第39話 裁判は審判の始まり
「被告人、前へ」
「はい……」
俺達の前に正座する軟体生物のような生き物──否、緑色の蛸。
しかし、そいつはただの蛸ではなかった。足らしき部分が8本あるのにも関わらず、蛸の部分から首下がしっかりと存在しており、人間らしき手足が生えている。
このような魔物は存在しない。
少なくとも俺は知らない。
ということは、つまりだ。
「魔人……いや、悪魔か?」
「ま、待って待って待って待って! 剣を抜かないでください!」
「えぇ~」
「お慈悲ッ! お慈悲をください! 私は何の罪もない善良な魔人なんです! だからその剣を収めてくださいッ!」
「なんだこいつ」
俺が剣を抜くや、涙を湛えて命乞いをし始める蛸の魔人。
つい先日アガレスやフォルネウスといった悪魔と戦ったばかりだが、そいつらと並べて語るのも烏滸がましいほどの覇気のなさだ。
「ねえ、ライアー。なんか可哀そうだから剣納めてあげない?」
「しょうがないにゃあ……」
アータンがそう言うのであれば仕方ない。
俺はフィクトゥスを鞘に納め、ブルブルと震える蛸の魔人の前に立った。
「お前、名前は?」
「私ですか? 私、ダゴンと言います」
「魔人だな。どっから来た?」
「それを語ると少々長くなってしまいますが……」
「あー、じゃああれだ。先にどうしてここに倒れてたか、その理由から訊こうか」
「理由ですか? それは無論ここを通りがかった女冒険者のパンティーを覗く為ですが」
「そこになおれ、首を叩っ切っちゃる」
「お慈悲ィーッ!!」
「ライアー! ……やっちゃっていいよ」
「お゛慈悲ィ゛ーーーッッ!!!」
ビタンビタンと暴れまわるダゴンを押さえつける。
だが、器用に触腕を使って抵抗する奴の首を叩き切ることは叶わなかった。アータンのおパンティーを覗こうとしやがって、クソが。俺の全身にある百個ぐらいの逆鱗の4つ、5つぐらいに触れたぞ。
「はぁ……はぁ……ほ、ほんの冗談じゃないですか……」
「冗談でも許されざることがあると知れ」
「いや、ホントそれについてもう。たった今身に染みて学びました」
「はぁ……で? 実際のところどうしてここに居たんだ?」
「うーん、やはり女冒険者のパンティーを見てみたいというのは半分本心ではありますが……」
「──
「お待ちなさい、そちらのお嬢さん! 魔法の詠唱はやめて!」
たこ焼きになっちゃうから! とダゴンは地べたに頭を擦りつけて命乞いをする。
いや……さっきの今でそんなことほざいたら、そら怒られるに決まってるだろ。見てみなさいよ、アータンの目を。バッキバキに決まってるぞ。憤嘆アータンだぞ。
けれど、たこ焼きを作ったところで情報は得られない。
仕方なくアータンを宥めた俺はダゴンの前に居直す。
「──実は私、少し前に地獄から地上に上がってきたばかりの魔人でして」
「少し前っつーと、アガレスらが侵攻してきた時か?」
「そうですそうです。そのシュガーレスみたいな名前の悪魔です。そいつが地獄から魔物を引き連れた時、私もあれこれ言い包めて一緒に付いてきたんです」
「アータン裁判長、いかがいたします?」
「
「あっ、そういう感じで行くんですね!?」
アータンの断罪ポイントを稼いだところで、ダゴンは必死に弁明を始める。
「違うんです! 私、地獄から出てきたけど悪い魔人じゃないんです!」
「じゃあ『プルプル。ぼく、悪い魔人じゃないよ』って言ってみな」
「えっ? あぁ、はい! プルプル。ぼく、悪い魔人じゃないよ……どうですか?」
「触腕の動きがいやらしい。ギルティ」
「お慈悲ィーッ!」
結構ノリ良いな、こいつ。
徹頭徹尾人を見下してきたアガレスなんかより、俺個人としては数倍印象が良い。案外悪い魔人じゃないというのも嘘ではないかもしれない。
「私はただ地上に出てきたかっただけで、悪魔共は利用しただけなんです! 信じて!」
「……お前、地獄のどの辺から出てきた」
「どの辺? どの辺って言われても正直どこがどこだか……あっ、でも川の近くですね。そこでずっとボーっとしていました。あと近くに門もありましたよ」
「っつーことは辺獄か。死ぬ前に洗礼を受けてなかったクチだな」
「あー、たぶんそういうことかと」
ダゴンは煮え切らない返事を返すが、恐らくはこの推理で間違いない。
