2.気がつくと、アサドは医療ベッドに寝かされていた。

アサドは「管理No.93201」の世界で「火炎の魔王」として君臨していた。


最後の記憶は勇者一行に敗れたシーン。

その後どうなったのか、その辺の記憶はない。


(ここは……?)


アサドは身体を起こそうとしたが、


(うッ)


身体が動かない。

激しい痛みが走る。


(重症らしい)


アサドは思った。


すぐに意識を失った。



次に気がついた時に、アサドは隣に他の患者を発見した。


同じ医療ベッドに寝かされている。


(5人……いや、自分も含めたら6人か)


皆、全身包帯でグルグル巻きにされている。

頭すら動かせないので見れないが、恐らくは自分もそうなのだろう。


「気がついた?」


ドアを開けて入ってきたのは白衣の女。

髪は後ろで束ねており、顔立ちには幼さが残っている。


「まだ寝ていた方がいい」


女はアサドに語りかけ、枕元へと寄ってくる。


医療機器の調子を見ているのだが、アサドにはその知識がなかった。


(コイツ、何をしているのだ?)


不審に思ったものの、身体が動かないのでどうしようもない。


「これは、おまえら患者の体調を計測する機械だ」


女は話しかけてくる。


「危険はないから安心しろ」


しばらくの間は、女がやってきて勝手に話しかけてくるという状況が続いた。

やがて、包帯が取り払われ、アサドは身体を起こすことができるようになった。


「私は、スン・メイホウ(孫美猴)という」

女は言った。

「お前の名前は?」


「アサド」

アサドは答えると、質問をした。

「コイツらは何だ?」


「お前と似たような存在だ」

メイホウはフッと笑う。

「どこぞの世界で魔王をしていたらしい」


「なんだそれは?」

アサドは訝しむ。

「魔王は我一人のみだ」


「お前はどんな魔王だったのだ?」

メイホウは聞いた。


「火炎を操る魔王だな」

「火炎の魔王か…」

メイホウはどこか懐かしむかのような表情をした。


「ここは?」

と、アサドの隣のベッドに寝かされていた男がしゃべった。

「お前らは何者だ?」


「私はスン・メイホウ。

 コイツはアサド、火の魔王だとよ」

「何ッ!?」

男は驚いたような顔をしたが、

「痛ッ」

すぐに顔をしかめて呻いた。


「まだ安静にしていろ。

 アサドは回復したが、お前はまだまだ傷が治っておらん」

メイホウは機械のチェックをしつつ、言った。


「お前は何の魔王なんだ?」

アサドは疑問を素直にぶつけた。


「水龍」

男は簡潔に答える。


「フッ、どうやら魔王ってのは言葉少なめらしいな」

「フン」

メイホウとアサドは、一瞬顔を見合わせ、そしてそっぽを向く。


「ここはどこだ?」

水龍の魔王は再び聞いた。


「お前はケガをしている。瀕死の重傷だ。だから治療をした。

 今は安静にしていろ」

メイホウは同じくらい簡潔に答えた。


「う、む、そうか…」

水龍の魔王は、そう言うと大人しくなった。

眠ったらしい。

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