妖魔達の珍道中
@soul21g
序章:ありふれた小鬼
早朝、辺りはまだ薄暗い中、
俺は渋々、【アルム】と呼ばれるニンブルドラゴンのところに向かう。
こいつは、
今日もまた、こいつに噛まれないように気をつけないといけない。
「おい!クえ。昨日死んだ
アルムは俺の声に反応して、鋭い牙をむき出しにした。こいつにとって、俺なんてただのエサみたいなもんだ。しかし俺は、必死にアルムを調教する。
こいつを完全に支配できるようになれば、少しは
いつか俺も、
さらに、
そうなれば、まともな飯は喰えるしいつでも寝れる、さらに人間が手に入ったら真っ先に自分のものに出来る!
俺はアルムに餌をやりながら、そんなことを考えていた。
その時、突然大きな音がした。振り返ると、見張り台の方から煙が上がっている。誰かが襲撃してきたようだ。
またしても
「おい、●●!すぐに来い!」
興奮して暴れるアルムを急いで鎖に繋ぎ、見張り台へと走った。
ここで何か役に立つことができれば、少しは俺の評価も上がるかもしれない。
のし上がる為に、どんな小さなチャンスも逃すわけにはいかない。
俺は走った、宿営地の端まで来たとき、既に戦闘が始まっているのが見えた。
俺達のアタマである
だが、こちらは圧倒的に数で勝っているからか、次第に混戦へとなだれ込んでゆく。
(これなら勝てる!)
そう判断した俺は、敵をよく観察する。
敵は冒険者だ、その数は四人。
まず目に入ったのは前衛の二人。
一人は厚い鎧に身を包み、盾を持っている人間の男、重戦士だ。
次に女性、角があるからナイトメアだろう、変わった戦い方をしている、操霊拳闘士だろうか。
後衛にはエルフの軽戦士神官と、ルーンフォークの魔動射手がいる。
どちらも女性だ。
俺は、己の思考が本能や欲望といった、理性とは正反対のものへと染まってゆくのを感じた。
「ゲゲゲッ、ハラミブグろだ!」
武器を持ち、戦闘に加わる。
戦士が片手半剣を振るい、拳闘士が鉄拳で次々に殴り飛ばす、ほぼ一撃で同族が肉片へと変えられてゆく。
こちらの数が多いからか、戦士は盾を捨て、剣を両手にで握り、大振りで薙ぎ払ってくる。
「後衛を狙え!後衛をやらないと勝てないぞ!」
「ドゲッ、ニクがッ!」
思ったように戦えず、咄嗟に悪態をつく。
俺は戦士の大剣をかわしながら、必死に後衛に近づこうとする。
しかし、拳闘士が俺の前に立ち塞がり、その鉄拳が俺の顔面に迫る。
視界が一瞬暗転し、鈍い音が響く。
「ガギャァッ!」
拳闘士の一撃をまともに受けた俺は、吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
しかし、まだ生きている。
必死に立ち上がる。
戦闘は激しさを極め、凄まじい速度で同族達の屍が増えてゆく。
その時、宿営地の端で大きな音がした。
思わず振り返ると、鎖でつないでいたはずのニンブルドラゴンが暴れている。
どうやら、鎖が外れてしまったらしい。
千切れた鎖を垂れ下げたアルムは、歓喜の咆哮をあげ、後衛の神官に向かって突進する。
「◎△!?★◆■!?」
驚きつつも戦士が咄嗟に神官をかばう。しかし、
大したダメージはなかったようだが、隙は作れた。
