デジタル・ナイトメア

ケーロック

第1話 ようこそ!デジタル・ナイトメアへ!

夜の静けさを破るように、巨大なビルの一室に灯りがともる。その部屋の中央に置かれた円形のテーブルには、最新のVRヘッドセットが並べられていた。椅子に座る青年の名はアキラ。若干二十歳の彼は、プログラマーとしての才能を持ちながらも、まだ未知の世界に挑戦することへの興奮を隠しきれないでいた。


「デジタル・ナイトメア」。その名前を聞いただけで、ゲーマーたちの心を揺さぶるこのゲームは、現実と仮想現実が融合した究極の没入型オンラインゲームである。ベータテストのために抽選で選ばれた100名が、今日この施設に集められたのだ。アキラは、その選ばれし者の一人であり、特別な期待と興奮を胸に抱いていた。


「すごいな、これが最新の技術か…」


アキラはVRヘッドセットを手に取り、その精巧な作りに見入る。彼はプログラムの中身に興味津々でありながらも、その先に待つ未知の体験に心を踊らせていた。静かな部屋に響くのは、彼の息づかいと、機械が発する微かな音のみ。


施設の説明は事前にメールで届いていた。各グループは10名ずつ10部屋に分けられ、それぞれの部屋でゲームをプレイすることになっている。アキラは自分がどの部屋に割り当てられるのかを確認し、指示された通りに行動した。セキュリティは厳重で、まるで秘密基地のような雰囲気が漂っている。


アキラの割り当てられた部屋は、モダンなデザインが施されたシンプルな空間だった。彼は自分の席に着き、周囲を見渡す。まだ他の参加者は来ていないようで、部屋にはアキラ一人だけだった。


「さて、始めるか。」


アキラは深呼吸をして気持ちを落ち着け、VRヘッドセットを装着した。視界が暗転し、次の瞬間、目の前には壮大なデジタルの世界が広がっていた。鮮明なグラフィックとリアルなサウンドが、彼を現実から完全に切り離す。


ゲームの序盤は、プレイヤーが基本的な操作を学ぶチュートリアルから始まる。アキラはキャラクターの動かし方や戦闘の基本をマスターしながら、次第にゲームの世界に引き込まれていった。仮想現実とは思えないほどのリアルな感覚が、彼を興奮させた。


「なんだ…これは…本当にゲームの世界なのか?」


アキラの視界に広がるのは、青く澄んだ空と広大な草原。風が頬を撫でる感触や、草の香りまでもが現実のようにリアルだ。アキラは一瞬、自分が本当にゲームの中にいることを忘れてしまいそうになる。


アキラの前に現れたのは、ゲームの案内役であるAIキャラクター。彼女は親しみやすい笑顔でアキラに話しかける。


「ようこそ、『デジタル・ナイトメア』の世界へ!まずは基本的な操作を学びましょう。」


AIの指示に従い、アキラは視点を動かすために頭を軽く振ったり、手を伸ばしてメニューを選択したりする。すべてが直感的で、まるで自分の体をそのまま使っているかのようだ。


次に、アキラは近くに置かれた剣を手に取るよう指示される。手を伸ばすと、剣の感触が手に伝わり、その重みまで感じられる。AIが教える通りに振り下ろすと、目の前の木製の人形が見事に斬られた。アキラはそのリアルさに驚嘆する。


「これ、ヤバいな…本当に斬った感触があるぞ。」


チュートリアルを終えたアキラは、広大なフィールドに放たれる。目の前には見渡す限りの大自然が広がり、遠くには巨大な山脈がそびえ立つ。アキラは興奮を抑えきれず、足早に探索を始めた。


しばらく歩いていると、森の中から奇妙な音が聞こえてくる。茂みが揺れ、何かがこちらに向かってくる気配がする。アキラは剣を構え、身構える。すると、茂みから現れたのは一匹のオオカミ。だが、その姿はただのオオカミではない。目は赤く光り、鋭い牙が露出している。


「こいつが…クリーチャーか…!」


オオカミが唸り声を上げ、アキラに向かって突進してくる。アキラはとっさに剣を振りかざし、オオカミの攻撃をかわしつつ反撃に転じる。剣がオオカミの体に当たり、リアルな感触とともに血が飛び散る。アキラの心臓は激しく鼓動し、全身にアドレナリンが駆け巡る。


「はは…なんてリアルなんだ…」


アキラは倒したオオカミの死骸を見つめつつ、息を整えた。周囲に目を凝らすと、遠くに何かが見える。それは、いくつかの建物が集まった街のシルエットだ。アキラは好奇心に駆られ、そちらへと足を進めることにした。


「よし、行ってみるか…」


近づくにつれて、街の詳細が徐々に明らかになってくる。街は高い石壁で囲まれており、入口には頑丈な鉄の門が備えられている。門の上には見張り台があり、いくつかの兵士が警戒を怠らずに立っている。アキラが門に近づくと、兵士の一人が声をかけてきた。


「ようこそ、旅人。この街へは初めてか?」


アキラはうなずき、兵士に軽く挨拶をしてから門をくぐる。門を越えると、目の前に広がるのは活気に満ちた市場だ。道端には露天商が並び、野菜や果物、手作りの工芸品などが売られている。商人たちは威勢よく声を上げ、買い物客たちが行き交っている。


「本当によく出来ているなー。街なんて、どう見ても本物にしか見えない。人も誰がNPCで誰がプレイヤーか一見しただけじゃ分からないぞ。」


アキラは市場を抜け、街の中心へと進む。中心には大きな広場があり、広場の中央には噴水が設置されている。噴水からは澄んだ水が勢いよく吹き上がり、周囲には子供たちが楽しそうに遊んでいる。噴水の周りにはベンチが並び、人々が休息を取っている姿が見える。


広場の一角には、鍛冶屋が営む店があり、金槌の音が響き渡る。鍛冶屋の前には、剣や盾、鎧などの武器や防具が展示されており、冒険者たちが興味深そうに品定めをしている。


広場を離れた先には、宿屋と酒場が並んでいる。宿屋の看板には「旅人の宿」と書かれており、その入口には花が飾られている。アキラは宿屋の中に入り、暖かい雰囲気に包まれる。宿屋の主人がカウンターに立ち、旅の疲れを癒すために訪れた客たちに親しげに声をかけている。


隣の酒場からは賑やかな音楽と笑い声が聞こえてくる。酒場の中は明るく、木製のテーブルや椅子が並べられ、多くの人々が酒を楽しんでいる。バーテンダーが巧みにグラスを磨き、カウンターには様々な酒瓶が並んでいる。


アキラはしばし街の様子を楽しみながら、次なる冒険の準備を進めることにした。この街での出会いや情報が、彼の冒険をさらに広げる鍵となることを期待しつつ。




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