ファンタジーの生食の危険性を訴えたところで、残る悪魔は一体のみとなった。
と、その前にだ。
ライアー(本体)とライアー(分身)が、鉄格子越しに見つめ合う。
「よくやったな、俺。褒めて遣わそう」
「お褒めに預かり光栄だ、俺」
「ところで俺。逃がした人達の護衛はどうしてる?」
「安心しろ、俺。俺の〈もう一人の自分〉が行ってる」
「そうか、俺」
「どんなもんだい、俺」
「良い仕事だぜ、俺」
「『俺』が語尾の部族?」
本体と分身の何にもならない会話を聞かせられるアータンは、得も言われぬ表情で淡々と突っ込んだ。淡々アータン再来である。
かくして、任務遂行した分身は親指を立てながら霧散して消えた。
同時に分身を構成していた魔力はそのままライアーへと還元され、彼が握っていた剣も心なしか魔力の輝きが増すではないか。
「へっへっへ! さぁ~て、後はお前だけだなぁ? あん時ゃーよくもアタクシの剣をひったくってくれましたね~、えぇ~!!?」
「……へ、へへっ。なるほどな……グラシャラボラスはてめえにやられたのか」
「様付けはやめたのか。ま、あの殺戮ワンちゃんならきつ~くしつけといたぜ」
「ははっ……なんだよ。それじゃあ俺達がいくら束になったところで……」
シャックスは諦めたように俯いた。
そんな彼の下へ大剣を手にするベルゴがゆっくりと歩み寄る。溢れ出す殺気を隠さぬ彼は、今にも相手を射殺しかねない眼光を閃かせながら、いよいよ大剣を振り上げた。
「……せめて苦しまぬよう、一太刀で屠ってやる。首を差し出せ」
「なあ、聞かせろ。あの娘……さっき俺が人質にしたのはあんたの娘か?」
「……そうだ」
「でも、本物はもうここには居ないんだよな?」
「そうなるな」
「そうか……じゃあ、そこのクズに無理やり手籠めにされた娘は居なかったって訳だ」
──良かった。
心の底から漏らすような呟き。
それを聞いたベルゴの手は、一瞬ピクリと震えた。
「……良かった?」
「──が、あぁあ、あああああ!!?」
「「!?」」
何事だとベルゴのみならず、シャックスも地下牢の中へと目をやった。
そこにはさっき生肉を叩きつけられた悪魔が気絶していたはずだが、まさにその悪魔が胸を押さえて苦しみ悶えていたのだ。
「ぎ、があ!!? あぁあ!!?」
「こ、これは……!? おい、そこのお前! これは一体なんなのだ!?」
「し、知らねえ! 俺もこんなのは知らねえぞ!?」
「馬鹿を言え! こいつは貴様の仲間だろうに!」
「本当に知らねえんだよ!」
突然の事態にシャックスへ詰め寄るベルゴだったが、知らぬ存ぜぬで押し問答にしかならない。
その間にも悪魔の体には無数の魔力回路──
「ともかく地下牢から出るぞ!」
ライアーの勧告を受け、アータンやベルゴは勿論のこと、シャックスすらも慌てて地下牢から逃げ出す。
そうして地下牢から出た直後、地下牢の中はまるで爆発したかのような閃光と衝撃に包まれた。
廃城全体に奔る衝撃はそのまま脆くなっていた部分を倒壊させ、あちこちから小さくない土煙がいくつも巻き起こった。
「う~わ、あっぶねぇ~~~! 先に捕まった子達逃がしといて正解だったぜ! なあ、俺!? ……おい、返事しろよ俺。俺ぇーーー!!?」
「俺はさっき消えちゃったでしょ」
「そ、そうか……フォーエバー・俺……お前のこと、ずっと忘れないぜ……」
「言っている場合か!?」
淡々とツッコむアータンに代わり、キレのいいツッコミはベルゴが担う。
しかし、三人が漫才をしている間にも廃城全体を襲う揺れは収まらない。
「……おい。なんだか揺れが激しくなってきてねえか?」
「魔力もだんだん膨れ上がってきてるような……?」
「っ!? 見てみろ!!」
異様な雰囲気に警戒するライアーとアータンであったが、そんな二人に先んじて、ベルゴが夜空に何かを見つけたように指先を向けた。
