第21話 昔話は親近感の始まり




「おかえり、アータン!」

「ご飯にする? お風呂にする? 好きな方を選んでおいで!」




「あ……ありがとうございます」




 アータンとライアーを出迎えたのは、アイベルの養親──パーターとマーターの二人だ。

 育った孤児院でもこれほど猛烈な歓迎を受けた経験がないアータンは、苦笑を浮かべながら彼らの用意した夕食を頂くことにした。


「いやぁー、それでオオウソカワウソに襲われて大変だったんすよー」

「なんと……! あれを倒すとは」

「中々腕が立つでしょう?」

「ああ。わたしも若ければオオウソカワウソの一体や二体なんてことはないんだが……」

「あれ? もしかしてご主人滅茶苦茶強い?」

「昔の話だよ。今じゃ妻にさえ頭が上がらないがね」


 『ワッハッハ!』と夕食の席では、ライアーがパーター相手に談笑していた。

 ひょっとすると彼の方が姉の養親と打ち解けているかもしれない。妙なコミュニケーション能力の高さを覚えながらも、アータンは甲斐甲斐しくおかわりを勧めるマーターに次々とおかずを取り分けられていた。


「さっ、お食べ! いっぱい食べて大きくなるんだよ」

「は、はぁ」


 成長期と呼ぶ時期は疾うに過ぎ去ってしまっているのだが、母親の善意というものはそんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりだ。

 山のように盛られたおかずは、孤児院時代一日分に相当する量。正直これ一杯で胃袋が満足するように体は仕上がっているのだが、ニコニコと微笑むマーターの顔を見ると、是が非でも食べ切らなければならないという責任感に駆られる。


「い、いただきます」


──許して、私の胃袋さん。


 心の中で懺悔するアータンは意を決し、山のような食事に手を付けた。

 そうしてお腹が妊婦のようにぽっこりと膨れ上がった後は、いつでも入浴していいよう使用人が沸かしてくれていた浴室へと案内された。


 木桶に少しばかり用意したお湯でも、公衆浴場の薄汚れた湯船でもない。

 正真正銘の一番風呂。魔法でお湯を作れることはあっても、大抵他人に先に使うよう譲っていた少女にしてみれば、夢にまで見ていた光景であった。


 透き通った湯船の水面はキラキラと輝いていた。

 まるで宝石のようだと、アータンは冗談ではなく感じた。


「ふひゅ~~~……」


 その中へ身を浸す贅沢。

 浸かってからものの数秒で、アータンの表情はトロトロに蕩け切ってしまっていた。


(いいのかなぁ……こんな贅沢……)


 以前であれば絶対考えられない状況。

 これもライアーに出会い、冒険者として旅立ったことが始まりだと考えれば、あの日司祭から逃げ出した自分の判断は正しかったと断言できる気がした。


(でも……)


 湯船の中で膝を抱くアータン。

 彼女の背丈だと、それをするだけで口元が湯船に浸かってしまい、吐き出す息がブクブクと音を立てて水面に波紋を広げていく。


(私なんかがこんな良いようにしてもらっていいのかな……?)


 いつもの卑下──ではない。

 冷静に考えてみても、パーターとマーターはアイベルの養親なだけであり、別に自分の親代わりというわけでもない。


 義理の娘の姉妹だから。

 言ってみれば、ただそれだけの理由で姉との関係を引き合いにして恩恵に与っているだけだ。


 それが少女にとってはどうしようもなく気が引けた。

 向こうは『気にしないでいい』と言ってはくれているものの、それに甘えるのも違う気がしていた。


 あくまで自分と姉の養親は他人同士。

 この扱いを当然として享受していいものではない。


(ちゃんとお礼は言わなきゃ)


