第4話
「さすが十七回も逃亡し、十二回も襲撃……いや、強奪しただけはある。まったく躊躇がない。まさか炎の精霊獣まで宿しておるとは、な──」
これぽっちも容赦せず剣魔の杖であたしの左の甲を叩き突け、ゴルディを封印してしまった。
「うむ。念のためだ、リィズも封印しておくか」
右の甲を叩き突けた。
「それだけ元気なら充分じゃない! テメーで冒険しやがれッ!」
「お前を捕まる技術はあっても音速に耐えられる肉体がない。なので元気で若いロリーナに任せるのだ。幸いにして"維持"と"報告"に長けておるからのぉ~」
……完全にあたしにさせる腹だったんじゃないのよ……。
「しかし、問題が一つある。ラ・シィルフィー号の建造するのに全財産を注ぎ込んだことだ」
確かに、飛空船を建造するなど並みの財力では不可能だ。ましてや星船型飛空船となれば天文学的数字になるだろう。公国の魔導とはいえとても用意できるお金ではないはずだ……。
「……な、なにがいいたいのよ?」
と、懐から竜の皮で作った小袋を取り出した。
ほれとあたしの前に落とした。
音からして金貨。重さからして百タムと見た。
「当分の資金だ」
沈黙の海に沈んで行きそうな意識を無理やり繋ぎ止め、腐れ外道を睨みつけた。
「な、なにかの、冗談?」
「そう思うか?」
……そう思いたい気分でいたっぱいよ……!
それで馬一頭を一年間維持することはできりるでしょう。だが、馬百頭は無理。そんな状況に置かれているんですよ、あたしは……。
「……そ、それだけ……?」
「いや、魔石を買う金もなかったのでな、お前の騎士から拝借させてもらった。まあ、補助石は取っておらんから安心しろ」
お父様から視線を外し、ラ・シィルフィー号に移した。
全長約六十メローグ。重量は少なくとも三百ドガ以上。加えて魔進機。それらを満足させる魔力がどれほどのものか。考えるだけで胃が痛くなってきた……。
「技導師たるわしでも魔石なしでは翔ばせんからなのぉ~」
んなの当たり……へ? あれ? 今、この腐れ外道はなんていった? なにか"技導師"とか聞こえたんだけど……?
「ん? なんだお前、わしが技導師の称号を持っておるのに気がつかなかったのか、あれほどわしの書斎を漁っておって」
そ、そういえば、魔導師のお父様にしては技術書が多かったな……。
「ルベンダーを卒業後、帝国飛翔艦隊の技法師で働き、なんやかやで技導師になっておったよ」
その称号を得るには帝国飛翔艦隊で目覚ましい働きを見せたものだけが光人の遺産には触れられない。そして、光人の技術を一つでも解読できた者に贈られる名誉と才能の証だ。
「……なんでよ。なんでここにいるのよ……」
それだけの能力があるなら七賢者どころか大魔導師だって不可能じゃない。公国の魔導師に甘んじてることじゃないわ……!
だが、お父様は答えない。それどころか優しい眼差しを見せていた。
「……人材や資材の調達はお前に任せる。好きなように染めるが良い」
あたしの視線から逃れるように背を見せた。
……な、なんなのよ、今の眼差しは……?
「そ、その資金はどうするのよっ」
「いつものように奪え。六騎団もお前の武器も積んである」
……どこまでも腐れだな、この外道は……!
「それであたしが素直に従うと思っているの?」
「まったく思わんので特別な式しき組くみを丹精込めて仕込んでおいた。消去するなら充分気をつけるんじゃぞ」
「……ッ!」
悔しいが光人の遺産を学んできた技導師の式組など、今のあたしでは太刀打できないだろう。
だがしかしでありる。式組を消去できないのなら残る手はこのば自爆させるのみ。この腐れのことだ他にも悪辣な仕掛けが施されてるに決まっている。ならばここで自爆させるのみっ!
「ゴーハ──」
メゴシッ!
手加減のない一撃を受けて壁まで吹き飛ばされた。が、それが狙い。かかってくれなければ泣くぞ。
「まったく、親が与えた体をなんだと思っておる」
ケッ! こんな体に生んでおいて良くいうよ。こうでもしなければ生き残れないのを知ってるクセにっ!
左右の義手(とはいっても完全な義手ではない。三大悪の一つ、サリバラが開発した生体義手である)から甲殻の糸が噴き出し、体を覆った。
あたしが開発、錬金した『甲殻繊維』は変幻自在。鎧にもなれば剣にもなる優れもの。魔術師たるあたしが纏えば魔導師にも負けはしないんだからっ!
「やれやれ。口でいってわからない子は態度で教えるしかないかのぉ……」
ケッ! やれるものならやってみろッ!
「グア・ロード!」
「グア・ロード!」
ファイバリー家の夫婦喧嘩は天災級だが、親子喧嘩は史上最悪の人災であった。
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