第14話 犯人は達也?

 

 

 凛と達也が夕暮れ時の人気の少ない寂れた商店街の一角で口争いをしている。


「達也いい加減にしなさいよ!何故私の大好きな大樹に変なこと言うのよ。もう私に近づかないで!大っ嫌い。もう達也とは絶好よ!」 


 凛が怒って去って行く。


 するとその時後ろから何の前触れもなく達也が凛に覆いかぶさった。凛も空手の有段者だが、不意を突かれて抵抗しようにも抵抗できない。


「何を……何をするのよ?バカな……馬鹿な真似はよして!」


「凛を……凛を……誰にも……誰にも渡したくない。俺……俺……凛の事が……凛の事が……」

 そして……強引に凛の唇を奪った。


「…もう……いい加減にして!怒るわよ!」

 凛は空手の有段者。何とか達也を振り切り思いっ切り強く達也の頬っぺたを叩いた。

「大っ嫌い!もう二度と私の前に顔を出さないで!」


「うう(´;ω;`)ウッ…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」

 

 これは……あの夜の恐喝事件の数日前の事だ。また達也はあの夜の恐喝仲間の1人と親しい関係だった。ひょっとしたらあの夜の恐喝仲間の中に達也も……。


 

 ★☆

 

 田口は凛の父清の恋愛模様は一連の事件の要因に挙げられる可能性は非常に高いが、それより何より、まず最初に凛殺害犯から割り出していかなければ一連の事件には辿り着かないと踏んだ。そこでまず……凛の竹馬の友達也を怪しいと睨んでいる。


 あの達也はどうにも掴みどころのない、一見凛の奴隷のように見て取れるが……実はどうして一見温和そうな青年だが、その……内に眠る凛に対する執着は異常としか思えない。この青年をもっと深く掘り下げる必要があると直感した。


 それは凛が中学生の時の事で、達也と男の子2人の4人で東京ディズニーランドに出掛けた時の事だ。


 色んなアトラクション巡りをして最後に4人はお化け屋敷に入った。


 その時凛ともう1人洋平が2人でお化け屋敷に入り、いつまでも出て来ない時間があった。実は……洋平は成績も優秀でチョットだけイケてる少年だった。


(凛ちゃんはあんな冴えない達也にでも心を許して友達になっている。俺の方が達也より勉強だって出来るし、スポーツだって俺の方が出来る。この際だから凛ちゃんとお近づきになりたい)


 洋平は凛が4人での東京ディズニーランド行きをOKしてくれた時から、絶対に凛ちゃんを自分の者にと考えてやって来た。


 ワザと2人切りになれる隙を狙っていた。そして……わざと2人をけむに巻いてお化け屋敷の暗闇で、凛が怖がった所を抱きしめて距離を縮めようと企んだ。


「凛ちゃん大丈夫かい?」


「……私……私……お化け屋敷チョット苦手なのよね~」


 その時ろくろ首のお化けが首をフラフラ伸ばして凛に近づいて来た。


「キャ—―――—―――ッ!」


 凛は恐怖の余り洋平に抱き着いた。


「凛ちゃん大丈夫かい?僕が付いているさ」


 そう言うと尚も凛を強く抱き締めた。


「凛ちゃんそんなに怖いんだったら……僕の……手を握って……」


 凛は恐怖で誰かに触れていないと一歩も歩けない状態だ。こうして洋平の言葉に甘えて手を繋いでお化け屋敷会場を歩いていた。すると達也ともう1人の克己が凛たちに追いついた。


 だが、これには恐ろしい結末が待っていた。洋平がディズニーテーマパーク、東京ディズニーシーの海の中に突き落とされてしまった。


 そうなのだ。達也は凛ちゃんが親しそうに洋平君と手を繋いでいたことがどうしても許せなくて、皆がいない隙を狙ってディズニーシーの海の中に洋平君を突き落とした。

 あいにく大した事故にはならなかったが……。


 

 またそれから……こんな事もあった。

 それは凛とグループ交際をしていた亜美の息子大樹から聞いた話だ。


「あれは高校2年の夏休みでした。例の5人、僕と翔と舞と美穂と凛で湘南の海に出掛けた時の事です。僕と凛は友達以上恋人未満の関係だったのです。だから……凛とカップルで電車に座りました。凛がトイレに立った時に、1人で後ろの席で座っていた達也君が僕の席に来て言ったのです。凛にはれっきとした彼氏がいますから。名前は桐谷正幸という学生です。だから凛ちゃんに告っても駄目ですよ。凛はその彼に夢中だから……」


「それは……彼氏がいるのに、あなたが凛に夢中になって、これ以上深入りしない為に親切心で言ってくれたのではありませんか?」


「桐谷とかいう学生が行方不明になって美穂が言ったのです。もう2人ともいなくなったからバラすけど、達也君に『桐谷さんが凛の彼氏だという事にしておいて』と言われていたけど……後追い自殺に見せかけ達也君が殺したって事?美穂がそう言ったのです。桐谷さんも最初は可愛い愛する凛に告るだけのつもりだったが、断られてカ—ッ!となって首を絞めたか、それともABCに発展しようとしたのか分かりませんが、凛が受け入れてくれなくて桐谷さんが凛を殺害して、その一部始終を見ていた達也君が桐谷さんを自殺に見せかけ殺害したってのはどうですか?」