 アータンは逆上せる前に湯船から立ち上がった。

 脱衣場で使用人が用意してくれていたタオルで体を拭き、なぜかサイズがピッタリの寝巻へと着替える。


 どうしてサイズが合っているのかと問えば、


「そちら、アイベルお嬢様の古着でして……ちょうどピッタリのように見えたのでお持ちいたしました」


 と言われた。

 アータンは軽く絶望した。


 昔は同じぐらいの背丈だったのに、どうやら姉は自分の背丈などとうに超えて成長してしまっていたらしい。

 同時に、毎日あれだけの手料理を食べれば背も伸びるだろうという納得もあった。


 食事は大事。しかし、過ぎ去った成長期は取り戻せない。

 アータンはちょっぴり涙を流した。


「こちらがアイベルお嬢様の使っていたお部屋です」

「わぁ……!」

「何かご不明な点等ございましたら遠慮なくお申し付けください」

「あ……ありがとうございます!」


 寝泊まりする部屋として用意されたのは、かつてのアイベルの私室。

 壁際に並んでいる家具やベッドは一切の埃が積もっておらず、いつでも娘を迎え入れようという親の心遣いがありありと現れていた。


 入浴も済み、身体もポカポカと温まっていたアータンはベッドに横になる。

 うっかり気を抜けばこのまま眠ってしまいそうなくらい、ベッドはフカフカだ。孤児院時代の薄っぺらい敷布団のベッドとは比べ物にならない快適さである。


(私があっちで過ごしてる間、お姉ちゃんはこんな……)


 仄暗い感情が胸を過る。

 瞬間、アータンは頭を振って雑念を振り払う。


(私ったら、またこんなこと考えて……)


 いけないとは分かっていながらも、自然と自他を比べてしまう癖は中々治らない。

 自省するアータンは深いため息を吐き、天井を見上げた。


 明日はマーライオンの討伐に向かう。早めに休息を取らなければとは思いつつも、一度考え始めた頭では中々眠れなかった。

 すると、不意に部屋の扉がノックされた。


『アータン? マーターよ。起きているかしら』

「あっ……はい、起きてます」

『ホットミルクを作ったの。良かったら飲まない?』


 思いがけぬ来客に、アータンは急いでベッドから降りて出迎える。

 扉を開ければ、そこには言っていた通りホットミルクを入れたコップを携えたマーターが佇んでいた。


 夜が更けていても、その太陽のような笑みは変わってはいない。

 これにはアータンの暗くなっていた表情も晴れ、お礼を一言述べてからホットミルクを受け取った。


 それから二人は部屋のベッドに腰掛けた。


「ありがとうございます。ちょうど眠れなくって」

「そうなのかい? ベッドが合わなかったかしら……」

「そんな! フカフカでとっても気持ちいいです!」

「あら、それなら良かったわぁ。アナタが来た後、慌ててお布団を干したのよ」

「そうなんですか。道理で……あっ、甘い……」


 他愛のない会話をしながら、温かいミルクに口をつける。

 何も入っていないシンプルなホットミルクだが、だからこそ優しい甘みと温もりが際立っていた。


 味わうアータンは思わず頬を綻ばせる。

 それを見たマーターは、一瞬目を見開いた後、昔を懐かしむような優しい眼差しを少女へと向けた。


「アイベルも好きだったのよ、そのホットミルク」

「え?」

「あの子もうちに来たばかりは中々夜寝付けなくてね。そういう時は決まってホットミルクを作ってあげたのさ」

「……お姉ちゃんが」

「辛いことがあったばかりだから仕方がないさ。だからこんな風に一緒に話しながら、あの子が寝落ちるまで傍に居てあげたんだよ」


 なんてことないと笑顔で語るマーター。

 だがしかし、実際には相当の労力を費やしたはずだ。毎晩不安に駆られて涙を流す子を相手に、いつ眠るかも分からないまま延々と話し相手を務めることは。それこそ子供への愛情がなければ成し遂げられまい。