「あれは……一体!!?」
今日の夜は月が雲に覆い隠される微妙な天気だった。
そのはずの空に煌々と瞬く光があったではないか。
だが、それは決して月などではない。
もっと歪で、もっと邪悪な魔力の塊──。
「悪魔の魂が……集まっていく!!?」
戦慄するベルゴの叫びが夜空に木霊した。
その時だ。
ぐちゃり、と粘着質な音を響かせて、宙に浮かぶ光の玉からドス黒い血液が溢れ出してくる。
すると今度は光に血管のような文様が無数に走り、玉全体が生々しい肉の色へと変貌していった。
断続的に収縮を繰り返す光の玉は、まるで心臓のように蠢動を続ける。
ただならぬ空気に三人が武器を構えた。
まさにその瞬間、闇に埋められた心臓からいくつもの悪魔の顔面が浮かび上がり、苦悶の絶叫を響かせ始めた。
『あ、あああああああっ!!?』
『ぎぃいいい!!?』
『ばああ!!? ばあああああ!!!』
「な、なにあれ……?」
「──レギオンか」
「レギ、オン……?」
何か知っている口振りのライアーに、強張った顔のアータンが振り返る。
「レギオンは
「幽体って……じゃあ、実体はないの!?」
「物理攻撃は有効打にはならねえ。その代わり魔法が弱点だ! 特に……神聖な〈光魔法〉にはな!」
「! ……うん!」
そう言って掌に魔力を集めるライアーを見て、アータンもまた杖先に魔力を集中させる。
弱点が分かっているのであれば過度に恐れる必要はない。冷静に立ち回り、的確に弱点を突いて戦うだけだ。
「……こういう時のライアーはカッコいいんだから」
「ん? なんか言った?」
「なんでもない! 魔法が弱点なんでしょ? それなら私に任せて!」
「ヒュ~♪ さっすがアータン! 俺達の天使♡」
「今からかうの禁止!」
「はい、すみません」
軽くアータンに怒られたところで、ライアーは真面目にレギオンに相対する。
「──待て」
「うん?」
「ここは俺に任せてくれ」
だが、いざ戦闘を始めようとした時、ライアーとアータンの前へとベルゴが躍り出た。
「任せてくれって……相手はレギオンだぜ? 全員で囲んでやった方が早いだろ」
「いいや。お前達には先に逃がしたベアティ達の下へと向かってほしい。万が一にも野生の魔物に襲われては敵わんからな」
「保護者ァ……」
「それにだ」
刹那、ベルゴの背後に後光が差した。
目を開けて居られぬほどの光にアータンが『ぴっ!?』と悲鳴を上げる一方、薄目でベルゴを見続けていたライアーは、光臨した存在を前に感嘆の声を漏らした。
「そいつは……!」
「この程度、俺の敵ではない」
ベルゴは紡ぐ。
祈るように。
「──〈
ベルゴが一喝した瞬間、彼の背後で炎のように揺らめいていた魔力が形を得た。
灰色に染まる魔力の炎は、みるみるうちに人間の──否、そのサイズ感はもはや巨人と言って差し支えない威圧感を伴い、ベルゴの背中に現れ出でた。
「聖霊か……!」
「然り。聖霊とは我が身に宿る三位一体の一角! すなわち、魂を担う力!」
「つまり、魂特攻の武器ってか……!」
興奮した声音を紡ぐライアーは、降臨した聖霊から溢れる力の波動に、鉄仮面の奥に笑みを禁じえなかった。
何故なら……。
(な、生聖霊! カッチョえぇ~~~~~!)
彼は強火のオタクだったからである。
「来い、レギオンよ……その穢れた魂。我が魂の剣で切り裂いてくれるわ!!!」
「ウッヒョーーーーーッ!!! あっ、心の声出ちゃった」
「何奇声発してるの?」
「ごめんなさい」
魂と魂の激突を前に、オタクの魂もまた口から飛び出てしまった。
そして当然のように怒られたのであった。
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