第3話 オリジナル曲製作

デビューまでの大まかな日程が決まり、俺は自分の曲を作り始めた。しかし、早速だがここで一つの問題に直面してしまった。自分で作詞も作曲もした事がないことだ。前回のアレは聴き取ったものをただそれ通りに打ち込むだけの作業だったが、今回はそれとは違う。自分の【独創性】が求められる場面だ。しかし俺は、そんな独創性のかけらを微塵も持っていなかった。

(はじめのアレが簡単だっただけで、アーティストの道はイージーモードなわけないよな)

若干途方に暮れながら、とりあえずただひたすらに楽曲制作に打ち込んだ。

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(ふふっ、初々しいなぁ)

彼の悩んでいる姿を見て私…柊なのは、もとい夢野アカリ…はそう思った。人に聞いてもらうもの。どうせ作るならより良いものにしたい、視聴者の気持ちを掴みたい。最初はその気持ちが強すぎて空回りなんてままある事だ。私も同じ事を経験し、その都度先輩にアドバイスをもらっていた。

しかし、失敗は成功に繋げるための大きなチャンスなのだ。まずは彼自身の力でやらせてみて、何か向こうから来たら私も対応しよう。

そう心に決め、私は自分の作業に戻った。

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「う〜ん。大方の基盤は出来たけど、まだ何か足りない気がするな〜」

根本に置くメロディは作れたが、どの楽器の音を使えばいいのか、またそれで雰囲気がどう変わるかが、全く想像がつかない。

「不本意だけど、なのはさんに頼るか」

柊さんは、業界でもトップレベルの認知度を持っており、また、認知度だけでなく実力も折り紙付きだ。正直、そんななのはさんに頼るのは最後の切り札としか思っていなかった。だが

『分からない事があったら遠慮せず聴きにきて』

と過去に言われていたので、今回はその言葉に甘えさせてもらおう。

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「なのはさん、ちょっと時間いいですか?」

「どうした?曲の相談?」

「はい、まさにそうですね。基本のメロディラインは決められたんですが、どんな楽器を使って音を表そうか悩んでて」

「へぇ、よければそれ聞かせて」

「あっ、了解です。一旦データ送りますね」

そうして送ったデータを聞いてもらって、なのはさんからの返答を待つ。

「メロディとしてはすごくいいと思う。どんな雰囲気をこの曲に出したいの?」

「激情です」

「激情?」

「俺が会社辞めた理由は聞きましたよね?あのクソ上司の。今はすでに切り離せてるんですが、最後の発散ってことでこの曲にぶちまけちゃおうかと」

「ハハ…凄い理由だね…。でも、そーゆーの嫌いじゃないよ。ええっと、ここなら…」

こうしてアドバイスをもらうことで、俺の音楽は完成に近づき、その3日後には、とうとう出来上がった。

「ここまで長かったですね…。心なしか今すぐにでもぶっ倒れて寝たい気分です」

「そう?言ってもかかった日数が1週間ぐらいしか無かったけど?本来この手の曲作るのって、凄い早い人でも最短2週間、長い人だと2、3ヶ月かかる人もいるんだよ?」

「え?じゃあ、俺のは一体何だったんだ?」

このやり取りで不安しか覚えない。出来上がるまでにかかった期間が直接曲の出来に響くとは限らないが、それでも気になりすぎる。

「じゃあ、このデータは私の知り合いに送って、MV作ってもらおうか。彼女曰く、物にもよるけど最低3日はかかるって」

「3日ですね、わかりました。じゃあ、今から活動名義を考えますか」

「そうだね〜。じゃ、早速始めようか」

デビューまでの道のりは、まだまだ続く。


————————————————————前回同様あとがきは(ry

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