「……」

「……ああ、ごめんなさい! アナタにも辛いことを思い出させちゃったかしら?」

「い、いえ……そんな……」

「遠慮なんかしなくたっていいからね? あの子の家族なら私達の家族も同然なんだから!」

「あ……ありがとうございます……」


 ぎこちない笑顔を浮かべるアータン。

 その後も会話は30分ほど続いた。カップに入っていたホットミルクはなくなり、湯上りでポカポカしていた身体も次第に冷めてきた頃合いだ。

 相槌を打つアータンも、それが会話の反応なのか舟を漕いでいるのか分からない状態だった。


 それを見たマーターはハキハキとした声色を一段落とし、おもむろにベッドから立ち上がる。


「明日は魔物を倒しに行くんだろう? 今日はもうお眠り」

「んぅ……はい……」

「じゃあ横におなり。布団掛けてあげるから」


 言われるがままベッドに横になるアータンに、マーターは優しく掛布団を掛けた。

 直後、布団からどこか懐かしい匂いが香ってきた。安心する匂いだ。自然と身と心の緊張も解れ、少女の瞼と意識がゆっくりと落ちていく。


「おやすみ」


 そう言ってマーターは部屋から立ち去る。

 足音はまったくと言っていいほど聞こえない。夢の中に居る娘を慮る足取りだった。


「すぅ……すぅ……」


 部屋に響いているのは少女の寝息だけ。

 その光景を見たマーターは、ほんのりと目尻に涙を滲ませた。

 あの日の思い出が、そこにはあった。

 かつての家族の生き写しを前にしたマーターは、目尻を軽く拭ってから、ゆっくりと扉を閉めた。


──どうか夢から覚めないで。


 声にならない願いを零しながら、一人の母はその場から去っていった。




 ***




 その日、リーパの村一帯は晴れであった。

 漁師にとっては絶好の漁日和。

 しかしながら、ここ最近近海に現れたマーライオンの存在により、漁師達は漁船を海に出すことが憚られていた。さもなければ折角捕まえた魚を奪われるどころか、自らも魔物のエサにされてしまうのだから。


 そして、当のマーライオンはと言えば、今日も獲物を探してリーパの村周辺の海を泳ぎ回っていた。


 マーライオンという種は、単体でもサメなどの巨大な魚は勿論、アザラシやトドといった海獣さえも獲物に定めている恐ろしい魔物だ。マーライオンが住み着いた海域からはみるみるうちに生き物が食い尽くされ、いずれは魚一匹も寄り付かない魔の海域と化す。

 そうなったら最後。マーライオンは獲物の居なくなった海域を去り、新たな狩り場を求めて旅に出る。残していくものなど何一つない。


 しかし、このマーライオンの狙いはもっぱら漁船であった。

 わざわざ自分があちこち駆け巡って獲物を探すよりも、人間の獲物を横取りした方が確実で早いと学んでしまったずる賢い個体だからだ。


 今日も今日とて漁船を探し、辺りの海を泳いで巡る。


 だが、毎日漁船を襲っていたのが災いしたのだろう。今日は誰も漁船を海に出してはいなかった。

 数時間泳いだ挙句、大した獲物も見つけられなかったマーライオンは肩を落としながら棲み処へと戻る。


 すると、


「……?」


 棲み処にしていた海蝕洞の目の前に、山ほどの魚が積まれていた。

 小さい魚から大きい魚まで幅広く取り揃えられている。それでもマーライオンからしてみれば腹八分目……いや、五分目程度の量でしかない。


 それでも腹を空かせたマーライオンにとっては降って湧いた幸運。

 クンクンと臭いを嗅いだ後、安全だと思ったものから口に入れていく。バリバリと骨まで噛み砕いでは飲み込む。マーライオンの大きな口では、一口で一尾や二尾食らうなど造作もない真似であった。


