第13話 鉄人VS怪人

拳と拳が交差する。――先に届いたのはフランシス。魘魅の顔面を撃ち抜いた。


「ぐぶ――ふひ――ひひ――!!」


少し怯んでハイキック。これをガード。


(蹴りも重い……防御も不用意にはしない方がいいか――)



――左肩に激痛が走る。なにかに引っ張られる感覚。フックを突き刺されたかのような痛み。


左肩の皮膚を足の指で掴んでいた。壁に対して垂直で立てるほどの握力ならば造作もないこと。


そのまま引き寄せて膝蹴りを顔面に叩き込む。


「ぶっっっ――――!?」


脳も吹っ飛ぶ衝撃。鼻は折れて血が噴水のように飛び出した。


「おら――よ!!」



顔面へ向けてのストレートを体勢を低くして躱す。膝蹴りの余韻は続いていて前は見えていない。野生の勘、そしてこれも経験からだ。


低い軌道からボディブロー。続けざまにアッパー。さらに続けて右ストレート――。


世界チャンプの素手の拳をまともに喰らっては魘魅もぶっ飛ぶ。歯は折れた。しかし闘志は折れない。


取れた歯を吐き捨てて立ち上がった――ところに再度右ストレート。不意をつかれた上に真正面から喰らった。だが体は吹っ飛ばずに地面に足の跡をつけながら耐える。



「ぐ……随分必死だな。自信のなさのあらわれか?」

「サンドバックを前にしたら殴りたくなるのがボクサーでね――」


顔面を狙った拳を避けてカウンターのフックを顔面にぶち当てる。腕の振りを大きくしたロシアンフック。フランシスの得意技のひとつだ。


魘魅の大振り攻撃三連打。苦し紛れの攻撃はよく見える。軽やかなフットワークで危なげなく避けた。


右ジャブ。右ジャブ。右ジャブ。お返しとばかりの三連打。煽るかのようにステップは加速する。


(パンチ勝負じゃ勝てねぇな……)



怯んだ魘魅に追撃しようとするフランシス。そこへ――三日月蹴りが突き刺さった。


「がぁ――!?」


肝臓レバーへ深々とつま先が突き刺さる。痛みは絶大。経験者なら誰もが頷くことだ。


下がった頭にハイキック――は入らない。頭を上げて回避する。


隙――とはならない。ハイキックの勢いをそのままに後ろを向いてバク宙。変則的な上段へのキックを放つ。


これをガード。しかし重みと威力でまた体勢が下がる。そして隙ができる。――回し蹴り。かかとの狙いをこめかみに付ける。



避けた――違う、ガードした。こめかみには当たらず。当たったのは前腕。ダメージは直撃の比じゃない。軽減されたダメージならば怯みすら消え去る。


今度はフランシスが肝臓レバーへ拳を叩きつける。しかも1本拳。中指を突き出した『殴る』のではなく『刺す』攻撃だ。


「あが――っ―!?」


まだである。慣れない痛みに悶絶する魘魅。これこそが『隙』というもの。


膝は90度。体はダンゴムシのように縮める。溜め込むのは腕――それもあるが、もっといるのはの力。


溜めた。溜めて。溜めた力を――上へと解放する。



上昇する脚の力が加算されたアッパー。フランシスの得意技。その名も『破天』。シンプルながら強力な一撃。まともに喰らえば気絶は必至だ。


それが当たった。確かに当たった。そして魘魅は殴り飛ばされた。――そのはずだ。


なんと倒れない。アッパーの衝撃を使ってバク宙。着地する。


「はは――」


ボクシングの試合でこれを使えば相手は確実にダウンした。何度もダウンさせたからか、その感覚も拳には残っている。


立っていた。まだ立っていた。しかしそれは今のフランシスにとって疑問ではない。


(なんだこの感触……俺は今……?)



首をコキコキと鳴らしている。あんな派手にアッパー喰らったのにその程度のダメージだった。


「キツイな。じゃ」

「……なんなんだ……お前は……?」

「さっきのことは謝るよ。お前は『雑魚』じゃない。この大会に参加してよかった――ようやく本物と戦える」






地面にジュースが落ちた。――いや、落とした。


「く、来る!!が来る!!」

「あれって……さっき言ってたやつか!?」


マイクはフランシスのことを信頼している。その信頼は揺らいでいない。――だがは違う。


異様な反応。現実離れした話。それを実現できるかと思うほどの身体能力と不吉なオーラ。それらがマイクの自信を揺らしていた。


「フランシス――――!!」

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