地獄もいくつかの階層に分かれている。辺獄はその中でも一番浅い場所にある場所だ。これといった罪は犯してはいないが、洗礼を受けなかったが為、とりあえず放り込まれるような場所だ。
ギルシンの世界、罪を犯した魂は地獄に放り込まれる。
そこでは悪魔達と共に永遠の責め苦を受けるわけだが、地獄にはいくつか地上に続く抜け道があり、そこから何かしらの手段で肉体を得た悪魔が侵攻してくるのだ。
つまりダゴンは、リーパの村やグラーテを侵攻する悪魔の軍勢に乗じる形で、地獄から抜け出したということになる。
まあ、辺獄出身ならそこまで悪事を働いていないという証明にはなる。
俺はアータンを手で制し、杖先に灯る炎を一回り小さくさせた。
「それで? 地上に出てきてお前は何をしたかったんだ?」
「いやぁ、特にやりたいことがあるってわけじゃないんですが……」
「暇だから出てきたと」
「そういうことになりますね」
「じゃあ、なんでここに倒れてた?」
「行く当てもなく彷徨ってたら行き倒れてしまって……このまま死ぬなら、せめて女冒険者のパンティーを見たいなぁと……」
「
「待って!! 今〈
アータンポイント、2ポイント目だ。
だが、今ここで殺してしまうわけにもいかなくなる事情ができた。
地獄からの抜け道──そいつは聖堂騎士団が喉から手が出るほどに欲しい情報だ。うまくやれば向こうが侵攻する前に対処することができる。
裏を返せば、それだけの情報を持ちながら女冒険者のパンティーを覗こうとしているこいつは、同族からしてみればすぐさま処刑されても文句は言えない立場にある。
つまり、人類の為にはこのエロ蛸の保護が必要なのだ。
……なんか釈然としねえ。
とりあえずアータンは止めておく。
耐えるんだ、アータン。こいつをぶちのめしたいのは俺も同じだから。
「次はもっとデカいのが来るから言葉を選べよ」
「いや、はい、重々承知いたしました」
「……なんでそんなに女冒険者のパンティーを見たいんだ?」
「……魔人はですね、パンティーなんて穿かないんです」
「……ほう?」
なんか神妙な語り口だったので、真面目に聞いてみることにする。
隣のアータンが今すぐにでも〈大火魔法〉を撃ちたそうにしているが、まだその時ではない。
「私は地獄でボーっと生きていました……その間見かける同族は全員真っ裸で、さながら恥じらうという感情を母親の胎内に忘れてきたが如し……」
「お、おぉ……」
「地獄に蔓延る暴力と喧騒に疲れ果てた私は、生命とは一糸纏わぬものだとばかり信じ切っていました──ですが!!!」
「急にデケェ声出すな。シャウトラットが反応するだろ」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』
「ほら」
しかし、語りに熱が入るダゴンはシャウトラットの叫びを厭わずに続ける。
「地上に出てきて見てしまったのです!!! 女性の冒険者が魔物との戦いで破れた衣服を必死に押さえ、恥じらう姿を!!!」
「
「〈
そう蛸魔人は懇願する。
うーん……結論聞いても大した内容じゃないと思うけど、一応聞いておくかぁ。
「それで?」
「恥じらうということは、それすなわち見られたくない場所!!! つまり、その布切れ──否、パンティーを見る行為そのものに値千金の価値があるのではないかと私は思った!!! あの時の胸の高鳴り……あれこそが生の実感だったのです!!!」
「アータン、やっちゃっていいよ」
「
「〈
お前は文字通り地獄の業火に焼かれるべきだよ。
特にアータンのパンティーを見ようとしたという一点が、俺にとっては許しがたい。
しかし、流石に〈憤怒の業火〉を撃つつもりもない──そもそも撃てない──アータンは、ほとほと呆れた顔を俺の方に向けてきた。
「ねえ、ライアー……この蛸さんどうする? 海に帰す?」
「うーん、帰されたところで海側が迷惑するだろうしなぁ……」
「自然に拒否されるレベルですか?」
「牢屋にぶち込むかぁ……」
「そうだね……」
「お慈悲ィーッ!!!」
そう言ってダゴンは平身低頭、地面に頭を擦り付けて命乞いを始める。
お前にはプライドというものがないのか……ないか、地面に寝っ転がって女冒険者のパンティー見ようとしてたんだもんな。
