第1章〜初恋の味は少し苦くて、とびきり甘い〜⑭
ひばりヶ丘学院高等部の校舎裏に、一瞬の静寂が訪れる。
そうして、すぐに、
ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ――――――。
と、周辺の大気が、不穏な雰囲気に変わる音すら聞こえそうな空気に包まれるなか、最初に口を開いたのは、生徒会長の
「ふむ……キミは、演劇部の一年生……
彼女の言葉が呼び水になったのか、他の女子生徒たちも口々に発言を始める。
「そうですよ! いまは、真剣な場面なんですから、つまらない冗談はやめてください!」
中等部3年の西田ひかりが、上級生に食ってかかるように反論すれば、
「それな! マナカ〜、いきなり出てきて、ハリモトに抱きつくとか、ちょっと空気読めてなくない?」
と、自身の先ほどの行為を省みることなく、同級生に対して苦言を呈する。
さらに、これまで気まずそうな表情で、発言することを控えていた
「
最後の問いかけは、四人の女子から集中砲火を浴びる
「いや、私の手元に、そうした申請の
「そういうわけで、
その言葉に、これ以上、演技を続ける意味がないと考えたのか、
その様子に、自身が考え、
前日、保健室で養護教諭の
「彼女たちが諦めて手を引くまで、キミに恋人の役を演じてもらおうと考えている」
という提案をしてもらったため、まずは、そのアイデアに便乗しようと考えたのだが、なかば予想どおり、恋人偽装計画は、アッサリと見破られてしまった。
(そもそも、ボクが真中さんと交際しているなんて、説得力ゼロだったんだよな……)
(だいたい、女子とお付き合いするなんて、ナニをすれば良いのかわかんないし……)
それでも――――――。
なぜなら――――――。
(こうして、他の女子を巻き込むような男子だとわかれば、ボクに幻滅して彼女たちも目を覚ましてくれるだろう……)
彼は、あえて自分自身を卑怯な手段を取る人間だと思わせることで、リリムたちの関心を自分から遠ざける手段を取ることにした。
そのため、昨夜の通話アプリでの打ち合わせでは、
「計画がバレそうになったら、しつこく主張をせずに、すぐに手を引いてくれて構わないから……」
と、伝えておいた。
そして、彼は、頭を下げたまま、四人の女子生徒に向かって謝罪と、お断りの言葉を告げる。
「騙し討ちをするようなことをして、ゴメンナサイ。でも、ボクは、まだ誰ともお付き合いをするつもりは無いということをみんなに伝えてくて――――――」
不祥事を起こした有名人や大企業の取締役たちが謝罪会見を行う際の指標とされる最敬礼の角度(90度)と時間(キッチリ10秒)を守った
「ふむ……どうやら、私たちの想いは、彼に軽く見られていたようだ」
生徒会長が口を開く。
「そうだね。そんな、軽々しい気持ちで手紙を書いたんじゃないだけど?」
クラスメートの陽キャラ女子も同調した。
「そうですね! ひかりは、『運命の人』なんて言葉を誰にでも言うわけじゃありません!」
中等部の女子生徒は、同意するようにうなずく。
そして、図書館で出会った同学年の女子も彼女たちと意気投合するように、
「
と断罪するように言い放つ。
(ヨシッ! ボクの計画どおり……あとは、このまま、手を引いてくれれば)
デスノートとともに記憶を取り戻した高校生のように、心のなかでニヤリとほくそ笑んだ
「――――――ですので、針本さんには、それなりの
それは、彼の想定したシナリオとは、まったく異なるものだった。
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