俺はその隙を逃さず、素早く戦士の盾を拾う。
「ゲゲッ! ボケ! カス、 クズ! ケツの穴!」
悔しそうな戦士に口角を上げながら罵倒を浴びせる。
俺は盾を手にし少し距離を取り周囲の状況を観察する。
冒険者たちはアルムの出現に混乱している。
その時、
「操、第四階位の呪。失魔、忘術――禁呪」 《ザス・フォルス・ザ・デス。ウィゾ・プロビト__イゥナリア》
「★●■!?◎△§¶▶...」
「Θ■★!」
後衛が崩れかけているのを見て、戦士が叫ぶ。
冒険者たちは急いで後退し始める、撤退するつもりなのだろう。
同族たちはそれを追いかけるが、俺は拳闘士に殴られたダメージで走れない。
小さくなってゆく同族の背を見ながら、俺はその場にへたり込む。
アルムの暴れっぷりは凄かった、やはり、こいつを調教できれば敵なしだろう。
上機嫌でアルムを褒めて機嫌をとっておく。俺の言葉に反応して、少しだけ落ち着いた様子を見せる、頭を軽く撫でながら、俺は自分の賢さと運の良さを実感していた。
戦闘の後、疲れ果てた体を動かし宿営地へと戻ると、待っていたのは
「お前、何をしていたんだ!俺の道具ががたくさん死んだというのに、お前は何を手柄顔で戻ってきたんだ!」
八つ当たりされることにうんざりしながら、しかし、反論できる立場でもないことを理解していた。
苛立ちを抑えつつ、自分が世話をしたニンブルドラゴンが隙をつくったことや戦士が持っていた盾を奪ったことを伝える。ささやかな抵抗だ。
だが、それを
「そんなものは何の役にも立たない!お前はただの役立たずだ!」
その言葉に、俺の心の中で何かが折れた。しかし、同時に新たな決意が生まれた。
俺は必ず、いつかこの状況を覆してやる。俺がシャーマンやキングの地位を手に入れ、この屈辱を晴らしてやるという決意。
「ワガっ、ました。」
そう答え、俺は森の中へと向かった。
後から知った話だが、
森の中を歩いていると、何やら声が聞こえてきた。昨日の戦闘の興奮、先の八つ当たりといった様々な要因からイラつきが収まらない俺は、
ただの人間なら喰ってしまおうと思い、その声の方へ向かうことにした。
声のする方へ進んでいくと、突然、足元の感覚が失くなった、崖から落ちたと感じたが、俺の目はそれ以上の事を捉えた。
空間が裂けていた、直後に視界が歪み、意識が混濁してゆく。
次の瞬間、俺は夜の空に放り出されていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
地に足のつかない、夢の中の様な空間だった。
水の中にいる様なのに苦しくない。
そして、そこには一振りの剣があった。
「ゴ、レハ...」
思わず、感嘆の声が洩れた。
そこに在る剣は、これまで見た同族の武器や人間の武器とは比べ物にもならないほど美しく、鋭く、力強く見えたからだ。しかも、まるで龍の息吹を放っているかのようにまばゆい光がその刀身から溢れ出している。その姿は、とてもこの世のものとは思えない神々しさだった。
「ゲヘッ、へへへへへッ!!」
あぁ!ツイてる!やはり俺は運がいい!!
俺のだ!あの剣は俺のだ!あの剣があれば全てを手に入れられる!
シャーマンやロードなんて目じゃない!!!