 田口はこの話を聞いて、これには疑問が残る。普通は一部始終を見ていたなら桐谷が凛を殺害する前に達也は出て行って凛殺害を阻止する筈だ。凛が殺されかかって、それを黙って見過ごす筈がない。

 

 だから……大樹君が言っていた、桐谷さんが凛を殺害して、その一部始終を見ていた達也君が桐谷さんを自殺に見せかけ殺害したってのは、どうにも腑に落ちない。


 それから…大樹君が言っていた通り、桐谷君のアリバイがしっかり立証された訳ではない。だから……凛殺害犯の可能性は捨てきれない。




「イヤイヤ桐谷君は警察が発表した時間帯には、コンビニと自宅で目撃されていたから、凛ちゃん殺害には関わっていないと思いますけど……それと、達也君にもアリバイがありますよね?おばあちゃんのお家岐阜県に行っていたという……」


「でも……コンビニといっても1日中いた訳ではありませんから?自宅も1日中いた訳ではありませんから……達也君は岐阜に行っていましたか?でも……あんな警戒心の強い凛が、用心棒達也がいない時に……ましてや桐谷さんと2人で会うでしょうかね?」


「確かに桐谷さんは8月30日は9:00~16:00までで、次の日の31日は22:00~6:00までで、30日は16:00時以降の時間が分かっていません。更に31日朝6:00以降は家に帰って寝ていたらしいですがアリバイを証明できるものは誰も居ません」とはコンビニ店員の言葉だ。

 そして……9月1日は友人と一緒だったので桐谷の9月1日のアリバイは成立している。


 確かに達也は岐阜県に帰郷していた。電車で岐阜まで2時間以上掛かるため可能性は低い。まあこの辺りはひとつづつ潰していく他ない。



 ★☆

 達也は凛ももちろん好きだったが、いつもニコニコ接してくれる愛を妹のように思い、大切な存在だった。それなのに凛からの容赦のない言葉に何かが壊れて行くのを感じていた。

 確かに誰が考えても凛に強姦してくれと頼まれたからと言っても、日頃顔見知りで仲良し愛ちゃんを強姦するなんて常軌を逸しているとしか思えない行為。 



「凛は傲慢な女の子なので敵も多かったかも知れません。それは私にだけ見せた顔かも知れません。好きな人には優しかったと思いますが……」


 この言葉からも分かるように達也は凛に対して、ひょっとしたら憎しみめいたものをこの頃から感じていたのかも知れない。


 達也は凛をず~っと思い続けてはいたが、只々自分の思い通りに操る事しか考えない、優しさの一欠片もない凛に、可愛さ余って憎さ100倍の境地に陥っていた可能性は捨てきれない。



「僕もあの日は岐阜のおばあちゃんの家に行っていておりませんでしたので……でも、凛は男子生徒の憧れでした。高根の花的存在ですが、凛はまさしく高根の花で近寄りがたい上に傲慢な女王様タイプとでも言うんですかね?ズバリ!『あなたなんか』見下すような態度を取る女の子でした。中学までしか一緒に学校に通えませんでしたが、その後の凛の事も知っていますから……凛は成績優秀なので進学校に入学して僕は工業高校でした」


 この言葉からも分かるように凛の冷たい性格を、達也は只々冷めた気持ちで見ていたのかも知れない。


 ★☆

 田口が凛の竹馬の友達也に会いに行った時に達也は、この一連の事件のカギを握るであろう女性亜美の事をこの様に話していた。


「夫清が最も愛した女性と偶然会ってしまい、それで……相手の女性も懐かしくて何度か会ったらしいのです。こうして夫清が変わってしまったと、凛の母が養母に愚痴っていたみたいです」


「まさか……名前は亜美という女性じゃないんですか?」


「そうです。確かにそうです。凛が亜美という女性だと言っていました」


「全く上品そうな顔でとんでもない女ですね」


 それでも…冷たく捨てられた形の凛の父清と再び大樹の母亜美は、どこで再会したのだろうか?そうも容易く偶然には会えないと思うのだが……。


 ひょっとしたら2人の関係は水面下で秘かに続いていたのかも知れない。


 亜美という女も全く掴みどころのない女だ。あんなに愛した男清をいとも容易く捨てて、大学時代には新しい彼氏が出来た。


 確か……丁度あの時、清は泉と別れても亜美と一緒になるつもりだった。だが、亜美が太蔵の子を身籠ってしまった事で、2人の関係にひびが入ったという事は十分に考えられる。


 だから……亜美が清を捨てたのではなく、亜美が太蔵の子を身籠ってしまった事で、2人の関係にひびが入って別れたと考えるのが妥当だろう。


 大学生となった亜美は清と別れて意気消沈しているかと思いきや、美しい亜美はたちまち学生の注目の的となり、その中の一人と付き合いだした。だが……子持ちだと分かり亜美の元から去った。だから……こぶつきでも良いと言ってくれる稔と結婚したという事なのか?

 

 そこら辺の経緯は憶測でしか測れない。

 

 こうして清は亜美の事を忘れるために泉と結婚した。何故かというと、泉は先輩夫婦の妹という事もあり、やむを得ず清が結婚に踏み切ったという事も十分考えられる。


 愛のない結婚生活の中で亜美から突如連絡が入ったのか、清が我慢できずに電話したのか定かではないが、こうしてまた愛は復活した。


 それか……秘かに愛は進行していた。 

 

 これはあくまでも憶測だが……。

 

 この複雑な恋愛模様の中で何が起こっていたのか?もっと詳しく調べる必要があると確信した田口だった。




 






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