99式神話 かんちがい英雄の恋と戦争

チョコもなか男爵

プロローグ

『レックス・ノヴァはどこだ!?』


 公共通信オープンチャンネルを通して、敵の声が聞こえてくる。

『あれだ! あの、白くて一番目立つ機体の――』

『レックス・ノヴァを狙え! パクス連邦軍が救世主などと祭り上げるガキを仕留めて、ヤツらの士気をへし折ってやれ!』


「ほんと、人気者すぎてツラいよな~」

 宇宙空間に広がる敵の部隊を眺めて、オレはしみじみつぶやいた。


 なにしろオレは、国が全世界に――いいや、全宇宙に誇る英雄。

 倒せばそれだけで、こっちの陣営に大打撃を与えるわけだから、まぁしかたない。


 現状、兵力では向こうのほうが圧倒的に有利。

 残念ながらこっちは、敵の作戦にはめられ、おびき出されて劣勢だ。


 …っていうのは、敵をあざむく味方の作戦。

 少数で大部隊を倒して、敵の士気を徹底的にくじくのが、こっちの狙いだった。

 もちろん周囲にはカメラを搭載した無数のドローンが飛んでいて、戦闘の一部始終を撮影している。


 我らがパクス連邦の戦意昂揚に使うだけでなく、敵さんの国でもその映像を見られるよう配信するらしい。えぐいな!


 それは、こっちが絶対に勝つっていう確信にもとづく計画で――

『レックス、全隊配置についた』

「――――――お、おう」

 味方からの呼びかけに、反応するのが一瞬遅れた。

 まだその名前に慣れてないせいだ。


 オレの本当の名前はかける

 生まれてから一六年間、それ以外の名前で呼ばれたことはない。

 でも――2024年日本の、ごく普通の高校生だったはずのオレは、今はわけあって未来で英雄をやってる。


 それもテクノノートっていう、人型の巨大ロボットに乗って戦うやつ。

 球形の全視界スクリーンになっているコクピットには、ホログラムで戦闘に必要な各種情報が表示されていた。


 いまだに自分がそんな状況に置かれている現実が信じられなくて、ロボットアニメ好きとしては、コクピットにいるだけで、感動ではちきれそうな気分になる。

 そんな中、味方が鋭い声で状況を知らせてきた。


『一時から十二時方向まで、すべてから敵機集中! どうやら敵はあんたを倒すことだけを目的としているようだ。レックス』

「そりゃ大変だ」


 報告を聞くまでもなく、わかっていた。

 コクピット内のホログラムとアラームも、同じことを伝えてきていたから。

 四方八方から押し寄せる敵機部隊を見まわして、オレは光束自動小銃オプティカル・ライフルを構え直す。


「――で?」

『援護するから存分にやれ』

「そうこなくっちゃ!」

 言いながら、背中のランチャーからミサイルを発射。密集しかけていた敵機の一部を吹き飛ばした。


 でも敵は一瞬たりとも止まらない。

 犠牲は織り込みずみってことか。

 ふたたびミサイルを打つ間もなく、目の前にまで敵が迫ってくる。

 オレは迷わずライフルのトリガーを引いて敵を屠りつつ、姿勢制御装置スタビライザーを猛噴射してこっちからも突っ込んでいった。


 味方の射撃が、衝突寸前の敵機の前衛をかき乱す。

 混乱の中に特攻していったオレを敵が取り囲み、攻撃が集中する。

 でも当たらない。

 当たらないように逃げられる。

 驚異的な反射神経と、機体性能、装備のおかげで。


「オレすげぇぇぇえ!!」

 笑いが止まらない。

この世界で、オレは超すげぇ英雄。

 だからこんなカッコいいセリフも言えるってわけ。


「よぉし! まとめて相手してやっから、退屈させるなよ!?」

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