ドラゴンも大魔王もいるが、聖女だけがいない国。

三角ケイ

第1話 ドラゴンも大魔王もいるが、聖女だけがいない国。

「ホリ先輩、ごめんね~」


 全然謝られているような気がしないのは気のせいではないはずだ。だって私は彼女と王子に崖から突き落とされたのだから。


 人は死ぬ前に走馬燈を見る。なので私も28年間を振り返る。


 私は二ヶ月前まで平凡に生きるOLで彼女は会社の後輩だ。それが聖女召還とやらで一緒に異世界に来てしまったのだ。


 聖女を召還した城の人達は女が二人来たことに驚き、私と彼女を見比べて、若くて綺麗な彼女を聖女と呼び、私を城の外に放り出した。


 幸い、ここの言語は日本語だったから読み書きに不自由することがなく、私はその日の内に城の事務員応募の面接を受け、仕事と住む家……職員寮を得る事が出来た。


 聖女となった彼女は城で贅沢三昧に暮らし、私は経理事務能力の高さを認められ、城の経理を一人で任されるようになり、ようやく新生活に馴染み始めた頃だった。


『この国を滅ぼされたくなかったら城にいる聖女を大魔王に差し出せ』


 この世界にはドラゴンや大魔王がいる。それらは時に人々を襲い、時に聖女を要求する。


 この国の人々は自分達の身代わりに異世界から聖女=生け贄を召還していたのだ。


 そして話は冒頭に戻る。


 彼女は生け贄になるのは御免だと王子をたらし込み、私を大魔王の国に通じる道があるという崖下に突き落としたのだ。


『綺麗だと聞いていたがそれ程でもないな。妻にするのは止めた』


 そう言って崖下で私を受け止めた大魔王は私を解放してくれたが、私は大魔王の城で事務員として雇用して貰えないかと交渉し、魔族の国で生きることにした。


 大魔王の脅威が消えた国で彼女は王子と結婚したが、贅沢好きな彼女の望むまま国庫を使い続けた国は破産し、優秀な経理を失った城は損失を回復する術を持たず、隣国に吸収されることとなり、その後の彼女がどうなったのか私は知らない。


『ホリさん、あの時は失礼な事を言ってすみませんでした。お願いですから結婚して下さい!』


 金銭感覚のない魔族達に呆れ、破産寸前の魔族の国を建て直した私は大魔王に惚れられた。


 彼は魔法で私を惚れさせようとしたが何故か私には魔法は効かず、それ以来こうして毎日求婚されている。


 初対面で失礼な事を言った彼には深く反省して貰うことにして、さて、いつ言おう?


 私の名はホリではない。私の名は”真の聖らかな子”と書いて真野聖子。

ホリは聖らかホーリーを英語読みしたあだ名だと。



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