近づけば近づくほど、凄まじい力を感じる。
手に取れば破滅するかもしれない——そんな予感が胸を締め付ける。しかし、その一方で、俺の心は狂おしいほどの欲望に支配されていた。この剣を手にすれば、全てが手に入る確信がある。富も、力も、名誉も、全て。
恐怖と期待がないまぜになり、心臓が激しく鼓動する。自らの肌が興奮で粟立つのを感じながら、噛みしめるように、俺は一歩、また一歩と確実に剣との距離を詰める。
剣から感じるすべてを感じようと、俺は顔面が裂けるほどに、左右の口角を上げ、鼻の奥を膨らませ、目を開く。女の冒険者を見た時と同じ、それ以上の何かが頭を埋め尽くす。
手が震えるのを感じながらも、俺はその剣に手を伸ばした。柄を握った瞬間、まるで電流が走るような感覚が全身を貫いた。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。まるで無数の声が一斉に叫び始めたかのようだ。俺の意識はその圧倒的な情報の奔流に呑み込まれ、完全に麻痺してしまった。まるで
無限とも思える知識の渦が俺の思考を押しつぶしにかかる。過去、未来、真理、全ての情報が一瞬にして流れ込み、脳が耐えきれずに悲鳴を上げている。目の前が真っ白になり、身体が揺らぐ。
痛みが脳内を駆け巡り、視界が歪んでいく。無数のビジョンが浮かんでは消え、その全てがまるで現実のように生々しい。世界の成り立ち、人類の歴史、神々の戦い、そして未来の予兆。それら全てが俺の頭の中で一瞬にして展開され、理解する暇もなく消えていく。
絶望感が胸を突き抜ける。膨大な情報に押し潰されそうな中、俺はなんとか意識を取り戻そうと必死だった。剣を手放そうにも魔法にでもかかったかのように指が動かない。
このままでは、確実に自分が壊れてしまう。何かしなければ——その一心で俺は剣に抵抗しようとした。だが、足元の感覚はなく、まるで
「GAAA!クソッ!オレのアタマに糞ミてェな情報を流すな!」
剣が輝き、囁き、美しさを増すたびに、俺と世界を隔てていた境界は曖昧にぼやけ、まじりあっていく。そして、この剣の名と、性能を理解した。
世界の根源に存在した3本の魔剣。
神を生み出した"始まりの剣"。
第一の剣、"調和の剣"ルミエル
第二の剣、"解放の剣"イグニス
第三の剣、"叡智の剣"カルディア
そして、伝説の始まりの剣の中で存在が明確でない正しく幻の剣。
"破神の剣"、あるいは“運命の剣”の異名を持つ伝説 の魔剣
__第四の剣、フォルトナ
それがこの剣の名だ。
名前通り“神”さえ殺せる魔剣。
手にした者はいかなる望みをも必ずかなえることができるとされ、
乱世を制する勇者や英雄の多くは、この剣をもって覇を成したとも伝えられている。
そして魔剣フォルトナは苦境にある人々を救い、邪悪を祓い、人々の願いを叶え、平和を取り戻す。
つまり、この剣は...俺の存在を否定する剣だ!!!
「がッぁああああ!離れろ!俺の存在を消すんじゃねぇッ!!」
俺は叫び、次の瞬間、狂気じみた決意が頭をよぎった。叩きつけることができないなら、噛みつくしかない。僕は剣に向かって口を開き、その冷たい金属を歯で捉えた。
歯が触れた瞬間、剣は脈動し始めた。まるで生き物のように、俺の口の中で蠢く。恐怖と痛みが混じり合う中、剣は突然、光を放ち、俺の身体に侵入してきた。冷たい光の流れが喉を通り、内臓を焼き尽くすような感覚が広がる。
「う…うがああああっ!」
俺は絶叫した。体内を駆け巡るその光は、痛みと共に俺の意識を乗っ取ろうとしていた。絶望の中で、俺は最後の抵抗を試みた。しかし、剣は俺の内側で輝きを放ち、その神秘の力で俺の心を支配し続けた。俺の意識は漆黒の闇に消えていく中で、剣と違う誰かの声を聴いた。
「ខ្ញុំឈ្មោះឡៃហ្វស។ អ្នកដែលរើសដាវទីបួន...」
なにものだろうか。
ぼやけた視界からでは確かではないが、人属のようにみえる。
そいつは、剣にも劣らずの存在感があり、内面をすべて曝け出された上で、包み込むような慈愛を感じる存在だった。
誰だてめぇと悪態の一つでもつきたかったが、どうにも眠くてたまらない。
微睡の中、何者かの意思は明確な言葉などでは表されず、俺に何か悟らせるように、五感のすべてに訴えかけたのだが眠くて思考が纏まらない。
俺は安らかな眠りに沈んだ。腹が立つが人生で一番の良い睡眠をとれたのは間違いない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
こうしてこの世界に大きなうねりをもたらしかねない存在が生まれたのだ。
しかし、彼がその力に気が付くのはずいぶん後の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます