第18話:殲滅戦 中編


GyaaaAAAAAAAAA!!!!


「来たぞっ!」


誰かが声を上げる。それに釣られて空を見上げると、なんということでしょう。そこには少なくとも10体はいるドラゴンの群れが。一つの街に過剰戦力過ぎんかね。


めっちゃ逃げたい。今すぐにでもこんな街捨てて逃亡したいが、ここを乗り越えたら多分フィレスを仲間に出来るイベントが発生する気がする。そんな予感がしてる。


ってよく見たら、なんかウチの仲間が空中戦してんな。アレンの魔法が空に乱れ舞ってるし、ミナが超高速で動きながら竜の肉体を削りまくってる。うわ、一体撃墜させやがった。やっば。


「なんだアイツらッ!?やべぇ!!」


凄いでしょ?あれ実は俺の仲間なんすよ。


「よし!俺達も負けてられねぇぞ!」


そう言い放った冒険者を先頭に多くの冒険者が地に墜ちた竜に突撃し、魔法職や弓を持っている遠距離攻撃部隊が空からこちらを見下ろしている竜を引きずり下ろそうと全力で攻撃を仕掛けている。小さな戦争と言っても差し支えない規模感に俺は圧倒されていた。


他の冒険者もヤベェな。吹っ切れたのかメンタルが強靭すぎる。よく竜に突っ込んでいけるな。俺なんか傍観してるだけだぜ。おっ、あそこにユーリくんがいるぞ。しかもこっちに気づいてるっぽいな。手招きしてこちらに寄せて、ユーリくんに要望を伝える。


ユーリくんの支援魔法をこの場にいる全員にかけることって出来る?出来るならやってほしい。


「精度はかなり落ちますけど、できます!【全体付与・強化&俊敏&硬化】!」


ユーリくんが支援魔法をこの場にいる全員にかける。ダメ元言ったけど、いけるもんなんだな。さてさて、反応はどうかな?


「……なんか速くなってる?」


「手応えが増してるぞ!」


冒険者や兵士の皆様方は支援魔法による変化に驚いているようだな。さすがはチート級の性能を持つユーリくんの魔法。多少精度が落ちたところで高いのに変わりはない。


「皆さんに支援魔法をかけましたので、戦いやすくなっているはずです!」


「ホントか!?皆!今のうちにたたみかけるぞ!」


ユーリくんの援護によって強化されまくった冒険者達の猛攻で更に戦況が優勢になる。こりゃ、俺は完全に外野だねぇ。適当に遠くから石でも投げてるか。


そうして石を集めながら戦場を眺めていると、何か違和感を感じた。……なんか、天候変わってね?澄み渡るほどの快晴だったはずだが、知らぬ間に曇天へと姿を変えていた。……あっ、すっごい嫌な予感がするぅ。


その嫌な予感が確信へと変わるのにそう時間はかからなかった。


GoooooaaaaaaaaaAAAAAA!!!!!!!!!!


地を揺らすほどの咆哮が辺りに響き渡る。そしてその声の正体は空を覆い尽くす雲の中から現れた。赤褐色の鱗を身にまとった竜。他の竜が小さく見えるほどの圧倒的な巨躯に睨まれただけで戦意喪失しそうな眼光。ほぼ確実にこいつが親玉だ。


「……あっ……あぁっ……」


その竜が放つあまりの威圧感に持っている武器を落とし、ガタガタと体を震わせる者が多数。不味いな。戦力が足りてたとしても、心が折れてるぞ。


「……我は竜王【ファフニール】貴様らの時はここで止まるであろう。」


うっわ、喋りやがったよ。さすが竜王、人間の言葉も話せるんだね。しかもドスきいてる声だし。何人か声が怖すぎて気絶してるし。


「……貴様ら人間に恨みはないが、魔王様の勅命を賜ったのだ。せめて痛みを感じぬうちに消し炭にしてやろう。」


そう言うと、竜王は口に炎を溜め始める。恐らくあれはドラゴン定番の必殺技【ドラゴンブレス】だ。炎の熱気がここまで伝わってきており、あれに当たったら一瞬で消し炭になるであろうことが分かる。


って冷静に分析してる場合じゃねぇ!あれアカンやつや!!やっばっ!?どうにかしないと死ぬ!


しかし、止める方法も思いつかず、恐らくここから多少離れた程度だと逃げきれないことをやけに冷静な脳が分析する。


あっ、これ終わった。


俺どころかこの場にいる誰もが、諦め、竜王のブレスが来る瞬間を身構えていた、その時。


「やめてぇえええええ!!!!!!」


戦場に聞き覚えのある声が響き渡る。それに気を取られたのか、ブレスがキャンセルされる。


即座に声のした方向に目を向けるとそこには翼を生やした【フィレス】が空に浮かんでいた。


わぁ〜い!救世主だぁ!!!