「お願いします許してくださいなんでもしますから!!!」
「罪を償え、ダゴン。話はそれからだ」
「パンティーを、パンティーを覗き見ようとするのがそんなにいけませんか!!? 誰も傷つけていないというのに!!!」
「いや……」
アータンは控えめに手を上げ、心底呆れた眼差しをダゴンへと送る。
「相手が見られたくないものを無理やり見ようとするのは立派な暴力だよ……心の傷害だよ?」
「……」
「体を傷つけないことだけが暴力じゃないってことはちゃんと理解しないと……」
アータンが静かに語った後、しばしその場に静寂が訪れる。
するとダゴンは、近くにあった手ごろな尖った石を、自分の腹に突き付けた。
「……そんなことも分からずにパンティーを覗こうとしていたとは何たる浅慮!!! 私は大罪人です!!! この命を以て償います!!!」
「よく言った、ダゴンどん。介錯しもす」
「生まれ変わったらきちんと許可を取ってパンティーを覗きます!!! 今生よ、さらば!!!」
「待って待って待って!!? 全体的に待って!!? 待てぇーーーーーッ!!!」
待てと言われたので俺とダゴンは止まる。
そんな……これからが薩摩の
「分かってくれたならそれでいいから! 許すから!」
「ゆ、許してくれるんですか……?」
「私のパンツに命を背負わせないで!」
「うぅ……貴方は聖女だ……!」
アータンの慈悲に、ダゴンは歓喜の涙に咽び泣く。
相手が優しくて良かった。これが俺の知り合いの翼の折れたエンジェルだったら懇願の暇すら与えられずに消し炭にされていたところだぞ。
「よかったな、ダゴン……」
「はい……ところで、許可を取ったら見せてもらえるってことでしょうか?」
「ダゴンどん、そけなおれ。わいん首を叩っ切ってやっ」
「待って、そういうことじゃないんですか!!?」
今の話をどう解釈したらそうなるんだよ。
見ろ、アータンの顔を。ここまで呆れと侮蔑の眼差しを向けられた相手は、かつて存在しないレベルだぞ。絶対零度の視線だ。
アータンが〈
「そうですか……パンティーは見せてもらえませんか……」
「そんなにパンティーが見たいならランジェリー店でも経営しろよ」
「この見た目でできると思います?」
「その判断力をもうちょっと倫理の方に割り振れたらな~」
「地獄で暮らしていた魔人に倫理観を期待する方が間違ってると思うんですよ」
「お前わざとか? わざとなのか?」
「滅相もない!!」
俺が剣を抜こうとすると、大慌てでダゴンが頭を左右に振った。
なんか無駄に話が通じるのが苛立ちを加速させている気がする。
さて、粗方事情聴取は済んだ。
問題はこいつの処遇……具体的にはどこに引き渡すかだ。
「基本的に今プルガトリア大陸に魔人は住んでいないからなぁ~。どうすっぺ」
「え、居ないんですか?」
「大々的に何族の村! みたいなのはない」
「そんな! じゃあ私はどこで暮らせばいいんですか!?」
「自己責任って言葉知ってる?」
「手厳しぃ~」
無理やり連れて来られたなら兎も角、自分で勝手に出てきた魔人の面倒を看る義理なんぞない。
「……けどまあ、魔人が暮らせる場所に心当たりがないわけじゃない」
「本当ですか!?」
「王都にそういう店がある。俺から紹介すれば話は通じる」
「わぁ、ありがとうございます! 地上にはこんな親切な人が居るだなんて……これが渡りに船って奴ですね!」
「ただ人様に迷惑を掛けようものなら蛸料理が食卓に並ぶから覚悟しておけ」
「もしかして魔人喰いの村だったりします?」
お前の態度次第によっては、そうなる可能性は無きにしも非ずだ。
そんなこんなでダゴンは王都のとある店まで連行する。放置したら無法のパンツウォッチャーが爆誕してしまう以上、放っておくわけにはいかない。
とりあえず腹を空かせたこいつにはリーパの村で買った貝ひもを与えるとして、さっさと次の宿場町へと歩み始めることになった。
だが、このままでは如何せん蛸の姿が目立ちすぎる。
「仕方ねえ……お前にこいつを貸してやるよ」
「マント? これで覆い隠せますかね……?」
「まあまあ。とりあえず魔力流してみろ」
「魔力? はあ……おぉ、これは!?」
俺の指示通り、ダゴンがマントに魔力を流す。
すると、一瞬にしてマントの部分が周囲に溶け込むではないか!
これにはアータンも目を見開いて驚いている。
「なにそれ!?」
「
「す、すごい! ……まあ、私普通に擬態できるんですけどね」
「蛸はですね、叩いてはんごろしにすると身が柔らかくなって美味しくなるんですよ」
「すみません! 言い出すタイミングがなかったんです!」
俺が鞘に入ったままの剣を構えると、擬態できるとか抜かしやがったダゴンが丁寧にマントを畳んで返却してきた。
先に言いなはれ!
俺の罪器をなんてことない魔道具みたいにほざきおって!
罪器ぞ!? 売ったら金貨数百枚はくだらんぞ!?
でも、そういえば最初擬態していたところを踏んでいたと思い返し、はんごろしにするのは思い止まる。
「それでは失礼」
そう言うとダゴンは一瞬にして周囲の景色と同化してみせた。
なるほど、確かにこれならシムラクルムが無くとも王都にこっそり入ることはできるだろう。宿場町でも騒ぎになることはあるまい。
「ねえ、ライアー」
「ん~? どうしたアータン」
「本当に大丈夫なの?」
ダゴンが擬態できると分かって俺が一安心する一方で、アータンが不安そうな眼差しをこちらに向けてきた。
「何がだ?」
「だって……擬態なんかしたら、また地面に転んで女の人のパンツを覗こうとするんじゃないの?」
「はっはっは、まさか。そんなさっきの今で……」
『アハハッ!』
『ウフフッ!』
噂をすればなんとやら。
足を止めて話し合う俺達の目の前から、若々しい女冒険者が二人、談笑しながら道を歩いてくるではないか。
うーん、笑顔がフレッシュで眩い。まだまだ駆け出しといった女戦士と女魔法使いだ。
「あ、こんにちはー」
「こんにちはー」
そんな女冒険者達は、俺達を見るや否や礼儀正しく挨拶をしてくれる。
うんうん、いい子達だ。ぜひともこれからもその純真な心を忘れないでいてほしい。
ところで、
「フンッ!」
「ていっ!」
「ぎゃあ!?」
「えっ!? あ、あの……急にどうしたんですか……?」
「いやね! ちょっと悪い虫が近寄ってきて!」
「は、はぁ……?」
「虫は気を付けてね! ホント! 刺されたら怖いから!」
「あ、ありがとうございます……?」
怪訝な面持ちを浮かべた女冒険者は、そのままこの場から去っていく。
そうすると俺の隣の景色がぼんやりと揺らぎ、そこから緑色の蛸魔人の姿がニュルニュルと現れた。
「おい、このエロ蛸。今何しようとしてた?」
「ちょ、ちょっと目で追っただけじゃないですか……」
「いい機会だから教えてやる。今お前は膝立ちすることも許されない」
「膝を突くことさえも!?」
地面に寝っ転がらなきゃいいって話じゃねえんだよ。
風が吹いてワンチャン……! みたいなのを望んでんじゃねえ。
「ライアー、この人もうダメだよ」
「蛸は脳みそが九つあるって言うし性欲も九倍か。ちょっと切り落としておくぐらいがちょうどいいか」
「そんな単純計算するべきものじゃない!! 一体どこ切り落とすつもりなんですか!?」
「頭」
「核!!?」
それもこれもお前の煩悩が原因なんだよ。
お前が地獄に落ちたのも、絶対その煩悩が原因だろ。
「自制できない性欲ってのも考えもんだな。一体どうすればいいのか」
「せめて一回生のパンティーを見せていただけたら……」
「俺のパンティーじゃダメか?」
「男の人のパンティー見てどうしろって言うんですか」
「チッ、しゃあねえ……ちょっと待ってな」
「え?」
文句を垂れるダゴンを黙らせるべく、俺はマント──シムラクルムで自分の体を覆い隠す。
俺が準備をしている間、『野郎のパンティーなんて見たくないですよ!』なんて戯言が聞こえてくるが、全て無視する。
さて……準備は整った。
「よーし、じゃあ行くぞぉー」
「えっ、本当に見せるつもりなんですか!? いやだ! 勝手に見られることが心の傷害と言うなら、勝手に見せつけることも心の傷害なんですよ!?」
「そいつは……これを見てから決めな!」
「ぎゃああああ!!? ……あれ?」
マントを取っ払った俺から目を背けるダゴン。
が、しかし、奴の視線はすぐさま俺の方へと釘付けになった。
「なっ……その御体は!!?」
「ジャーン♪ 実は私~、女の子だったんですぅ~♡」
「ほぁあああああ!!?」
歓喜の声を空に轟かせるダゴン。
そう……今の俺はライ子。堅苦しい鉄仮面や鎧を取り外し、必要最低限の衣類だけを身に着けた、黒髪ロングでナイスバディーの女冒険者だ!