 最初は周囲を警戒していたが、半分ほど食べ進めた頃にはそれも忘れて食事に没頭していた。

 彼は海獣の王。小癪な海鳥に小魚を横取りされることはあっても、自分が喰われることはないと信じている絶対王者だ。


 慢心という名のスパイスこそ食事には肝要。

 周囲に気を散らしながらの食事など、味を堪能することさえままならないのだから──。


 そうやって最後の一尾を口に含んだマーライオンは、一抹の名残惜しさを覚えながら血の滴る魚を噛み砕く。


 次の瞬間だった。


「ギャン!!?」


 突如、切り裂くような痛みが左目を襲った。

 驚くマーライオンはその場から飛びのく。すると、眼前の風景が歪むや否や、鉄仮面を被った謎の剣士が現れたではないか。


「俺が自腹切って用意したお魚の味はどうだった?」


 鉄仮面のせいで剣士の表情は窺い知れないものの、挑発するような声色から彼が喧嘩を売っている者だとマーライオンは理解した。


「ゴァ!!」

「おっとォ!!」


 強靭な前脚を振り、マーライオンは剣士へと襲い掛かる。

 それを身を屈めて回避する剣士。妙に慣れた身のこなしであった。


「グォオ゛!!」

「はっはぁ!! どうしたぁ? 動きが鈍いぞ~?」

「ゴアアアアッ!!」


 マーライオンは次々に前脚を振るう。

 時に堅牢な鱗の生え揃った尾も振り、剣士を叩きつけようとする。この質量だ。当たれば鎧を着ていようと関係ない。

 しかし、いくら攻撃を仕掛けたところで剣士には当たらなかった。ゆらゆらと、まるでその場には居ないように攻撃は透かされるばかりだ。


 そしてとうとうマーライオンの巨躯がよろめいた。

 単にバランスを崩したせいではない。フラフラと覚束ない足取りのマーライオンは、おもむろに胃の内容物をその場に吐き散らした。



 剣士はほくそ笑む。


「全部綺麗に平らげてくれたもんなぁ。俺特製、毒草のスパイスをたっぷり利かせたお魚さんをよぉ~」

「グルルル……ゴァ!!」

「おいおい、逃げんなって!」


 すぐさま海へ向けて逃げ出すマーライオンに対し、剣士──ライアーは追いかける。

 だが、流石に野生の獣に走力では劣る。マーライオンの入水を止めることはできず、岩場の水辺で足止めを食らうことになった。


「ったく、海獣の王の癖に逃げ足が早ぇんだから……ん?」


 呆れたように海面を眺めていると、とある一か所が不自然に渦を巻いていた。お風呂の栓を抜いた湯船──と表現してしまえば余りにも陳腐だが、イメージとしてはそれに近しい。