突然現れたフィレスに皆が動揺している中、フィレスは竜王の方へと近づき、何かを話し始める。何を話してるのかは遠すぎて聞こえないが、多分街を滅ぼすのを止めて欲しいって話だろうな。


……仮にそうだとしたら、結構悪手な気がするな。魔王の勅命と言っていたから、成功しなかったら消されると脅しをかけられている可能性もあるかもしれないし、ヤツらは既に何体か仲間を失っている。そんな状況で引き返すなんてことは絶対にしない。


そう思った瞬間には、既に俺は走り出していた。この静寂の時間は長続きしない。なら今出来ることをする。俺は近くで呆然としているユーリくんに声をかける。


「ユーリくん!今、他の冒険者にかけてるバフ切って、全部俺に付与して!」


「えっ……?……は、はいっ!!【付与・強化&敏捷&硬化&再生】!」


よし、これで全バフを貰えた。そして近くで気絶してるおっさんから大盾を拝借して、アレンの元へと全力で走る。


「アレン!俺をフィレスの元まで全力で飛ばせ!理由は聞くな!」


「了解。【浮遊フロー】」


とんでもない勢いで空へと舞い上がる。そしてやっぱり、交渉決裂してるなぁ!予想通り!


目の前で竜王がフィレスに向かって、ブレスを放とうしているのが目に入る。そこに割り込むように飛び込む。


「えっ…………?」


フィレスが驚いたような顔を浮かべる。まぁ、そりゃそうか。突然現れたんだから意味分かんねぇだろうな。


GaaaaaAAAAAAAA!


そして来やがったブレス!即座に盾を構えて、フィレスにブレスが当たるのを防ぐ。って熱ッ!?こんなん盾溶けるわっ!?


「ヒビキさんっ!?」


俺の名前呼んでる暇があるんなら逃げろよっ!!早くしろ!!!と命令すると、フィレスは躊躇いながらその場から離れていく。


……あっ、俺どうしよ?逃げるプランねぇわ!HAHAHA!!やっばぁい!!??死ぬぅ!


命の危機に晒されてパニックになっていると横腹に何かが当たり横に吹っ飛ばされる。


「ごぶぇっ!?」


そのおかげで何とかブレスを回避することに成功した。下を見るとアレンがグッドサインしてる。多分風魔法かなんかで俺の事をぶっ飛ばしたのだろう。……右腕は焦げたけど。痛ッ!!気づいた瞬間に、とてつもない痛みが走る。痛い痛い痛い!!!はっ!治った!


ユーリくんの支援魔法のおかげで即座に火傷は元に戻った。……とはいえ、めっちゃ痛ァい。泣けてくるぜ。


……さて、あとはアレン達にバトンタッチして、俺はフィレスの所に行きますかね。フィレスにも戦いに参加してもらわねばならぬ。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


街の外に向かっている最中、空が曇り出す。……私はそれを何度も見た事がある。あれは父が竜として現れる時の合図だ。


……不味いっ。早く行かなければ皆が殺されてしまうかもしれない。そう思った私は翼を必死に動かし、全速力で街の外へと向かう。


そうして、街の外へと着いた時に目にしたのは私の時と同じように父が全てを燃え尽くさんとする姿だった。


私はあの時の光景が蘇り、思わず叫んでしまう。


「やめてぇえええええ!!!!!!」


そう私が叫ぶと父は私の存在に気づいたようで、攻撃を中断する。……今、交渉すれば、もしかしたら帰って貰えるかもしれない。


微かな望みにかけながら私はゆっくりと父に近づく。


「……フィレスか。まさか生きていたとはな。」


私を見定めると、驚嘆の声をあげる。……そのセリフに多少怒りを覚えるが、今は私怨を抜きにして話さなければ。まだ少しの望みがあるのだから。


「……父上、人間を襲うのはやめてくださいっ!」


「……それは無理だ。」


だが父の答えは私の望みを容赦なく砕いた。


「何故ですかっ!?」


「それが、魔王様の命令だからだ。」


「……魔王様、魔王様って……そんなに魔王様の命令が大事なんですかっ!?」


私は今まで抱えていた疑問を父にぶつける。すると父がその問いに躊躇いながらも答える。


「……指示に背いたら、我を含め、同胞の命が危ないのだ。」


「……えっ?」


その答えはあまりにも予想外で私の思考を乱すには十分すぎるものだった。


「だから、我はもう止まることはできない。そして、お前も我を止めようとするなら敵として認識しよう。」


父がそう言うと、大きく口を開き、再び炎を溜め始めた。私は動揺からその場から動けずにいた。このままだと死んでしまう。そう頭では分かっているが体が動かなかった。


……あぁ、私はここで死ぬのか……そう死を覚悟したその時。


「ぁぁぁあああああああああ!!!!!」


私と父の間に割り込むように、凄まじい勢いで盾を持ったヒビキさんが入ってきた。


「えっ…………?」


GaaaaaAAAAAAAA!


そして父のブレスから私を守るように盾を前に突き出す。盾が溶け出し、熱さで苦しむヒビキさんを見て、私は悲鳴に近い声を上げる。


「ヒビキさんっ!?」


だが、そんな私を叱るようにヒビキさんは声を荒らげる。


「俺の名前を呼んでる暇があるなら早く逃げろよっ!!立ち止まるな!早くしろっ!!!」


ヒビキさんの怒りも混じったその声に圧倒され、私は急いでその場から立ち去る。街の方向に逃げ、地に降り立つ。ここまで離れれば炎に当たることは無い。


……ヒビキさんはどうなったのだろう。見てしまったら後悔するかもしれない。……ただ、見ない訳には行かない。


そうして恐る恐る振り返ると、何とヒビキさんはあの場からどうにか逃げ出せたようで私がいる方向へと全力で向かってきている。


「ヒビキさん!」


ヒビキさんが生きていたことに喜びを隠せずにいると、私の元までやってきたヒビキさんが真剣な表情で口を開いた。


「感動の場面は後だ!フィレス!お前の力を俺達に貸してくれ!」


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