第二十二話 文化祭は何をやる?
「はーい、今日のお勉強はこれでおしまいよ~」
五時間目の終了のチャイムが鳴り、姉御がそう言ってパンパンと手を叩く。
「やっと終わったわね~。今日も疲れたわ」
そう言ったのは隣の席に座るユメ。とんとんと肩を叩く仕草が何だかババ臭い。
「お疲れ、ユメ。後一時間はLHR(ロングホームルーム)だからしっかり意見だしてよね? 葛城もよ?」
ウインクして見せるのは逆隣の席の委員長。
「……うう……コタローめ……両手に花の生活やん! 羨ましすぎるわ!」
そう言って、不満そうな顔を見せるのは一番前の席に座る修斗。回り近所の男子達も一様に鋭い視線を送ってきやがる。仕方ねえだろう、クジで決まったんだから。
ユメが人間界に来て三週間程たった。最初こそぎこちなさがあったものの、今ではユメも立派にクラスの一員……と言うより、既に中心人物の一人。委員長が人気を独占したのは今や昔。我がクラスは『委員長派』『葛城ユメ派』『諸派閥』と三派に分かれ熾烈な争い……は繰り広げてないけど、まあ次の人気投票では票が割れるであろう事は確実なぐらいには、ユメも人気者になっている。
ユメが学校に馴染むのと時を同じくして、俺の生活も一変。もともとちょっとずつ勉強はしていたが、先日の勉強会のお陰もあり、俺の成績は急上昇。学年で半分以下だった俺の成績は、一挙に百番以上上がった。
『凄いじゃない!』
と、我がことの様に喜んでくれたユメが学年二位だったのがちょっと癪だが……まあよしとしよう。ちなみに一位は委員長だ。
今はもう、努力するのはちょっと格好悪いなんて……まあ思っていない訳では無いけど、こんな生活も、悪くは無い。
さて、そんな学年一位と二位のいる我がクラス、つい先日席替えをした。日頃の行いが良いからか、厳正なるくじ引きの結果、俺は窓から一列内に入った一番後ろというベストポジションをゲット。両隣にユメ、委員長を迎えるおまけつきだ。いや、男子の嫉妬やら怨嗟やらの視線を一身に受けている所を見ると、むしろ日頃の行いが悪いのだろうか。ちなみに一番前の席に座っている修斗(バカ)は、不正をしようとしていた事が発覚。姉御により強制的に教卓の前にされてしまった。
「意見ね~……一杯だしてるんだけど、全然通らないもん」
「……訂正。ユメは黙っていて」
呆れたように委員長がため息をつく。苦笑しながら俺も頷く。
「だな」
「なんでよ! いいじゃない、本格タコ焼き屋台! 格好いいでしょ!」
「まあ否定はせんが……お前はチェーン展開までしたいとか言うから」
「だって、その方が面白そうじゃない!」
「……明らかに文化祭のキャパを超えてるだろうが」
俺の言葉に、委員長も頷く。
「葛城の言うとおりよ。まだ出し物の影も形も決まって無いのはウチのクラスぐらい。他のクラスはこのホームルームで詳しい分担まで決めるから、せめてうちも、出し物を何にするかぐらいは決めないと……間に合わなくなっちゃうわ」
はーとため息をつく委員長。よそのクラスは既に帰りのHRや、先週のLHRで何をするか決めているらしく、実際に動きだしている所もちらほら。
「と、チャイムが鳴ったわね」
チャイムの音と同時に、委員長が教卓へ。姉御は脇にどいてクラス中を楽しそうに睥睨している。
「はい、それではLHRを始めます。皆さん知っての通り、今日の議題は『文化祭の出し物を何するか』です。それでは意見のあるか――」
「はーい! はいはいはいはいはい! 委員長、俺! 俺にグッドアイデアがあんねん!」
「……他に意見のある方は?」
「ちょっと待ちい! なんで俺を無視すんねん! 委員長、俺や! 俺!」
「アンタの意見は『ドキ☆女子高生だらけの水着大会』とか『コスプレ写真撮影会』とかそんなんばっかでしょうが!」
「昔の事は覚えてへん!」
「流石、修斗(バカ)。三歩歩けば忘れるニワトリ脳ね」
「おい委員長! いま、修斗と書いて『バカ』と読んだやろ!」
「もう! うるさい! とにかく修斗は意見禁止! あと、一番前の席に居たら邪魔! 廊下に立ってなさいよ!」
「なんでやねん! 横暴や! 先生~! 委員長が民主主義に反してます!」
「……大場君。あなた、藤堂さんの席に座りなさい」
「ブルータス、お前もか! なんでやねん!」
「会議が進まないからよ」
「そないな事言ったって!」
「……大場君」
姉御が、ぎらっと『嗤う』
「……はい。わかりました」
一瞬身ぶるいし、修斗が委員長の席、つまり俺の隣の席に。
「どうした修斗。いやに聞き訳が良いじゃないか」
「……姉御の視線がめっちゃ怖かってん」
「……そうか」
ヘタレとは言わない。だって、まじで震えてるんだもん。
「あと、葛城さん……ユメさんの方も意見は控えてくださいね?」
「せ、先生! 何で私が! 私はいつも真面目に――」
「……なに?」
「……はい」
ユメ、撃沈。
「さ、早く決めてしまいしょ。私も職員室で肩身が狭いんだから」
姉御……問題児の多いクラスですいません。
「では、ユメと修斗以外の人で意見がある人~」
委員長の声がクラス中に響く。が、誰も手をあげる者は無し。
「……もう。なんで誰も手をあげないの?」
そう言われても……
何だかんだで俺たちも遊んでいた訳ではない。喫茶店やら展示やらとあらかた意見は出尽くした感がある。ユメの意見だって一応『屋台』という出し物だし、修斗にしたって目新しい物を、という意思は尊重できる。どちらも少々脱線が多かったが。
「葛城、なんかない?」
「俺?」
委員長に振られるも、俺にいいアイデアは浮かばんぞ。
「い、委員長~」
困っていた俺に助け船を出す形で、修斗が遠慮がちに手をあげる。
「……なに、バカ」
「ついに直接バカ言いよった!」
「アンタの意見は聞かないって言ったでしょ。大人しくそこに座っていなさい」
「い、いや今度は真面目な意見やねん!」
委員長がちらっと姉御に視線を送る。一瞬迷ったあと、姉御が頷いた。
「……じゃあ修斗。言っとくけどアホな意見だったら今度こそ教室から叩きだすわよ?」
「ま、まかせとき! あんな、今このクラスの出し物が決まって無いのは何でやと思う?」
「なんでやと思うって……アンタがアホな意見ばっかりだしたからでしょうが!」
「い、いや、それは悪かったと思ってる。でも、そうやなくて折角の文化祭で、ありきたりな出し物じゃつまらへんとみんな思ったからやないか?」
「まあ……一理あるけど」
「せやろ? 飲食系はやり尽くした感があるし、どのみち他のクラスがもうやってはる。今から真似しても準備不足でウチの負けや」
「まあ……ね」
「せやったら、俺らは俺らの独自の事をやろうや!」
「……具体的には?」
委員長の言葉に修斗がぐいっと右手の親指を挙げて。
「演劇とかどないや?」
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