転生した男の妹の話

いぎたないみらい

黒く、渦巻く

「あら、はなちゃん。今日もかずきくんのとこ?」

「はい。いってきます」


 兄が交通事故に遭って死んだ。

 1ヶ月があっという間に過ぎていった。

 今日も事故現場に花をお供えしに行く。



 ……また、…荒らされてる。昨日の花がぐちゃぐちゃだ。回収してミミズコンポストにいれよう。


「あら?もしかして、ココにお花をお供えしているのってあなた?」

「…?そうですけど……?」


 知らない中年の女性が話しかけてきた。


「あなた、知らないの?ココで交通事故で亡くなったのは、刑務所から出て来るような奴なのよ?そんな奴にお花なんてもったいないわ」


 ああ…そういうことか。


「何でもその男。働いてた工場の上司を殴ったらしいわよ」


「その前にも、なんだか良くない仕事をしてたらしいし」



「今回の事故だって、自作自演でヒーローにでもなって、恩人だなんだ言って脅そうとしてたのかもしれないし」



「ほんと、怖いわよねえ…。不謹慎かもしれないけど、むしろ死んで良かったんじゃないかしら」




「お供えなんてほんと、しなくたっていいのよ。だって、死んで然る人間なんだから」




 ………………………。



 なんでこの人は、何も知らない赤の他人を、自慢気に語っているんだろう。

 なんで、見てもいないことを、さも体験した事のように話しているんだろう。

 なんで、この人に、兄を侮辱されなければならないんだろう。


 確かに兄は、上司の人を殴った。

 上司の人が家庭内暴力を何年も行っていて、その上、幾度となく浮気をしていたから。


 確かに兄は、良くない仕事をしていた。

 高校の先輩に借金の保証人にされて、その人が逃げて、代わりに仕事をさせられたから。


 確かに兄は、刑務所に入っていた。

 上司を殴った事も、良くない仕事をしたのも、事実だから。


 確かに兄は、人から貶されるようなことをした。


 でも、それは、お前みたいな奴に、貶されていいようなことじゃない。


 静かに深呼吸をして、落ち着いて。


「あなたは、この人のお知り合いなんですか?」

「…はあ?私が?そんなわけないじゃない。失礼ね」

「じゃあ、赤の他人の知らない人間ですね」


 不機嫌そうな顔


「知らない人のこと、よくお知りなんですね」

「ニュースを観てたら、分かるわよ」



 気持ち悪い



「知らない人なのに?ニュースで報じられていることが、全て事実だと」

「?そりゃあ、そうでしょう」


 加えて、怪訝な顔。


「ニュースが、断片的な情報しか報道していないにも関わらず。 それ以上のことも知らないまま。 相手が、どんな顔をしているかも見ずに。 自分の持つ情報と考えが。  全員の、世界の共通なものだと?」


「っ?な、何よ?なんなの?あんた」




 虫酸が走る  吐き気がする




「兄は、あなたよりも、他人を想い、誠実に接し、きっとあなたよりも、人から好かれるような人間でしたよ」


 ババアは、よく解らない言葉を発して、どこかへ行った。


 家に帰って。布団に寝転んで。おーきく深呼吸して。しっかり息吸って。


「お兄ちゃんは、私を、最後まで愛しくれました!!最高の、一人っきりの、大好きな家族です!!!」


近所迷惑だった。

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転生した男の妹の話 いぎたないみらい @praraika

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