身長は165cm! 体重は55kg! サイズは上から85、60、79!
切れ長で紫色の瞳孔に金色の淵で彩られた瞳をしており、左目の下には野郎共を悩殺する泣き黒子が付いている!
全体的に筋肉質だが、しっかりと女性らしい丸みを帯びた曲線は、まさに戦う女の肉体!
さながら彫刻の如き完璧な肉体だが……そこに蠱惑的な笑みに、茶目っ気を乗せたウインクをズドンよッ!
「ぴっっっ!!!」
ダゴンから悲鳴が上がる。
勝ったな。
「普段は他の人に舐められちゃうから男の振りしてますけどぉ~、ダゴンさんがどうしてもって言うならパンティー見せてあげても……いいですよ?」
「おおおおおお願いします!!!」
「もう……ちょっとだけですからね♡ ……チラッ♡」
「きゃああああああ!!! 紫でテラテラなレースパンティー!!!」
「きゃあ♡ 恥ずかしぃ~♡」
「がふッ!!!」
「墨吐いて倒れた!!?」
余りの興奮にダゴンは鼻血……ではなく、墨を吐いて地面にぶっ倒れた。
アータンが体をゆすって起こそうとするが無駄だ。そいつはもう死んでいるよ。
ダゴンが気を失ったのを見て、一仕事終えた俺は額を腕で拭った。
「ふぅ……まあ、こんなもんだろ」
「あっ、元に戻った」
「どうだった? 俺の〈幻惑魔法〉の女体化は」
「あっ……えっと」
「見るに堪えなかっただろ」
「……ライアーってああいうのが好きなの?」
「え? 何が?」
「ふーん……エッチ」
えっ、何その間。怖いんだけど。
もしかしてあれか? 俺、推しに紫色のレースパンティーが好きだと思われた?
「違うんだ、アータン!!! 俺は紫とか赤とかド派手な色よりは、どっちかって言うと白とか黒とかのシンプルな奴の方が……!!!」
「……エッチ」
「がふッ!!!」
怒りから顔を赤くするアータンに白い目を向けられた俺は、血反吐(幻影)を吐いて地に沈んだ。
好きな女の子に軽蔑されるなんて、アタイもう生きていけないわ……!
失意を怒りに変え、俺は立ち上がる。
怒りの矛先は勿論、横に沈んでいた蛸魔人だ。
「どうしてくれんだ!! お前のせいでエッチ判定くらっちゃっただろ!!」
「──我々はどうしてパンティー如きであれこれ騒いでいたのでしょう」
「賢者モードに入ってんじゃねえよ」
人を差し置きやがって、この軟体野郎が!
思わず殴りかけてしまったところで拳に制止を掛けた俺を誉めてほしい。
一方、ムカつくくらいに落ち着き払ったダゴンは堂々たる佇まいで遠くを見据える。
「行きましょう、ライアーさん。アータンさん。共に王都まで行きましょうとも!」
「ねえ、アータン。こいつ殴っていい?」
「いいと思うよ」
主はおっしゃられた。
ので、こいつを殴ることにした。
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