未来からきた
@no_0014
未来現在過去
「お前が変えたい過去からお前を連れて来た。そこから先の未来を無くしてやるよ」
突然目の前に現れたのは、未来の俺と、何もわからず連れて来られた過去の俺だった。ひと目の無い場所とはいえ、ほぼそっくりな男が三人も同じ空間にいるのはあまりにも異様だった。
確かに未来の俺は今より少し皺が増えているような、過去の俺は今より自分に自信と勢いを持ってるような……そうでもないような。みんな同じ俺だってことはすぐにわかる。
「ちょっ、突然現れて行くぞって言って着いた先にまた俺かよ。なんなんだよ、お前ら」
「まあまあ。お前はいいから。なぁ、今日だったよな。俺があの日に戻れたらって思った彼女と別れたのって」
過去の俺が騒ぐのを抑えつつ、未来の俺が、今の俺に話しかけてくる。こう見ると未来の俺はちょっと大人びて見える。
「どういう意味か、教えてもらえるなら、その話、聞いてみたい」
「おっ、さすが俺。慎重に見せかけてもう行く気満々の顔してんじゃんww 流石に時間ないんだわ。悪いけど、今……じゃないか。未来の俺様は、忙しいんでね。ほんじゃ、行ってらっしゃい」
「「は? おい!!」」
過去の俺と今の俺がハモる程に未来の俺は決断が早く、行動も早かった。――
気が付いた時には、過去にいた。社会人を始めて直ぐに新しく好きな人ができたと言われて彼女に振られたあの日から遡って、彼女と付き合う直前の高校2年の夏だった。
それなりに長く続いた彼女。そのまま結婚すると思っていた彼女からの突然の別れに俺は動揺してあの時は何を考えていたのか、今では思い出せなかった。
学生服を着てた過去の俺が高校生なのはわかっていたが、まさかここに戻ってくるとは。正直また進学の勉強をして大学をそれなりに過ごして就活して……気が重いんだが。知っているだけに苦労が目に見えて滅入る。
「あの……さっきから黙ってるけど、用って何?」
はっとした。目の前に誰か立っていたことに気が付かなかった。今日が彼女に告白をした日だったのか。
「あ、いややっぱりごめん! 今日の呼び出し、無かったことに」
「えっ! 待って! せっかくだからさ、私たち付き合ってみない?」
「……え?」
驚いた。彼女の方から告白をされるとは微塵も思ってなかった。しかしこれで、彼女と付き合ったら未来は変わるのだろうか? ずっと俺から告白したことを彼女は口酸っぱく何年も言われてきたんだ。変わるだろう。
そう思ったのも束の間だった。また未来の俺は高校2年に戻った俺の元に、昨日の俺を連れてやってきた。
どうやら、ほんのちょっとの差異では未来は変わらないらしい。
未来の俺は事あるごとに俺の前に過去の俺を連れてやってきた。そしてその度になんの説明もないまま、俺を過去に戻した。何度も告白の日から俺は何度もやり直してきた。結構未来へ行けた時もあった。その時は少し先の過去に戻った。
だが、段々と俺も辟易とした気分になっていた。いいじゃないか。その未来でも。何で未来の俺はそんなに変えたがっているんだ。
怒りに任せて、次に未来の俺が顔を見せたら殴ってでも聞いてやる。そう思っていたが、目の前に現れた未来の俺を見て、そんなことは一瞬で消えてしまった。
過去の俺が居ない。
「おい、おまえ……その血……」
未来の俺は、全身血だらけ……というよりは、両手と前側の上半身のTシャツにべったり跳ね返ったような。どう見ても俺が何かされて死にそうというわけではなさそうだった。未来の俺は俯いたまま擦れた声でぶつぶつと何かを言いながら、今の俺に近づいてくる。
思い返してみれば、戻ってくるたびに未来の俺は最初は変わらなかったが、段々と余裕もなくなり、狂気じみた脅しにも取れるように俺を過去に戻していた。
すがるように今の俺の胸倉を血まみれの両手で掴み、一瞬だけ鋭く今の俺を睨んだ。だが直ぐに戦意喪失したように膝から崩れ落ちて虚空に向けて念仏を唱えるかのように何度も同じことを囁き続けていた。
「変えてくれよ……俺の未来を……戻れば、何とかなるはずなんだよ。過去の俺が変わりさえすればこんなことには……」
未来からきた @no_0014
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