「──来たか」


 ライアーは目を細めた。

 身を屈め、いつでも避けられるよう身構える。


 渦は次第に小さくなっていく。

 やがて海面は元の高さへと戻っていき、なんてことはない海の風景を取り戻した。


 しかし、海面に獅子の顔が浮かび上がった瞬間。


「──っぶねえ!!」


 景色が真っ二つになった。

 それはマーライオンが口から放つ水鉄砲。吸い込んだ大量の水を吐き出す、ただそれだけの攻撃だ。

 しかしながら、紙一重でライアーが交わした水鉄砲は射線上の岩場に深い切れ込みを入れていった。岩でこうなのだ。人体に当たれば問答無用で両断されてしまうに違いない。


「っひゅ~!! これだからマーライオンの水圧ビームはおっそろしいんだよなぁ~!!」

「グオオッ!!」

「っは!! いいぜ、当ててみなぁ!!」


 雄たけびを上げて次弾の用意をするマーライオンに対し、ライアーは挑発を続ける。

 一撃当たれば終わり。それを分かっている上で標的となる行為は、傍から見れば自殺に等しい行為だろう。


 十秒も経てば弾丸である海水の吸入が終わる。

 マーライオンの体内にある水を吸入する水袋の容量は莫大だ。100リットルは優に呑み込める水袋を強靭な筋肉で一瞬にして収縮させ、その勢いで水を吐き出すのである。


 刹那、ヒュゴッ、と形容しがたい空気の流れる音が響いた。


「お゛ぉん!!? 横に撃つならそう言ってもらえますぅ!!?」


 次弾は横薙ぎのブレスだった。

 寸前で跳躍していなければ両足を持って行かれたであろうという攻撃だ。これにはライアーも冷や汗を流す。

 しかし、今度はそれだけ終わらない。跳躍した隙を突くように、マーライオンは水袋に残っていた海水を弾丸の如く連続で放ってくる。


「ひぇ~!!?」


 魔力を介さない純粋な力技ではあるが、だからこそ魔力切れを期待することもできない。

 ライアーはただただ逃げ惑う。彼は基本的に剣士だ。多少魔法は使えるものの、水中に潜むマーライオンに対し有効打は期待できない。


 それゆえ、打つのは逃げの一手だけ。

 対してマーライオンは逃げ惑う敵に対して遠慮なく高圧の水ブレスを吐き続けた。海水だんがんが尽きれば海中に潜り、辺りの海水を飲み込む。

 そうして補給が済めば弾を撃ち尽くすまで獲物を狙撃する。その繰り返しだった。


「ぎゃあああ!! 死ぬぅ~!!」


 ライアーは情けない叫び声を上げながら狙われ続ける。

 が、その悲鳴とは裏腹にマーライオンの狙撃には掠りもしていなかった。水圧ブレスを防げる岩場は多少なりとも存在しているというのに、あからさまにマーライオンの視界に映る位置で逃げ回っている。


 これが人間であれば相手の不自然な行動に気づいたであろう。


 しかし、魔物の知能はピンキリだ。

 仕掛けられた罠に気づかぬ魔物も居れば、相手の行動の意図を読み取る魔物も居る。


 マーライオンは前者だった。


 弾を撃ち尽くして補給に潜水した海獣の王は、一気に辺りの海水を吸入し始める。

 その瞬間、鉄仮面の中でライアーはほくそ笑んだ。


「アータン! あの渦を狙え!」

「わかった!」


 岩壁の上から聞こえる声。

 そこには杖を構えるアータンが立っていた。魔力を集中させる少女はみるみるうちに杖先に毒々しい色の液体を生成する。

 紫と緑色の絵具を混ぜ合わせたようなサイケデリック。見るからに安全な代物でないと分かるそれをアータンは言われた通り渦巻く海面目掛けて解き放つ。


「──〈猛毒魔法ヴェネヌーマ〉!」


 てりゃ! と可愛らしい掛け声と共に放たれる猛毒の液体。

 それは多少狙いから逸れたものの、猛烈な勢いで渦巻く海面の流れに従い、渦の中央へと吸い込まれていく。

 そうして〈猛毒魔法〉が吸い込まれた後、次第に渦の勢いは衰える。


 直後の出来事だ。海面から空に向かって大量の海水が噴き上がった。

 鯨の潮吹きと見紛う光景であったが、それを作り出したのは紛れもなくマーライオンであった。

 水袋内の海水を全て吐き出したマーライオンは、慌てた様子で近くの岩場へと逃げ込む。震えた前脚で陸に上がる姿は溺れた子猫のようだ。


 だが次の瞬間、弱り切った海獣の王の目の前に切っ先が突き付けられた。


「いくら体がデカかろうが、胃袋と水袋のダブルパンチだ。そろそろ毒が回ってきたろ?」


 先程まで海蝕洞近くに居たはずのライアーがそこには立っていた。

 マーライオンは棲み処の方へ目を向ける。

 すると、そこに立っていたはずのライアーの姿は次第に薄れ、歪み、そして景色に溶け込むように消えていった。


「俺は〈幻惑魔法ハル〉だけは得意なんでな。時間稼ぐ回避タンクならお手のものよ」


 勝ち誇った声色を紡ぎ、ライアーは剣を振り上げる。


「すまんな。俺は恨みとかないけど、漁師さんの生活が懸かってるんでな」


 剣は、弱り切った獣の命を容易く屠った。

 海岸に響き渡る痛ましい悲鳴を聞いた者は、誰もがそれを海獣の王のものとは気づかなかった。




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