第6話
正面、四十メローグ級の旗艦と思われる飛空船に
完全攻撃型の雷騎には、右腕に小型の烈鋼砲。左腕に魔砲を搭載し、両脚には空雷弾くうらいだんを各六発。背中にはちょっとしたお城なら軽く破壊できる核石弾を二発。腰には奇蹟の金属といわれるマグナの剣を装備している。
まさに攻撃あるのみに仕上げたんだけど、見境がないのが困ったちゃん。真っ先に船橋を空爆弾で吹き飛ばしてしまった。
……やれやれ。これだから攻撃以外に使用できないのよね……。
「雷騎。船体とバカはどうでもいいけど、魔力炉だけは壊さないでよ」
〈はぁ~い〉
容赦ない烈鋼弾の雨を降らせ、あっという間に旗艦と思われる飛空船を沈黙させてしまった。
〈あれ? 終わっちゃったよ?〉
「……じゃあ、乗組員でも殺してなさい……」
〈了~解〉
雷騎から左右へと意識を向けた。
右の護衛船と思われる飛空船には突入攻撃型の
それぞれに収納されている甲殻兵を放ち、船内を制圧するべく戦っていた。
戦闘式組と甲殻繊維からなる甲殻兵は、ちょっとした魔法戦士くらいには強い。
思念波を一体に送り意識を同調させ様子を見る。
うん、まあ、空賊なんて船の威力で黙らせて奪うゲスども。下っぱの戦闘能力などたかが知れている。予想通り、殺戮であった。
だからといって止めさせるつもりはない。ゲスという生き物が死ぬだけ。なんの感慨も沸きやしない。
同調を切り、後ろの輸送船と思われる飛空船に襲いかかった
銀騎は情報収集型。三大悪の一つ、『グリグス』があたしの細胞から造った人造生命体だったが、あたしが『グリグス』の研究所から奪い、魔鋼機まこうきに改造した。
他の五体もそうだけど、銀騎はあたしが元になっているため、思念波が同調しやすい。なので意識連動が可能で、銀騎の見ているものが自分で見ているように理解できた。
銀騎に収納された甲殻兵も特別製で上級魔法戦士くらいには強い。銀騎一体あれば並みの敵など恐れるに値しないのだが、あたしの人生敵ばっかり。日に日に敵が増えているから六騎でも足りないのよね……。
〈ロリーナ。制圧完了っ〉
雷騎からの思念波が届く。
銀騎から意識を切り離し、正面の飛空船……だったものに目を向けた。
浮いているのが不思議なくらいの元飛空船にため息が漏れた。
「……ご苦労さま。銀騎の援護に向かって。いい。殺すのはゲスだけよ。船を壊しちゃダメよ」
〈お任せあれっ!〉
「鋼騎。お宝はあった?」
〈今調べているところだ。もうちょっと待て〉
〈主さま。降伏する者が出ました。いかがなさいますか?〉
騎士が元になっているため、風騎は騎士道道精神が強い。何度いっても降伏する者には情けをかけちゃうのよね。
「じゃあ、逃げないように縛っておきなさい。あとで"お土産"を運んでもらうから」
〈突き出さないのですか?〉
「空賊や山賊は、どこの国でも問答無用で縛り首でしょう。なら、有効利用した方が世間のためよ」
〈……畏まりました……〉
そのことは何度も説明したし、風騎もわかっている。だが、人造生命体とはいえ魂もあれば個性もある。悩みやもあれば信念もある。それらを無視していては六騎団を従わせることはできない。主人であるが絶対者ではない。自由意思を持った"人"として接する。面倒とは思うけど、日に日に敵が増えている状況では信頼がなにより武器となるのよ。
「蒼騎。終わったら上空警備ね。天騎は、その船にある魔石をいただいてちょうだい」
これだけの飛空船を持つ空賊が三流な訳がないだろうが、日々超一流どころと戦っている者としては雑魚感しか感じない。
……まあ、だからといってクズどもに一片たりとも気をつかおうとは思わないけどね……。
〈ロリーナ。大漁ですよ〉
頭の中に樽いっぱいに詰まった金貨やら煌めく宝石が浮かび上がった。
随分と羽振りが良いわね。にしても襲撃するのにお宝持参ってどうなのよ? まあ、こちらは助かるけどさ。
「ご苦労さま。こっちに運んでちょうだい」
〈了解です〉
〈ロリーナ。飛翔艇で逃げるバカがいるぞ〉
天騎から連絡が入る。
〈あたしが撃ち落としてあげるわっ〉
「雷騎には無理よ」
全騎飛行は可能にはしてあるが、翔ぶのが本職の飛翔艇には敵わない。六騎団一の重量を誇り、陸上戦使用の今では絶対に追いつかないわ。
〈ブーブー! もっと空戦用に仕上げてよっ!〉
それが攻撃低下になるとわかっているのなら空戦用でも海戦用でも好きなものに仕上げてあげるわよ。
「蒼騎」
〈よろしくてよ〉
狙撃用の烈鋼砲を装備する蒼騎ちゃん。
その偏光水晶により十リノ先にいる羽虫すら確認でき、搭載されている狙撃用烈鋼砲は凝縮された魔力を爆発させて弾丸を撃ち出す。その弾丸にも魔術が施され、初速は五百ルノを超え射程距離は五千メローグに達する。が、弾が大きくて1発ずつしか装填できないのよね……。
「じゃあ、よろしく」
〈了解〉
蒼騎の烈鋼砲から弾丸が放たれる。
烈鋼砲の大きさは飛翔艦隊に一般的に装備されるくらいだが、弾丸が特別製。装甲に激突すると中に仕込まれた魔術が発動する『炸裂弾』なんです。
ぼん!
そんな音が聞こえてきそうな爆発が起こった。
「お見事。では、引き続き上空警備をお願いね。銀騎。これからお風呂に入るからあとはよろしく。あ、食べ物があったら持ってきて」
〈了解です〉
船長席から立ち上がり、船橋の端に固定してあるあたしの愛用の鞄(さすがの腐れもなにもなしで送り出すほど腐ってはいなかったみたいね)を探ると、手拭いと石鹸を発見。ラ・シィルフィー号のお風呂(普通はありません)へと向かった。
「あーあ。鼻血でかぴかぴだわ……」
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